18. 万全を期す
ルーク・エスポワール大公閣下。
国王陛下の年の離れた弟で、御歳27歳。
魔力が高く、錬金術の才能にずば抜けている。学園卒業と同時に王国錬金魔導師団に入団し、現在は、私が三歳の時にお世話になった団長様の跡を継いだ形で、王国錬金魔導師団長様となっている。
そして、私の婚約者でもあった。
ルーク様は入団当時にはすでに頭角を現し、保護対象であった私の事も聞いていた為、観察する為によく会いに来ていた。
入団当時のルーク様は18歳。その時の私は6歳。
そんな幼い時から知り合い、何故婚約者にまでなっているのか……。
しかも、結構重ための溺愛ぶり。
私がハイレイド王立学園に入学すると聞き、心配で無理やりロイドという偽名を使って、錬金術の講師として潜り込んできたのだ。
そして、見た目は認識阻害機器を使用して、髪色と顔立ちを少し変えてある。
中身が大人の私だから受け止められるが、年相応の子供なら気持ち悪いと泣き叫ぶレベルだと思う。
……まぁ、本人は気付いてないけど。
「ところで、ルーク様、どうして呼んだの?」
「今日、例の防犯カメラが設置されるだろう? アリッサは20ヶ所も設置しろって言ってたけど、そんなに必要かと思って。一応最終確認ってとこかな?」
そう言いながら、私の好きなケーキまでいそいそと出してくれる。
私は喜んでケーキを味わいながら、頷いた。
「もちろん。20個でも足りないと思ってるくらいよ。ちゃんと指定した場所に設置してね。とくに階段は必須よ!」
ケーキを食べていたフォークを、ビシッとルーク様に向けてそう言った。
「もちろん、アリッサの希望した場所にはちゃんと取り付けるよ。でも、なんで階段?」
私はその言葉にドキッとする。
まさかゲームにある、階段落ちネタが現実のものになるかもだなんて言えない。
「危険な場所に設置するのは当然でしょ? 落ちたら大変だもの」
何事もなければそれでいい。
けれど、もしゲームのようにアリアが階段から落ちたなら……?
そして、必ずモニカ様のせいにされる。
その場にいても居なかったに関わらずにだ。
そのための予防措置。
必ず冤罪を覆してやる。
「ルーク様も協力してね」
私の言葉に、眼鏡をかけ直してニヤリとする。
「教師としては、一人の生徒に肩入れするような真似は出来ないよ?」
どの口がそれを言うのか……。
私は、肩に乗せてあったルーク様の腕をパッと払い除ける。
「王国錬金魔導師団長様は、いつから教師に転職なさったのかしら?」
本業を忘れてない? 早く元に戻れば? という気持ちを込めてそう言った。
「冗談だよ、アリッサ。協力するから怒らないでくれ」
他の人の前だととても厳しい婚約者様は、ことのほか私にだけは優しくて甘い。
私はとても頼りになる味方を得て、万全を期した。
****
私が次に向かったのは、錬金魔導部だ。ここは、あの携帯アプリの乙女ゲーム「錬金魔道部~恋の部活動」通称【錬部】の舞台となった場所。
何故私がここに来たかと言うと、先日の魔石事件で、モニカ様が持っていると言った他クラスの生徒が、ここの部に所属している事が分かったからだ。
あの事件から数日後、私はユリウス・バーミケル侯爵令息に、魔石の在処を知っていた生徒は誰だったのか、どういう経緯でモニカ様が持っていると知ったのかを聞き出した。
ユリウス曰く、その女生徒は錬部の部員で、魔石は部室近くの廊下に落ちていたのを拾ったらしい。誰が落としたのか分からなかったが、魔石の色から同じ部のアリアの物ではないかと思ったそうだ。
それでアリアの教室、つまり私たちの教室まで魔石を持ってきた際、クラス内に居た、一人の女生徒が魔石を見て驚いたのだという。
「その魔石、どうなさったの!? 殿下や側近の方々がその魔石を必死で探してらしたのよ!? まさか、貴女……」
そう言われて、その女生徒は自分が盗んだと思われたのではないかと思い、慌てたのだそう。
「ち、違いますわ! 廊下で拾いましたの! どうしましょう……殿下のものでしたのね」
拾った女生徒は、ウィリアム殿下に責められるのではないかと、親切心で拾うんじゃなかったと後悔し始めたらしい。
「あら、それなら婚約者のベルモート公爵令嬢に渡しておきますわ。彼女でしたら、殿下に上手く渡してくださると思いますわよ?」
そのクラスの女生徒がそう言ったので、拾った女生徒はホッとして、即座にクラスのその女生徒に魔石を渡したのだそう。
その帰りに、魔石を探している殿下たちを見かけて、そのまま通り過ぎるのも気が引けたそうで、魔石はベルモート公爵令嬢が持っていると伝えたのだとか。
その時は、自分はもう関わりたくなくて、自分が拾った事は言えなかったらしい。
その話をユリウスが聞いた際、魔石を渡したのは誰かと尋ねたが、知らない女生徒だったのだそうだ。
彼女は、学園に入るまでは領地で暮らしてたらしく、他の貴族との付き合いは少なかったので、学園に知り合いがあまり居ないのだとか。
しかも、その時は疑われて慌てていたので、その女生徒の顔もあまり覚えていないのだと言う。
ユリウスがその話を殿下たちに伝えると、流石の殿下もこれ以上はモニカ様を疑う事は出来ないと思い、それ以上調べなくていいと殿下に調査をストップされたとの事。
それを聞いて、私はますますムカついた。
勝手に疑って、散々罵声を浴びせたくせに、少し調べただけでモニカ様ではないと分かった途端、誰がモニカ様を陥れたのかを調べる事もしない。
もちろん、疑った事について、詫びる事もせず、何事も無かったかのように過ごしている。
人の尊厳を傷つけておいて、知らぬ存ぜぬで終わらせようとするなんて、それでも王族として、人の上に立つ立場の人間なのだろうか。
だから、決めたのだ。
モニカ様を嵌めた人間を見つけてやると。
そして、皆の前で、その人間は勿論、殿下にもモニカ様に謝らせてやると。




