34. 事件の真相④
モニカ様は、謝罪し、頭を下げているユリウスをジッと見た。
そして小さく息を吐くと、ユリウスに声をかけた。
「頭をあげてください、ユリウス・バーミケル様。あなただけのせいではない事は分かっております。ただ……すぐには許す事は出来ません」
モニカ様は静かに言った。
「今まで、何度もわたくしは知らない、わたくしではないと申し上げておりました。ですが、わたくしの言葉は誰にも届かなかった。周りの目がどんどん冷たく、わたくしの存在意義さえ否定されるような感覚。それがどんなに恐ろしい事なのか、これは誰に分かるものでもないと思っております。ですが、ウィリアム殿下の婚約者だという肩書きが今までわたくしを支えていたのです。でも、その支えも本日でなくなりましたが」
そう言って、モニカ様が私に視線を移した。
「でも、代わりにわたくしを信じてくれる友を得る事が出来ました。その友のおかげで、わたくしの汚名は晴れ、真実を知る事ができたのです。ですので、もう殿下の婚約者という肩書きは要りません」
そして今度はウィリアム殿下に視線を向けた。
「ウィリアム殿下、さきほどの婚約破棄の件、謹んでお受けいたします。長い間、至らない婚約者にてお気持ちを煩わせてしまい、申し訳ございませんでした」
そう言ってモニカ様は深々と頭を下げた。
ウィリアム殿下は、そんなモニカ様を一瞥し、また顔を背ける。
「国王陛下並びに王妃様、ご期待に沿うことが出来ず、誠に申し訳ございませんでした。わたくしはウィリアム殿下のお申し出を謹んで受けさせて頂きます」
モニカ様は最後に両陛下にそう言って、お二方に深々と謝罪する。
そこにはモニカ様の強固たる意思が、はっきりと現れていた。
「ベルモート公爵令嬢、頭をあげよ。此度の事に、そなたに非はない。あるのはそこで拘束されているバカ息子と、それに同調してそなたを貶めた者たちだ」
「ち、父上!」
陛下の言葉に、ウィリアム殿下が声を荒らげた。
「控えよ! ウィリアム。お前はまだ分からぬのか。お前の王族としての発言力、影響力は絶大だ。我々の言葉ひとつで、貴族たちや国民の一生が左右される。だからこそ我々王族は、言動に慎重にならねばならんのだ。それなのに、お前はその重みを何一つ理解せず、無実の者を貶めた。あの映像が捏造されたものではない事くらい、本当は気付いておるのだろう? 何故自分の過ちを認めようとせず、恥の上塗りを重ねるのだ」
陛下は身体中から冷気が発しているような、冷たい視線を殿下に向けながらそう告げた。
「お前の望む通り、ベルモート公爵令嬢との婚約破棄は認めよう」
「ほ、本当でございますか!?」
冷たい視線のままそう言った陛下の真意を図る事もせず、ウィリアム殿下は驚きながらも嬉しそうな表情になる。
その姿に、一層目を細め、落胆と諦観を持った視線で陛下は、衛兵たちに指示を出す。
「衛兵たち、ウィリアムらを連れて行け。今後のことは城に戻ってから決めることとする」
「え? このままですか? 父上! 拘束を解いて下さい!」
ウィリアム殿下の叫びを無視し、陛下はそのまま衛兵たちに、殿下とボルグを連れ出すよう命じた。
ユリウスは拘束はされずとも、自らの意思で殿下たちと共について行った。
「モニカよ。そなたには本当にすまない事をした。これからの事はおって話すとしよう」
陛下はモニカ様にそう言うと、会場にいる人達を見回した。
「さて、卒業生並びに来場の皆には、神聖なる卒業式を中断し、見苦しい姿を見せてしまった事を謝罪する。そして、卒業生諸君、卒業おめでとう! 卒業生の皆には、輝かしい未来が訪れる事を願い、祝いの言葉と代えさせて頂く。我々はこのまま退室するが、引き続き卒業式を進めてほしい」
そう言って、両陛下は退室していった。
そして、両陛下の側に控えていた宰相様が私とモニカ様のもとに来られる。
「ベルモート公爵令嬢、イグラール伯爵令嬢。あなた達もお城に来てほしいとの陛下からのお言葉です。私と共に来ていただきたい」
私とモニカ様は顔を見合わせて頷く。
「「わかりました」」
私たちも講堂を後にし、宰相様のあとをついて行く。
馬車にてお城に着き、案内された部屋の中で待機するよう説明された。
宰相様は退室する際、ふいに振り向いて私たちを見る。
「ベルモート嬢。此度の事、息子に代わり、改めて謝罪させて頂く。父親として、あれにはきちんと責任を取らせるつもりだ。貴女に対するユリウスの今までの所業、本当に申し訳なかった」
そう言って、急に深々と頭を下げたので、私たちはびっくりした。
「宰相様、頭をお上げ下さいませ。ユリウス様は、あの中にあって、冷静な判断をされる方でした。途中で違和感に気付き、ご自分の間違いを誰よりも早くお認めになり、わたくしに謝罪してくれたのです。ユリウス様の謝罪は既に受け取っておりますゆえ、お気になさらないで下さいませ」
モニカ様がそう言ったのを聞き、宰相様は少しは安堵したようだ。
そして私の方も向いて、微笑んだ。
「イグラール嬢、君の慧眼には驚かされたよ。息子にチャンスを与えてくれた事、感謝する」
そう言って、今度こそ宰相様は退室した。




