悪徳領主子息と両親(クズ)2
まさか逃げ出すわけにもいかず、僕は本邸の扉の前に立っていた。
趣味の悪い装飾が卑しい輝きを放っている。こりゃ相当民から搾り取ってやがる…。
僕は生き延びる。絶対に。その時お前たちは民に滅ぼされているだろう。
まずはこの勝負に勝ってからだ。
僕は勇んで本邸の扉を叩いた。
中に入ると、ザ・シゴデキ執事が僕を迎えてくれた。
「ニコル様、お久しゅうございます。お加減はいかがですか?」
少なくとも敵意は感じない。むしろ少し僕に対して好意的な気さえする。
「ああ、世話をかけたな。つい昨日、人形ではなくなったところだ。」
(心配かけてすみません。やっと話せるようになりました。)
少し驚いた様子を見せ、すぐに気を取り直したあたり、本当に優秀な人なんだろう。
僕たちが歩いていると、何人かのメイドや使用人が僕を見て不躾な視線を送り、何やら呟いている。
その視線は決して良い気がするものではない。僕はつい執事に対して、
「目も口も押さえてられない愚者の集まりか…。全く度し難い。貴様はどう思う?」
(めっちゃ見られてるんですけどなんでぇ?)
と聞いた。執事は僕の言葉を聞いて、突然目を怒りに輝かせ、
「愚者…。ええ、その通りです。あの者どもは、私の主、フランセット様を貶め、それに飽き足らずご子息のニコル様までも…。」
このイケメン、味方だ!と思ってじっと顔を見たときに、強烈な既視感を覚えた。
「私がこの本邸で働いているのは―――」
うーん、見たことあるんだけどなー。
「フランセット様を貶めたこの家に復讐するためなのです。」
あ、こいつあれだ。チュートリアルの時主人公のサポートしてくれる執事だ。
……æ!?ててててて敵じゃん!!!!
俺の領地の序盤で、もともとザルツブルグ家に勤めてたけど、この執事は主人公側と通じていて、主人公の下剋上を成功させる重要な役割担ってるやつじゃん!!!!
名前は確か……!
「ヒース。」
「はっ、ニコ様。」
恭しく執事が礼の姿勢を取る。
「僕は貴様を高く買っている。貴様の働きで幾度となく僕は救われた。」
(ゲームで使ってたわー、序盤マジでヒースいなかったら詰んでるもんね。)
どうせ変換されるならゲームのことを喋ってもバレないかと思って、適当に文を繋げたけど、案外なんとかなるもんだな。
とか思っていると、ヒースくんは礼の姿勢を取ったまま肩を震わせていた。
「ニコ様…気づいておられたのですか…。」
いや?全然?
なんの話かわからないんだが?
「このヒース、フランセット様、もとい、ニコ様の為に全力を尽くす所存です。」
吹っ切った顔をして、ヒースくんが僕を見つめた。
ティローン!
(ヒースの好感度が限界突破しました!)