37. 審議③
陛下の強い言葉に、ウィリアム殿下は唇をかみしめながら俯く。
そして、陛下はその横にいるボルグとユリウスに視線を移す。
「お前たちはどうだ? お前たちはウィリアムの側近でありながら、ウィリアムの行動を諌める事もせず、同調していたと聞く。ユリウスよ、まことか?」
「はい。申し訳ございません。側近でありながら本分を全うせず、同じように殿下の婚約者であるベルモート公爵令嬢を悪と決めつけておりました」
陛下の言葉を受け、ユリウスが認める。陛下はユリウスの返答を聞き、頷いた。
「ボルグよ、お前はどうだ。そなたは辺境伯の息子。騎士であるお前は、あの場でいとも容易くモニカをひれ伏せた。己の所業に思うところはないか?」
陛下にそう言われて、ボルグは下唇を噛み締め、身体を震わす。
「わ、私は側近として、ウィリアム殿下に仇なす者からお守りしようと……」
「力のない無抵抗な者を、一方的に制圧する事がか? それでお前は何も感じぬのか?」
ボルグの発言に陛下は、冷たい視線を向けながらそう聞いた。
ボルグは、さらに身体を震わせ、それ以上の言葉を発する事が出来ない。
「陛下、御前失礼します!」
トリドール辺境伯であり、辺境伯騎士団長でもあるボルグの父親がその様子を見兼ねて言葉を発し、いきなりボルグを殴りつけた。
「ボルグ! 情けない! お前は自分のした事が分からないのか!? 無抵抗なか弱い女性に対して一方的な暴力を振るったのだ! お前の騎士道精神はどこにいった!? 今のお前に騎士を名乗る資格などない! お前はただの無法者だ! 我がトリドール辺境伯騎士団に、そのような者はいらぬ!」
「ち、父上……」
「父と呼ぶな! お前のような無法者にそう呼ばれるなど我慢ならぬわ!」
二人のやり取りを暫く見ていた陛下は、スッと手を挙げた。
「もうやめよ。トリドール辺境伯」
そう言って、ボルグを見る。
「ボルグ・トリドール。並びにユリウス・バーミケル。お前たちをウィリアム第三王子の側近から外す事とする」
陛下の言葉に、ユリウスは粛々と頭を下げて受け入れるが、ボルグは弾かれたように顔を上げ、驚愕する。
「ボルグよ、今のお前に騎士を名乗る資格はない。一から鍛えなおすがよい。トリドール辺境伯よ、任せてよいな?」
「はい! 領地に連れて帰り、その捻くれた根性を鍛えなおし、心を入れ替えるまで領地から一歩も出さない事をお約束いたします!」
陛下の言葉に、トリドール辺境伯は丁重にそう答えた。
「あ、あの……陛下、発言をお許し頂きたく……」
ここでおずおずといった様子で、フロースト男爵がそろりと手を挙げながら発言した。
「なんだ、フロースト男爵。言ってみよ」
陛下の許しを得て、ホッとした様子でフロースト男爵は話し出した。
「は、はい。先程のウィリアム殿下の件なのですが、うちにはすでに跡取りの息子がいまして……その……アリアと結婚されても継ぐものが……養女の件もご一考かと……」
言葉を濁しながら言っていても、暗に殿下がフロースト男爵家に婿入りしても、男爵家は息子がいるから爵位は渡せないといったところか。
先程のアリアの養女の件を引き合いに出して、別のところに行ってもらいたいという気持ちがありありと出ている。
「フロースト男爵よ。ウィリアムが入り婿に決定しているアリアを、養女とする家などあるわけがないだろう? それこそ、家門乗っ取り行為に当たる卑劣なやり方だ。お前はそれを我に承諾せよと申しているのか?」
フロースト男爵の言葉に、陛下は低い声でそう返答する。
それはそうだ。アリアを養女としたところで、結婚相手がウィリアム殿下ならば、普通はその家の後継者はウィリアム殿下に譲らなくてはならなくなる。
血の繋がらない者たちがその家を継ぐ事になるのが目に見えていて、誰が養女に迎え入れるのか。
それこそお家乗っ取りは、御法度となる一大事だ。
その事にフロースト男爵は気付いているのだろうか?
陛下に冷たくそう返答された男爵は、ようやくそれに思い至ったのか、ハッとした表情をした。
「あ……申し訳ございません! そんなつもりではなかったのです! しかし、うちにはもう後継者がいるので、どうすればいいのか分からなかったものですから……!」
フロースト男爵の言葉は、あくまでも自分の後継者は息子である事を譲れないといった思いが伝わってくる。
娘夫婦に家督を譲ったら、後継者であった息子は平民になるしかなくなるのだ。男爵としても、それは忍びないといったところだろう。
しかし、あわよくばと、娘を野放しにしていた結果なのだ。
正妻は自分の息子でなく、まさかの義娘婿に家督を奪われるなど考えもしていないだろう。そして、その息子も自分にしわ寄せがくるとは思いもしていないはずだ。
アリアと殿下が結婚するのは二年先。それまでアリアは家で肩身の狭い思いをするだろう。
「ウィリアムは男爵家に婿として入ると同時に王族籍から抜けるのだ。あとはその方たちの一族で後継者を誰にするか決めればよい。それに関して我が間に入ることはない」
陛下がそう言うと、その言葉にさらに驚いたように殿下は陛下を凝視した。
「ち、父上! 本気ですか!? 王族籍から抜けるだけでなく、男爵家を継がなければ僕は平民となるのですよ!? あんまりではありませんか!」
ウィリアムの叫びに、陛下は呆れた表情をした。
「お前が選んだ結果だろう。王族としての責務も理解せず、我が決めた婚約を自分勝手に破棄したのだ。それほどの強い意志があって、その娘を選んだのであろう? ならばその意思を全うせよ。お前が王族籍から抜ける事は決定事項だ」
「そ、そんな……父上、僕はそんなつもりでは……」
ウィリアム殿下は、ここにきてようやく自分のしでかした事の重大さに気付いた様子で、その場に座り込んでしまった。




