第三章:血の契りと、永遠の沈黙
夜が明ける頃、康夫は疲れ果てて眠る瑠美の横顔を眺めながら、手元にあるタブレットを操作していた。画面には、先ほどまでの行為が余すところなく記録されている。
「これで、もう逃げられないよ。瑠美さん。君はもう、修くんの妻でも、小春の母親でもない。私の、生きた人形だ」
康夫は、以前の盗撮動画をその場で消去した。
今や、それ以上の「証拠」と「絆」を彼は手に入れたのだ。
瑠美が目を覚ました時、彼女の瞳には以前のような知性の輝きはなかった。
ただ、康夫の顔色を伺い、彼の望む振る舞いを探る、従順な雌の光だけが宿っていた。
数日後、自宅に戻った彼らを待っていたのは、修のさらなる栄転の知らせだった。
「瑠美!今度は海外事業部の統括に選ばれたよ。康夫さんの助言通り、新しい環境に移ってから本当に運が向いてきた!」
大喜びで瑠美を抱きしめる修。
その腕の中で、瑠美は背後に立つ康夫と視線を合わせた。
康夫は、満足げに頷き、口角を上げた。
修の出世は、康夫が裏で根回しした結果でもあった。
修を忙しくさせ、海外への長期出張を増やせば増やすほど、瑠美と過ごす時間は康夫のものになる。
「おめでとう、修くん。これも瑠美さんの内助の功だね」
康夫は優しく修の肩を叩き、その手でさりげなく、瑠美の腰の曲線に触れた。
修は気づかない。
自分の愛する妻が、尊敬する義父の種を宿している可能性にさえ。
瑠美は、修の背中に手を回しながら、心の中で静かに呟いた。
(ごめんなさい、修。でも、これが私たちの『家族』の形なの……)
康夫の心理的包囲網は、もはや鉄壁だった。
脅迫から始まった関係は、いつしか共依存という名の地獄へと昇華し、秋山家は表面上の幸福を装いながら、義父という名の独裁者によって支配される「歪んだ楽園」へと完成していった。
窓の外では、新しい生活を祝うような晴天が広がっている。
しかし、その光が届かない家の中では、康夫の影が、二人の獲物を永久に離さないように、深く、重く、根を張っていた。




