メイドと悪徳領主子息2
side シア
離れに来て一年が経ち、ニコ様がもうすぐ5歳のお誕生日をお迎えになる頃でした。
ニコ様は相変わらずお話になりませんが、それでも時折優しく微笑まれます。
そんな折、本邸からメイド長が私たちのもとへ来ました。
「シア、あなたに奥様からの命令です。」
そういうと、メイド長は私に告げました。
「5歳の誕生日を迎えても、アレが喋らなかったら、料理に毒を混ぜなさい。」
私は意識が一瞬遠のきました。
「何を…何を仰るのですか!!」
私はメイド長に詰め寄りました。
メイド長は冷たく、
「喋らなければ、です。それまで沢山お声をかけてあげなさいな。あと、そうしなければあなたはクビですって。どちらにせよ本邸の誰かがその仕事をするんでしょうよ。」
と言いました。
そして、
「シア、あんたのせいで私たちまでしかられたのですよ?最後に嫌な仕事も私たちに押し付けようというのですか?」
と言いました。
「でも…私は…私は…」
「これは命令です。よく自分の身の振り方を考えておくことね。」
私はニコ様を連れて実家に帰ることを考えました。しかし、もともと貧乏商会の娘である私の実家に、もう一人養う余裕があるはずがありません。
「決めた、私がニコ様を育てる!どんな仕事をしてでも!」
私はそう決意すると共に、なんとかニコ様が話してくれないかと、毎日声をかけ続けました。
「ニコ様、朝ごはんですよ!」
「ニコ様、湯浴みをいたしましょう!」
「ニコ様、これはクローベルという植物で、四葉のクローベルを見つけると幸運が訪れるそうですよ!」
しかし、ニコ様はお話になりません。
「どうして…ニコ様ぁ…喋って、喋ってよぉ!!」
一人私は部屋で涙を流しました。
しかし、無情にも、ニコ様は5歳の誕生日を迎えられました。
「ニコ様、お誕生日おめでとうございます。」
私は一睡もできずに朝を迎えました。
その時でした。いつものように黙って食卓についたニコ様が突然叫び、お倒れになったのです。
「うわぁぁぁ!終わったぁぁぁあ!」
パタリ。
「ニコ様!ニコ様!…!?喋った!?」
私はすぐニコ様をベッドへお運びしました。
ニコ様はそのまま一日中眠りについておられました。
翌朝、目を覚まされたニコ様は、私にたくさんお話しをしてくださいました。
そして、私を、本物の母親のようだと言ってくださったのです!
やはり、ニコ様はお優しい方なんだと私は嬉しくなりました。