ひたりごと 〜シナモンロールのような君へ〜
その日になると、私は毛布を一枚、押し入れの奥から引っ張り出す。
一人で使うには明らかに小さすぎるけど、それでも、捨てることができなかった。
ソファに毛布を広げると、真ん中に少しだけ色褪せた部分がある。
この丸い跡は、あの子の席だ。
私はそこを避けるようにそっと腰を下ろした。
膝の上に置いた紙袋を開ける。
その瞬間甘い匂いが私の鼻をくすぐる。
「やっぱり、そっくりだな〜」
そう言いながら、少しだけ笑ってしまう。
シナモンロール。
丸まって寝るその姿があまりにそっくりだったから、シナモンと名付けたあの子。
今はもういないあの子。
あれから、何年も経った。
思い出して泣いてしまう、なんてことはもうないけれど。
毛布とシナモンロール。このちょっとした儀式は、ついやってしまう。
「シナモン……」
君はその名前を、気に入っていたのか、いなかったのか。
一口、甘い香りを口に含みながら、私は思いを馳せる。
「お空、今日も綺麗だよ?」
窓の外に視線を向ける。
あの子がいた頃、夜はよくこうして星空を眺めていた。
隣でボーっとしている、その時間がどうしようもなく恋しかった。
「流れ星、見えるかな?」
いつも、そう言っていた私。
見えたことなんて、なかったのに。
私は空を眺めたまま、毛布を指先でなぞる。
その感触は、まるであの子がそこにいるようで――
――その時だった。
空の奥で、ほんの一瞬、光が走った。
「あ……!」
それはあまりにも短くて、儚い煌めき。願い事を考える暇なんて、なかった。
胸の奥が、きゅっとなる。
「……見えたよ」
いない君へ。
私は小さく笑った。
この感動を、できることなら君と味わいたかった。
私はもう一口、シナモンロールを齧る。
泣けるような甘さが、体の奥まで染み渡っていく。
――君のことを忘れませんように。
人知れず呟いた願い事が、今年も夜に溶けていった。
――アナタには大切だった思い出がありますか?




