23. 生徒指導室へ
「まったく……これはどういう状況だ?」
ロイド先生が呆れながら教室に入ってきた。
ユリウスが説明しようとするも、ロイド先生はやんわりと断る。
「まぁ途中から見ていたから、だいたいは分かるが」
そう言って、クレアを見る。
「クレア・バスチアン。生徒指導室まで俺と来てもらう。それから、ウィリアム殿下を始めとする、そこの生徒会メンバーもだ」
ロイド先生にそう言われたクレアは、これ以上ないくらいに真っ青だ。
ウィリアム殿下たちも、バツが悪そうな表情のまま、ロイド先生の後につく。
何故か、側近の一人のマイケルはクレアと同じくらい顔色が悪く、妙に焦っていたのが気になった。
でも良かった。これでモニカ様の疑いは完全に晴れそう。
私は、ルシルにアイコンタクトでお礼を伝えた。
ルシルは得意顔で、頷いている。
私はモニカ様のところに向かおうと、彼らに背を向けた。
すると、ロイド先生の鋭い声が飛んでくる。
「アリッサ・イグラール。何処へ行く? 言わなくても、もちろん君も来るに決まっているだろう」
「……」
ですよね……名前、呼ばれないから、いいのかな~って思ったんだけど、やっぱりね。
その私を、ルシルやモニカ様を始め、教室のみんなも当然とばかりに頷いていた。
ガッカリしながら、ロイド先生たちと共に生徒指導室に行こうとする私を、ソフィアが呼び止めた。
「アリッサ様、ありがとうございました。怖かったけれど、何故相手の顔を覚えていなかったのかが分かって、スッキリしましたわ」
ソフィアはそう言って、私に頭を下げる。
「いえいえ! こちらこそソフィア様には感謝しております! ソフィア様の勇気がなければ、解決の糸口は見つからなかったのですから」
私もお礼を伝えた。
その言葉に、晴れ晴れとした表情で、ソフィアも自分のクラスに戻って行った。
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ロイド先生に連れられてアリッサ達が教室を出たあと、教室内はさっきとは違う興奮でザワザワしている。
教室に戻ったルシルの耳に、誰かを称える声があちらこちらから聞こえてきた。
ロイド先生を呼びに行っていたルシルは、状況がよく分かっていなかった。
不思議に思ったルシルは、近くにいたクラスメイトに声をかけた。
「ねぇ、何だか教室が騒がしいようですが、先程連れて行かれたクレア様たちの事ではありませんの? どうも先程から、皆様、楽しげなのですが……」
ルシルの質問に、声をかけられたある女生徒が、ビックリする。
「えっ!? ルシル様、決まっているではありませんか! あの 珍しい魔導具! あれを作ったのがアリッサ様のお兄様だなんて!」
そう言われて、ルシルは首を傾げる。
「アリッサのお兄様?」
「ええ! 何でもアリッサ様のお兄様が認識阻害の魔導具と、その発見機も発明されたとか! 凄いお兄様ですわよね! お会いしてみたいわぁ!」
そんな事を言い出したクラスメイトに、ルシルは顔色を変えた。
幼い頃からアリッサと友達で、度々イグラール邸にお邪魔していた。
6歳年上のアリッサの兄、フレデリック様は、ルシルにとって、その頃からの憧れの人。
もちろん王国錬金魔導師団に入った事も知っており、優秀な事も分かっている。
けれど、見たこともない魔導具を発明する程の腕前だとは知らなかった。
そして何より……この事でフレデリック様の存在が皆に注目されるだなんて、予想もつかなかった。
ルシルは焦る。
憧れはいつしか、恋に変わっていく。
もちろん、片思いのルシルにはどうにも出来ないが、ライバルはいないに越したことはない。
「駄目ですわよ! フレデリック様はそれはとてもお忙しい方なのですから! お会いする暇などありませんわ!」
必死で諦めさせようとするルシルの発言は、クラスメイトたち、主に女生徒たちには逆効果だった。
「まぁ! ルシル様はアリッサ様のお兄様にお会いした事がありますの!? 何でも王国錬金魔導師団の方とお聞きしましたわ! 一体どんな方なのかしら?」
「とても優秀な方ですのよね!? お年はおいくつなのですか?」
「ご結婚はされてます? 婚約者とかは?」
どうやら、あの魔導具を作ったのがアリッサの兄と知って、クラスメイトの皆、特に女生徒は興味津々のようだ。
「とにかく、フレデリック様はダメです!」
そう言って、ルシルは教室から飛び出した。
「もう! 何故急にあんなにフレデリック様の人気が上がっているのよ~! アリッサったら、一体何を言ったのかしら!」
中での会話もあまり聞こえていなかったルシルは、アリッサが兄の名前を出して話していた内容を知らない。
生徒指導室から戻ってきたら、アリッサを問い詰めてやろうと固く決心しているルシルであった。




