閑話①
週末は学園が休みである。
なので休みの今日は、家で、ある練習を行うことにした。
「アリッサ、何してんの?」
私の部屋のドアをノックと同時に開けてそう言ったのは、不肖の兄フレデリックだ。
「お兄様? 何度も言ってるけれど、ノックと同時に開けるのは、ノックしてないのと一緒ですからね!?」
「悪かった悪かった。で、何してんの?」
全く悪びれることのない兄に、ため息が出る。
「魔鋼石に魔力を調整しながら貯めているの。今度授業でそれをやるんだけれど、私が普通に魔力を入れたら、とんでもない代物になるって、前にお兄様が言ってたでしょ? だから、どの程度の力を入れたら、平均的な物になるのか検証しているのよ」
兄曰く、私の作る魔力入りの魔石は、希少価値の高い、魔力を持った天然魔石と同じくらいになるそうだ。
人工魔石は魔鉱石を素材として、その中に魔力を流し込み、魔力を持った魔石に加工して使用する。
しかし、天然魔石に比べると、魔鉱石は魔力が入りにくい為、加工された魔石は力が弱い。天然魔石の魔力を10とすると、人工魔石は、普通はどんなに頑張っても5以下くらいしか入らない。
それでも私たちが生活する上で、原動力となる魔石は欠かせない。その為、人工魔石を作らなければならないのだ。
そして私が魔力を注ぐと人工魔石でも、ほとんど10に近い9くらい入った魔石となる。
ちなみに、王国錬金魔導師団の主任である兄が作った魔石でも、せいぜい私の半分くらいだ。
希少価値が高い=値段が高い。
伯爵家といえど、大量に天然魔石を買う訳にもいかないため、うちで使用する魔石は、ほとんどが私の加工した魔石を使用している。魔力がいっぱい入った魔石は燃費が良い。その為とても重宝されているのだ。
だが、それを世間様に知られるわけには行かない。伯爵家の家族、古くから務めてくれているごく一部の使用人だけの秘密であった。
「あぁ! それはバレると危険だな! ほんの少しだけ力を込めて作ってみろ。この優秀なお兄様が検証してやるよ」
兄は心配している振りをしているが、明らかに楽しんでいる。その証拠にいつも眠そうな半目が、しっかりと見開いているのだから。
「もう……こっそり練習しようとしていたのに。では、お願いしますよ? 王国錬金魔導師団主任殿?」
「任せなさい」
私の言葉に、ニヤリと笑って自分の胸を叩いて見せた。
「では、始めます」
私は自分で準備した魔鉱石に、ほんの少しだけ力を込める。学園では火属性持ちとなっているから、火の力だけを魔鉱石に軽く注入した。
「出来ました!」
「どれ、みせて」
兄は私の作った魔石を受け取り、あらゆる角度から確認している。
「う〜〜〜〜ん」
「その唸りはなに?」
「本当に力、抜いた?」
兄はそう言って呆れている。
「も、もちろんよ! え? いつもと変わらない?」
「いつものが10とするなら、これは8ってとこかなぁ。しかもこれ、見なよ。色が混じり合ってるだろ? お前が作った人口魔石は、実はいつも色んな属性が入った魔石なんだよ。だから家で使用する時は、いつも僕が余分な属性を分離してから使用していたんだ。だけど学校ではこの色で提出出来ないだろ?」
兄の言葉に愕然とする。
全く知らなかった……私は陰で兄にそんな労力を使わせていたのか……
これは思ったより、魔力注入のコントロールが難しいじゃないか。
「ま、休みの間、練習するしかないな。暇な時に出来具合を見てやるからさ。この機会にちゃんと分離して属性別になった人口魔石が作れるように頑張ってよ。そしたら僕の手間も省けるしね~」
兄はそう言って、ちゃっかり私が作った魔石を持って部屋を出た。
「チートの力って、時に面倒よね……」
私はガッカリしながら、その後も魔力注入操作の練習に明け暮れた。
そして、いまだに属性別に分離するのに苦戦している私は、学園では人口魔石が出来ない者に分類されている……




