悪徳領主子息と両親(クズ)
これからの生存の話をしよう。
シアはひとしきり大号泣したのち、
「実は…」と青い顔をしながら僕の生まれと、義母上からの命令について教えてくれた。
「ふむ…」
これは、悪徳補正が入っているだけで、内心は(アイエエ!?ドクサツ!?ナンデ!?)と思っている。
まずい、このままでは義母上に殺される…。今現在僕に取れる道は三つだ。
①そのまま過ごして普通に殺される。
②将来は騎士団に入ることにし、家督争いから外れる。
③修道院に即刻入って豊かな神父ライフ(権力闘争/禁欲/節制つき)を送る。
①は論外としても、②と③も結構ハードモードすぎる。
この国の騎士団は、家督を継がずに一代限りの身分を形成したい貴族や、成り上がりたい平民、口減しに徴兵に応じた農民などによって形成されている。
逆にいえば、家を出たければ騎士という風潮があるため、この選択は悪くない。
③も身の安全が確実であると言う点においては魅力的な選択肢だが、( )内が嫌すぎる。
この世界の宗教はマジで人間の嫌なとこをかき集めて煮込んで濃縮したみたいな世界だ。
このゲームの宗教絡みのイベント、マジでリアリティがあるんだよな…基本敵対勢力だし…。
今、最善なのはやっぱり②だな。
本邸に行く機会があれば、ぜひその旨をお伝えしよう…。
そんなことを考えていると、玄関扉が開けられ、壮年の女性が歩いてきた。
シアはビクッと肩を跳ねさせたかと思うと、カタカタ震え出した。
「ニコ様…メイド長です…」
ほう、こいつがシアを脅し、義母上の命令で僕の命を奪おうとした女か。
「ニコル様、ごきげんよう。」
「…用件はなんだ。」
僕が言うと、メイド長は眉を吊り上げ、
「本当に話せるのですね。」と言った後、苦虫を噛み潰したような表情を浮かべた。
なんだこいつ。そんなに僕に死んで欲しいのか。
「で、用件は?」※5歳です
「では端的に。奥様と旦那様がお呼びです。」
ほう、いきなりボスと対決か。
あ、やばい、胃がキリキリしてる。イダダダダダ。取れる?胃?
どうやら僕は相当ひどい顔をしているらしい。
シアは僕を心配そうに見て、「ニコ様…」なんて言っているし、メイド長は顔を青くして
「ヒッ」と一息悲鳴を漏らした後、
「と、とにかくすぐに本邸へ向かいなさい!お一人で来るようお申し付けです。」
と一息に言い切ったかと思うと、ヤン叔母さんくらいの速度で駆けて行った。
シアは一人というところにさらに不安を深くしたようで、
「ニコ様一人であのような伏魔殿へ向かわせるわけにはまいりません!私も何か武器を持って…」
とシアの掃除道具を取り出してきたので、
「ふん、足手纏いだ。お前を守るために、僕が犠牲になってはかなわん。」
(シアがいると、シアを守ろうとして僕は動いてしまうだろう。そして、君を守り切る自身が僕にはないんだ。だから、僕は一人で行く。)
と言い、そのまま玄関から出た。
残されたシアは、
(こんな、こんな私でも守ってくださるなんて…いえ、ニコ様はきっと無策で敵地に飛び込まれるようなお方ではないわ。5歳にも関わらず、あそこまで冷静で聡明なのだから…)
などと、相変わらず謎の信頼をニコルに向け、自身はニコルの帰りを待ち、昼食の支度に向かった。