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ひたりごと 〜シナモンロールのような君へ〜

作者: 夜長月虹
掲載日:2025/12/27

 その日になると、私は毛布を一枚、押し入れの奥から引っ張り出す。

 一人で使うには明らかに小さすぎるけど、それでも、捨てることができなかった。

 ソファに毛布を広げると、真ん中に少しだけ色褪せた部分がある。

 この丸い跡は、あの子の席だ。

 私はそこを避けるようにそっと腰を下ろした。

 膝の上に置いた紙袋を開ける。

 その瞬間甘い匂いが私の鼻をくすぐる。


「やっぱり、そっくりだな〜」


 そう言いながら、少しだけ笑ってしまう。

 シナモンロール。

 丸まって寝るその姿があまりにそっくりだったから、シナモンと名付けたあの子。

 今はもういないあの子。

 あれから、何年も経った。

 思い出して泣いてしまう、なんてことはもうないけれど。

 毛布とシナモンロール。このちょっとした儀式は、ついやってしまう。


「シナモン……」


 君はその名前を、気に入っていたのか、いなかったのか。

 一口、甘い香りを口に含みながら、私は思いを馳せる。


「お空、今日も綺麗だよ?」


 窓の外に視線を向ける。

 あの子がいた頃、夜はよくこうして星空を眺めていた。

 隣でボーっとしている、その時間がどうしようもなく恋しかった。


「流れ星、見えるかな?」


 いつも、そう言っていた私。

 見えたことなんて、なかったのに。

 私は空を眺めたまま、毛布を指先でなぞる。

 その感触は、まるであの子がそこにいるようで――


 ――その時だった。


 空の奥で、ほんの一瞬、光が走った。


「あ……!」


 それはあまりにも短くて、儚い煌めき。願い事を考える暇なんて、なかった。

 胸の奥が、きゅっとなる。


「……見えたよ」


 いない君へ。

 私は小さく笑った。

 この感動を、できることなら君と味わいたかった。

 私はもう一口、シナモンロールを齧る。

 泣けるような甘さが、体の奥まで染み渡っていく。


 ――君のことを忘れませんように。


 人知れず呟いた願い事が、今年も夜に溶けていった。

――アナタには大切だった思い出がありますか?

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― 新着の感想 ―
大切な思い出は、実は言葉にするのは特別な瞬間ですよね。文字文章だとすらっと出来る感覚ありますけど、言葉になると重みが増すというか、誰に向けているかで重さが変わってきますね。言葉で言う前に、文章で書き残…
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