悪徳領主子息の始まり
おっす!オラ子息!
五歳の誕生日を迎えるまで、僕は全く喋らない子どもだったらしい。
感情表現も薄く、父上と母上も僕には全く期待しておらず、僕はずっと領主家の離れで暮らしていた。
そんな僕が五歳の誕生日を迎えた時、突然叫んだものだから、周囲の大人たちは騒然とした。
その内容も、
「うわぁぁぁ!!終わったぁぁぁあ!!」
だから、余計にだと思う。
その時、僕の身に起こっていたことを説明したい。
僕は、高宮晴人だった。
普通の両親のもと、普通に成長し、普通に反抗期を迎え、普通に大人になった。
とあるメーカーの営業職として採用され、5年が経ったある日、唯一の趣味だったゲームを久しぶりに買った。
タイトルは、「俺の領地〜悪徳領主から民を救え!〜」
育成ゲームとしてはこの上なく難易度が高いこのゲームは、まず、主人公である「俺」が民衆を率いて領主を打倒するところからゲームが始まる。
民衆の信頼度は初めこそ高いものの、イベントが絶えず発生し、その都度信頼度が変動していくため、この信頼度をいかに保つかによってエンディングが変動する。
ちなみに、バッドエンディングはすぐに迎えられる。「悪徳領主再臨エンド」は、民衆の信頼度がゼロで財務の評価が高いと発生し、主人公が悪徳領主になったというエンディングだ。
さらに、「新領主誕生エンド」もあり、民衆の信頼度がゼロで財務の評価が低いと、主人公も別のリーダーに殺されて終わる。
俗に言うクソゲーと呼ばれるジャンルである。
僕はクソゲーが好きだった。だからひたすらにこのゲームのエンディングを収集していたのだが、気づいたら今の体、「ニコル・ザルツブルグ」になっていた。
問題は、この僕の家にある。
ザルツブルグ家は、ストーリーの初めに主人公に権威を簒奪され、一族郎党が処刑される、まさにその家だったからだ。