10. お誘い②
「何だ、アリアがせっかく誘っているのに、お前たちは行かないのか?」
不満げにそう言うウィリアム殿下の言葉に、イラッとしながらも笑顔で答える。
「申し訳ございません。急なお誘いなもので予定が立ちにくくて……。それに授業で使う魔鋼石は、統一されたものを学園側が準備してくださいますよね? 確か、それ以外は使用禁止となっていたはずだと思うのですが……」
私がそう言うと、殿下は小馬鹿にした風な表情で、私を見る。
「何を言っている? いい魔鋼石を使うと、より凄いものが出来るのだぞ? そんな事も分からないとはな! 市井に、とてもいい品質の魔鋼石が売っていると聞いたから見に行くことにしたが、お前たちは来なくていいぞ! 後で後悔しても自業自得だからな!」
と、ぞんざいな態度で殿下がそう言ってきた。
殿下の不興を買ってしまったと、ルシルは青ざめている。
私は反論しようとしていたが、そんなルシルに、激しく首を横に振って制止されたため、言い返すことが出来なかった。
そんな時、いつから見ていたのか、このタイミングでモニカ様が私達の前に現れた。
「ウィリアム殿下、女生徒たちを威圧するのは止めてくださいませ」
「なんだお前、お前は関係ないだろう」
「アリッサは、わたくしの錬金術のペアですのよ? 関係なくはないですわ」
モニカ様はそう言って、私にチラリと視線を寄越す。
「彼女が言っている事は本当の事ですわ。授業で使用する魔鋼石は、学園側が準備した正規のものを使用しますの。それ以外の魔鋼石は余計な混乱を招くので、禁止されておりますのよ?」
「何だ!? 余計な混乱とは!?」
「まずは、統一した正規の魔鋼石でないと、公平な評価が出来ないという事ですわ。それに、市井で扱っている魔鋼石の中には、不純物の混じった粗悪品も売られているそうですの。一見分からないように加工してあるそうですが、万が一そのような魔鋼石を使用して、事故にでもあったら大変な事になりますわね」
ベルモート様の言葉を聞いて、殿下は一瞬怯むも、粗悪品の話になると、目を吊り上げて怒り出した。
「お前! この私が粗悪品を掴まされるようなマヌケだとでも言うのか!?」
「いえ……殿下とは申しませんが、世の中には、粗悪品を掴まされる方もいらっしゃるという事です。そう言った理由からも、授業では学園側の準備した魔鋼石以外は禁止となったのです。購入したものは授業で使えない事を彼女たちも知っていたからこそ、お誘いに戸惑われたのでしょうね」
モニカ様の言葉に、殿下たちは、納得のいかない顔でモニカ様を睨みつけながら、それでも食い下がろうとする。
「お前の言うことなんて信用できるか!」
「そうですね、僕たちを出し抜こうとしているのかも知れませんし」
「そうだな! もしかして君たちもベルモート嬢とグルなわけ?」
ウィリアム殿下、マイケルの順でそのような事をいい、最後のボルグに至っては、私たちにまでそんな言いがかりをつけてきた。
はぁ? 何なのこの話の通じなさは!
これが攻略対象者たちなの!?
お約束の市井デートなら、あなた達で勝手に行けばいいじゃない? いちいちこっちを巻き込まないでほしいんだけど?
私は呆れまじりの視線を攻略対象者たちに送る。
もちろん、攻略対象者たちの間で、オロオロしているヒロインことアリアに対しても同様だ。
ふと横を見れば、モニカ様もルシルも、同様の視線を殿下たちに向けていた。
「いいか! お前たちの話など信用しない! 僕たちは必ずいい魔鋼石を手に入れて、実技で凄いものを作ってやる! 楽しみにしておくんだな!」
ウィリアム殿下がそう叫ぶと同時に、違う方向から声が聞こえた。
「では、私の言葉なら信じるんだろうか?」
「「「「 !! 」」」」
そう言って、私たちの前に現れたのは、錬金術教師であるロイド先生だった。
「ウィリアム殿下、それに諸君たちもよく聞きたまえ。魔鋼石は学園側、つまり私が準備した正規の物だけを授業で使う。それ以外のものは認めない。これについては、理由も含めてこの前の授業で皆に伝えたはずだが、何故君たちは知らないんだ?」
呆れた様子で、ロイド先生はウィリアム殿下やアリア、側近たちを見ながらそう言った。
そうよ。何故この人たちは知らないのよ。確かに授業で先生がそう説明していたはずよ?
ゲーム内で、アリアと共に殿下や側近たちが市井に買い物に出るイベントがあったけれど、魔鋼石を買いに行く為だったかしら?
私はそのイベントがどのタイミングで行われたものだったのか、必死で思い返していた。
「あぁ、そういえば。君たちはあの説明の時、何やらコソコソと話をしていて、あまりちゃんと聞いていなかった様子だったな。話をちゃんと聞いていない君たちに、彼女たちはきちんと説明してくれていたのに、それを頭から疑って食ってかかるなんて、どうかと思うがね」
「そ、それは……!」
ロイド先生の言葉に、ウィリアム殿下が反論しようとしたが二の句が継げない。きっと魔鋼石を使った実技を行なうと言った前半部分を聞いただけで、市井に買いに行こうといった話をしていたのかもしれない。だから後半の先生の話は、ろくに聞いていなかったのね。
「きちんと彼女たちに謝ってお礼を言うべきだと思うがね。本来なら授業に自ら準備した魔鋼石を持ち込んだ時点で、かなりの減点対象となったのだから」




