13. 犯人扱い①
「モニカ・べルモート! 聞きたいことがある!」
ウィリアム殿下がそう言って、べルモート様の前に立つ。
そして、今まさにマーブル色の人口魔石を鞄から取り出そうとしていたモニカ様を見て、ウィリアム殿下は、強くモニカ様の腕を掴んだ。
「痛い! 殿下! 何をなさるのですか⁈」
いきなり腕を掴まれたモニカ様は、その拍子に鞄の中から、赤と黄色のマーブル色の人口魔石を机の上に落としてしまった。
「あ! 私の魔石!」
そう叫んだのは、ヒロインことアリア・フロースト男爵令嬢。
そのアリアの言葉を聞いた殿下は、鬼のような形相でモニカ様を睨んだ。
「やっぱりお前の仕業か! アリアが作った魔石が見当たらないっていうから、その辺りを探しに行っていたんだ。そうしたら他の生徒が、お前が持っていると言ってきたのだ! まさか本当に持っていたとはな!」
ウィリアム殿下は、そう言ってモニカ様を押しのけ、机の上にある人口魔石を素早く奪い取る。
「あ!」
ウィリアム殿下に押しのけられたモニカ様は、その勢いに後ろに尻もちをつく形で倒れこんだ。
「モニカ様!」
私はあわててモニカ様に駆け寄ろうとするが、
「来ないで!」
と、素早くモニカ様から叫ばれてしまった。
きっと、私が駆け寄る事で、私まで巻き込まれてしまうのを恐れたのではないだろうか。
そんなモニカ様を、ウィリアム殿下は睨みつけ、鼻で笑った。
「どうしたモニカ・ベルモート。盗んだ証拠を見つけられて観念したか? 全く、お前が仮にも俺様の婚約者などと、屈辱でしかないわっ」
殿下のその言葉を聞いたモニカ様は、顔色を失った。
蒼白な顔面から、こぼれ落ちようとする涙を必死に堪えながら、モニカ様は、何とか声を絞り出す。
「わ、わたくしは、盗んでなんかおりません。気付いたら……鞄の中に入って、いたの……です」
モニカ様は、気丈にも、震える声で懸命に自分の潔白を伝えようとしている。
「はっ! 誰がそんな言い訳を信じると思うのだ!? 誰がどう見ても、お前が盗ったのは明白! 見苦しいぞ!」
鬼の首を取ったように、意気揚々とモニカ様を責めるウィリアム殿下は、まさに水を得た魚のよう。
そんなに自分の婚約者を貶めて楽しいのかと、ウィリアム殿下の人間性を疑ってしまう。
そこに、アリアがウィリアム殿下に近づき、ウィリアム殿下の上着の裾を掴んだ。
「ウィル、もういいです。私の魔石は無事に見つかりましたし……その、モニカさんにも理由があったのかも知れません」
「アリア、やはり君は優しいね。でもね、アリア。これは立派な犯罪だ。簡単に許してはだめなんだよ」
アリアの言葉を受けて、ウィリアム殿下が優しくアリアを諭している。
その後に続くように、側近のマイケルとボルグも会話に加わった。
「そうだよ、アリア! 盗人を許してはダメだ!」
「次は何をされるか、分からないよ! ちゃんと罪を認めさせないと!」
そう言って、モニカ様を睨んでいる。
側近のユリウスだけは、複雑な表情でモニカ様を見、躊躇いながら聞いた。
「本当に君がやったのか? ベルモート公爵令嬢」
その言葉を聞いて、モニカ様は激しく頭を横に振る。
「わたくしは盗んでおりません!」
はっきりとそう言ったモニカ様を見て、ユリウスは考え込んでいる。
「ユリウスはいつも冷静ですね。私も見習わないといけないわ。みんなも、そんなにモニカさんを責めるのはやめてあげて?」
ユリウスの言葉を聞いたアリアが、ユリウスに近寄りながら、そう言った。
そんな2人を見て、ウィリアム殿下がまたモニカ様に攻撃する。
「ユリウス! こんな女の話を真に受けるな! ベルモート! 見苦しいと言っている!」
ウィリアム殿下の叫びに、モニカ様はビクッとして、堪えきれなかった涙が一筋、頬を伝った。
何故こんなにウィリアム殿下はモニカ様にキツく当たるのだろう。
周りのみんなは、何故一方的に、モニカ様のせいだと信じて疑わないんだろう。
見ていたクラスのみんなも、ウィリアム殿下たちと同様に、モニカ様を軽蔑した目で見ている。
そんな中、たった一人で立ち向かうには、余りにも酷な状況だった。
「お待ちください」
もう限界だ。
私を巻き込まないようにしてくれたモニカ様には悪いけど、もう黙って見ていられなかった。
「なんだ、お前。あぁ、この前の……ベルモートの取り巻きになったのか」
そう言ってウィリアム殿下は、私を見下す。
「ウィリアム殿下。お聞きしたいことがあります」
私は殿下の挑発の言葉を無視して、そう伝える。
殿下は面白くなさそうな表情をしながら、
「なんだ」
と返事をした。
「その魔石を、モニカ様が持っていると教えてくれた人は誰でしょう?」
「何故そんな事を聞く?」
「その人は、何故モニカ様が持っている事を知っていたのか、疑問に思いまして。モニカ様さえ、ついさっき、鞄の中にその人口魔石が入っている事に気付いたばかりですのに、何故その教えてくれた方は知っていたのか……」
私の言葉に、ユリウス様が反応した。
「モニカ嬢がついさっき気付いたというのは、どういう事ですか?」
「わたくしは、モニカ様が困惑しながら鞄の中を見ているところを目撃しております。不思議に思ってモニカ様に声を掛けたら、モニカ様は花摘みから戻ってきたら、鞄の中にその魔石が入っていたと仰っていました」
私はさっきまでの事をありのままに説明した。
「はっ! 貴様もグルではないのか!?」
ウィリアム殿下がそう言うも、ユリウス様は、思い出したように話し出す。
「そういえば、違和感があったんだ。でも魔石の在処を聞いて、殿下がすぐにクラスに戻るから、すっかり忘れていた。あの時、魔石の在処を教えてくれた生徒、うちのクラスではないのに、ベルモート嬢が持っていると知っていた。何故その時にすぐに疑問に思わなかったんだろう……」
ユリウス様の言葉を聞いて、私はさらに疑問を投げ付ける。
「他のクラスの方がそう仰っていたのですか?」
「あぁ、そうだ」
「それは誰ですか?」
「あの女生徒は確か……」
私の疑問に、ユリウス様が考え込む。
そんな私たちを見て、ウィリアム殿下が痺れを切らして叫んだ。
「そんな事、どうでもいいだろう! 実際、ベルモートが持っていたんだ! 盗んだのはベルモートだという事だろ!」
そう言って、またモニカ様を睨んでいる。
このバカ王子がっ!!
誰かに仕組まれたとは、考えられないの!?
王族でなければ、一発殴ってやりたいわっ!!
思わずそんな殿下を睨んでしまった。




