悪徳領主子息とメイドさん
誕生日の翌日、倒れた僕はベッドに寝かされていた。
「…知ってる天井だ…」
5歳のニコルに転生するまでの記憶がぼんやりと僕の中にある。
今の現状が夢ではないことを噛み締めさせられている気分だった。
不意にドアがノックされる。
「ニコル様、お加減はいかがですか?」
そう声をかけてくれたのは、メイドのシアだった。
僕が住んでいる離れには、本邸では働けないような身分の人であったり、本邸で問題を起こした(まともであるがゆえに)人しかいない。
シアも、その一人で、全く喋らない僕に、いつも優しく接してくれたがゆえに、本邸の人間からやっかまれてこの離れに勤めることとなった。ちなみにまだ18歳らしい。赤毛を三つ編みにした、可愛らしい少女だ。
「フン、問題がないから目覚めたんだ」
(大丈夫、心配してくれてありがとう)
これには流石の僕も驚いた。
悪徳領主の子息の僕に用意されたテキストが悪すぎる。頭の中身が変換されて、口から飛び出した。
「まぁ…」
シアが驚いた顔をしている。
そりゃそうだろう。初めて口を聞いたと思ったらこの可愛げのなさ、僕ならブチギレてもおかしくない。
でも、シアは違った。
涙を目いっぱいに浮かべ、
「ニコ様が、ニコ様がお話ししていらっしゃる…」と言った。
(何この人、良い人すぎるんだけど!申し訳なさすぎる)
ずっとずっと、シアに感謝を伝えたかった。僕は謝罪の意を込めて、
「喋らないからと言って、哀れんでくれたようだが、無用の世話だ。まるで本物の母親のようだな。」
(ずっと心配してくれて、声をかけてくれてありがとう。僕はシアをお母さんみたいに思ってるよ!)
と言った。
(ぐおおおこの口!!口ィィイ!)
僕が悶絶していると、シアは崩れ落ちた。
「ニコ様…!!母と!!私を母と仰って下さいましたか!!わたくし、この家にお仕えして5年、ここまで嬉しいことはございません…!!ううぅ…」
と言って泣いているシアに、僕も涙を流し(たかっ)た。が、どうやらこの体は泣くことも許さないらしい。
なんだか、僕、愛されてない?
本当の親にはほとんど声をかけられた記憶はないけど…。周りにこんな人がいるなら幸せだなぁ…。
ティロリーン!
(メイドのシアの好感度が限界を突破しました!)