22. 犯人探し④
「この認識阻害の魔導具は、意識されていたら効果はないのです。認識している状態から途中で作動しても何の効果も現れません。クラスメイトの皆さんは、わたくしやクレア様の事を、作動する前からその存在を認識しておりましたでしょう? その状態で途中から姿を消すように認識阻害をする事は出来ないのです。これがこの魔導具の欠点ですね。いつでも効果が現れるようにするのが今後の課題でしょう。意識していても、発動した途端に分からなくするには、もっと視覚的な識別反応を遮断する要素を取り入れて、魔石に……」
「話が逸れ始めていますわよ、アリッサ」
魔導具の改良の事につい考えがトリップし、ブツブツ言い始めてしまった私を、モニカ様が諌めてくれた。
「ハッ! 失礼しました。んん……そ、それで、クラスメイトの皆様には通じなくても、ここにいるただ一人だけはその効果が適用された。それがソフィア様です」
その言葉に、皆は一斉にソフィアを見る。
「ソフィア様は他クラスの人であり、クレア様とは面識がなかった。だから、魔導具を発動しながらソフィア様に近づいたのでしょう」
私の説明に、クレアは青ざめながら、震える声で反論してくる。
「わ、わたくし、知りませんわ! 変な事言わないで下さいまし!」
「では、何故このような魔導具を学校に持ってきているのです? 何か企みを持っていないと、このようなもの、学校には必要ございませんよね?」
私の言葉にクレアは詰まった。
「そ、それは……珍しい魔導具が手に入ったから、みんなに試してみようと持ってきただけ……そう! たまたま持ってきていただけよ!」
「やっぱり、クレア様。その魔導具の効能を知ってたのですね」
「だから! たまたま試したくて持ってきただけだって言ったでしょう!」
認識阻害の魔導具と知ったうえで学園に持ち込んだという言質はとった。
そのクレアの強気な声に、ソフィアが反応した。
「あ! この声! そうです! この声でした! わたくしに拾った魔石を盗んだかのように言い、とりなしの提案をしてきた女生徒は、この方ですわ!」
「なっ!」
ソフィアの断言に、クレアが更に青ざめる。
「認識阻害を使っても、話してしまったらバレるんですよ。声までは変えられないので。これもこの道具の欠点ですよね」
うんうん、とそう言って納得している私に、ユリウスは疑問を投げかける。
「君の説明だと、クレア嬢は日頃から認識阻害の魔導具を持ち歩いている事になる。何故ならヴァリゲン子爵令嬢がこのクラスに来る事など、前もって知っておかないと出来ない芸当なのだからね。それに、何故クレア嬢がそんな事を? ヴァリゲン子爵令嬢が偶然来たとして、すぐに騙そうとするだろうか?」
そうなのだ。
この手段は、偶然を上手く利用しなければ成立しない。
しかし、ソフィアが話した相手を全く覚えていないというのも変な話だったから、もしかしたら認識阻害を使われたのかと予想しただけ。
「それを確かめるのは、わたくしではありませんわ。わたくしは濡れ衣を着せられた方々のお力になりたかっただけですもの」
そう言って、暗にそれは学園の仕事だと伝える。
教室の入口を見ると、すでにロイド先生が待機してくれていた。
多分、途中からこの様子を見ていたのだろう。
私はソフィアが教室に来たと同時に、ルシルに頼んでロイド先生を呼びに言ってもらっていたのだ。
ある学生が、学園に所持不可の魔導具を持ち込んでいることを伝えて、教室まで連れて来て欲しいとお願いして。
これは生徒間で解決するのは難しい。
やはり、学園側に間に入ってもらわないと、後々の証拠が残らなくなる。
何故クレアがそんな魔導具を使用して、モニカ様を陥れようとしたのか。
きっちりとその背景を調べなければ、有耶無耶にされてしまうのだから。
騙されたとはいえ、ウィリアム殿下は暴走して、モニカ様に冤罪を着せてしまっている。
しかも殿下は、他クラスであるソフィアまで疑って、私とグルになって嘘をついたかのように罵声も浴びせた。
この責任も取ってもらわないと。
「それにしても何故君は、クレア嬢がその魔導具を持っていることが分かったんだ?」
ユリウスは不思議そうな表情でみてくる。
そんな魔導具を持っている事など、通常は分からない。ユリウスが不思議に思うのは当然の事だった。
私は持っていた認識阻害魔導具発見機をポケットの中から取り出し、皆に見えるように掲げた。
「これは認識阻害魔導具を発見する魔導具です」
認識阻害魔導具も、それを発見する魔導具も、本来はなかなかお目にかかれない代物。
何故なら、その魔導具は犯罪にも使える為、使用するのに制限が設けられているからだ。
そしてこれらの魔導具は、前世の記憶を頼りに、数年前に私が作り出したもの。ルーク様や兄にももちろん手伝ってもらったけれど。
「認識阻害の魔導具を開発したのも、発見機を開発したのも、王国錬金魔導師団本部主任であるわたくしの兄なのです」
(ゴメン、お兄様。勝手に名前をお借りします)
「私は兄からその魔導具の特徴を聞いておりましたので、おかしいと感じ、認識阻害発動発見機をお兄様にお借りしていたのです」
そう言って、私はにっこりと笑う。
「ちゃんと証明が出来たようで、安心いたしましたわ」
私の言葉を聞いたウィリアム殿下は、バツの悪そうな表情で、そっぽを向いた。




