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うちの悪役令嬢はヒロインよりも愛らしい  作者: らんか


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5. 悪役令嬢の涙


 ベルモート様は何処に行ったのか。

 私は、思いつく限りの人気の少なそうな場所を、あちこちを探し回る。

 すると、裏庭の、以前私が考え事をする為に座っていたベンチに腰掛けているベルモート様を見つけた。


「ベルモート様!」


 私から見て背を向けて座っていたベルモート様に、私は思い切って声をかけた。

 私の声に、一瞬背中をビクッと震わせたあと、ベルモート様は、振り向きもせずに返答した。


「わたくしに何か?」


 その声は毅然としているも、どこかいつもと違っている。

 違和感があり、顔を見て話したくてベルモート様の正面に回ろうとすると、ベルモート様は慌てて顔を背けた。

 

 あ……もしかして、泣いてた?

 声に違和感を感じたのは、いつもより、やや低く、微かに震えていたから……


 二の句が継げなくなった私に気付いたベルモート様は、ハンカチで涙を拭いたあと、いつもの何事にも動じない、無表情な顔で私を見た。


「貴女……イグラール伯爵家の方でしたね。名前は……」

「アリッサ・イグラールです」


 ベルモート様にとって、私はモブ。

 名前を覚えてなくても仕方ない。

 そう思って先に名乗り出た。


「ええ、そうでしたわね。そのイグラールさんが、わたくしに何か御用ですか?」


 気丈に振舞っているベルモート様だが、目がまだ少し赤い。

 さっきの殿下たちの態度が、よほど傷ついたのだろうか。


 でも、殆ど会話をしたことのない、モブの私が、この件に触れていいのかと思うと躊躇し、全く違う話をふる。


「あ、あの。お昼ご飯はもう戴かれました? 私、サンドウィッチを多めに買ってしまったので、ご一緒して頂けませんか?」

「……」


 ベルモート様は、訝しるように私を見る。

 まぁ、そうだろう。わざわざこんな所にサンドウィッチを持ってきて食べるなんて、普通はしない。


 私は少し溜息を吐いた後、観念した。


「申し訳ございません。先程の食堂での様子が気にかかり、つい、追いかけてきてしまいました」


 私の言葉に、今度はベルモート様が溜息を吐いた。


「貴女もわたくしが、誰かを使ってあの女性徒を傷つけたと?」

「いえ! そんな事は思っておりません」

「本当に?」

「はい!」


 そう言い切る私を不思議そうな顔をして見る。

「何故?」

「え?」

「何故、貴女はそう言い切れるのです? 貴女はわたくしの事、何も知らないでしょう? 本当はわたくしの指示かもしれなくてよ?」


 ベルモート様の言葉に私はどう答えたらいいのか分からず、一瞬言葉に詰まってしまう。

 でも、ここでちゃんと伝えないと、もう二度とベルモート様と向き合って話をする事が出来ないような気がした。


「ベルモート様はわたくしの憧れです。いつも毅然とした態度で、周りに流されず、礼儀作法も完璧で頭脳明晰。そんな方が、あんなつまらない事をするとは思えないんです」

 

 ベルモート様は、そう言った私を見て、少し悲しそうな表情をしながら話し始めた。

「アリアさんに思うところがあるのは本当よ。でも、人を使って卑劣な行いをするなんて、わたくしの矜持が許さないわ」

「はい。ベルモート様は誇り高き方だと思っております。するならもっと正々堂々としたやり方で、こんな下劣なやり方をとるとは思いません!」

 そう言った後、なんか違うなと私は慌てて訂正する。

「い、いえ、あの、ベルモート様が人を陥れるような真似をするはずがないという意味です!」

 その言葉に目を丸くし、私に対する警戒心が少し和らいだような気がした。

 ベルモート様が仕草で隣に座るのを許可してくれたので、私は「失礼します」と一声かけてからベルモート様の隣に座る。

「わたくしね、婚約者なのにまともに会話もした事がないの」

 座った私を見てから、ベルモート様は静かにそう言った。

「え?」

「他の方も、わたくしとはあまり話したくないみたい。貴女はどう?」

 そう言って、弱々しげに私を見る。

 こんな弱気なベルモート様は初めて見た。


「わたくしはベルモート様とお話してみたかったです。でも、下位の者から話しかけにくいので、さっきも勇気は要りました」

 そう言って、ベルモート様に笑顔を向けた。

「ベルモート様から話しかけて下さったら、みんなももっと話しやすくなるかもしれませんわ。少なくとも、わたくしは大歓迎です」

 そして私は思い切って、思っていた事を口にした。


「そもそも、何故あのような人目の付く場所で婚約者であるベルモート様を責め立てるのでしょう? 婚約者に対する配慮の欠片も無く、はっきり言って非常識です。まして、大勢でベルモート様おひとりを囲んで攻撃するなんて、紳士の……、いえ、男の風上にもおけません!」

 ベルモート様は、私の言葉に驚いた顔をした後、ようやく少し笑顔を見せてくれた。


「ありがとう」

「はい!」

 グゥ〜……

 

ベルモート様がそう言ってくれた事がとても嬉しくて、思わず大きく返事をすると、私のお腹も一緒に鳴った。


「……」

「……」


 思わずベルモート様と顔を見合わせ、くすりと笑う。


「お腹空きましたね。サンドウィッチ食べましょう! ベルモート様もどうぞ」


 そう言ってベルモート様にもサンドウィッチを勧める。

「……ありがとう。頂くわね」

 今度はちゃんとサンドウィッチを受け取ってくれて、私たちは初めて一緒に昼食を共にした。


 こうして私は、悪役令嬢ことモニカ・ベルモート公爵令嬢と、少なからず関わりを持つ関係となった。

 これは、登場すらしないモブから、登場するモブAに昇格したのだろうか。


 

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