悪徳領主子息と両親(クズ)3
ヒースくんは、先ほどからニコニコしている。
……マジで理由がわからなさ過ぎて恐ろしいんだけど……。ゲームキャラとしての自覚ありまくりってことなのか?
そうこうしているうちに、僕の両親が待つ大広間の前に立っていた。ヒースくんも先ほどまでのニコニコが嘘のように表情が消え、能面のような顔で扉をにらみつけている。
ヒースくんが扉を開けると、長い机の向こうに、僕の家族が偉そうにふんぞり返っていた。
父、ダミアン・ザルツブルグは興味なさげにこちらを眺めている。母、ヴァイオレット・ザルツブルグは、忌々し気にこちらを射殺さんばかりに睨みつけている。
二人の装飾品は、玄関扉と同様、趣味が悪く、ぎらぎらと輝いている。成金か、せいぜい業突く張りの持ち物としか思えない。
「私たちには品がないですよー」と喧伝しているようだ。
僕がじっと二人を見つめていると、突然ダミアンがこういった。
「ふむ、で、貴様口が聞けるようになったのか」
おいおい、一年ほとんど顔も合わせてなかったのに会話の初手がそれかよ、と少しあきれてしまった。僕は前世の親を本当の親だと思っているからまだいいけど、これ5歳の子どもだったら何も言えねえよ。「どうせ、あのメイドがほらでも吹いたのでしょう。それにまんまとだまされたメイド長が騒いでいるだけですわ。旦那様。」
恐ろしく早い嘲笑だ。僕じゃなきゃ見逃しちゃうね。
このままでは殺されかねないので、僕の方も口を聞いて「やる」ことにした。
「ごきげんよう。私ニコル、5歳にしてようやっと皆様にご挨拶申し上げることがかないました」
つらつらと述べてやると、「むう……」とか、「グッ……!」とか向こうの方からはうなり声が聞こえた。特にヴァイオレットはすごく悔しそうだ。
「いかがなさいましたか。『ダミアン様』、『ヴァイオレット様』。」
これはあくまでも僕のプライドだ。こんな奴らに「父」や「母」などと言ってたまるものか。
これまでニコル君がされてきた仕打ちを思うと、これくらいの反抗は許されるはずだ。
「ニコル。なぜ私たちのことを、『母』や『父』とお呼びにならないの?私たちは『家族』ではなくって?」
「いえ、私はこれまで領主家の子としてはふさわしくなかったことでしょうから、自らを律しているのです。」
「貴様、5歳にしては口がまわりおるな、どこで習った。」
「習うなど……。4年本邸で過ごしたときの記憶を参考にしておるだけでございます。」
多分だけど、僕には「テキスト」が悪役領主のものしか用意されていない。そのためどうしてもこのようなしゃべり方にならざるを得ないのだ。これは説明してもわからないだろうし、どうせばれやしない。
「まあ……、気味が悪いわ……。悪魔憑きではないのかしら?」
「こんなほんの子どもには悪魔は憑かないでしょう。それにもし私に悪魔が憑いていたとして、その存在を目立たせてなんの意味があるというのです?」
あぶねえ!これ教会ぶち込みフラグじゃん!!早いところ切り出さないと……。
「お二人とも、私の今後について、ご相談申し上げたいことがございます。私は騎士として、身を立てとうございます。それで、もし、可能であればですが、剣技をご指導くださる方をご準備いただけませんか?」