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淡い期待の希望

「静かに。足元、見て」


ノアの小さな声が、薄明かりの中で慎重に進む五人の先頭に響いた。


つい昨日、ノアが偶然解除したトラップの痕跡が、いまだに地面に生々しく残っていた。


「ここ……昨日のとこ?」


ミユが足を止め、小さく囁いた。


「そう。ワイヤーは撤去したけど……油断は禁物」


ノアが頷き、目を細める。


「ねえ、あれ、仕掛けたのって……やっぱり人間?」


サキが不安そうに呟いた。


「どうだろうな。動物用に見せかけてたけど、人間向けだった気がする」


スバルが小声で応じた。


「てことは……近くにまだ誰かいる可能性、あるってこと?」


ユミが唇を噛みながら言う。


「いるかも。でも、今はとにかく水源地を目指そう。喉、限界だし」


ノアが言い、全員が再びゆっくりと歩を進めた。


森の中は、朝の気配と夜の名残がせめぎ合う時間帯だった。


小鳥の鳴き声もまだまばらで、ただ自分たちの呼吸と草を踏む音だけがやけに耳に残る。


「……ねえ、静かすぎない?」


ミユがぽつりと呟いた。


「それだけ危険な場所ってことさ」


スバルが肩をすくめて返す。「このエリアに入ってから、まともな音を聞いた覚えがない」


「……じゃあ、なんで私たちだけ……?」


サキのその一言に、誰も何も言えなかった。


誰もが同じ疑問を抱いていた。無人島に置き去りにされた理由は憶測でしかなかったからだ。


そして、木々の隙間から、ようやく水面のきらめきが見えてきた。


「見えた……!」


ミユが少しだけ声を上げ、すぐに口を押さえる。ノアは軽く笑って、指を唇に当てた。


「しーっ。でも、ナイス」


木々を抜けると、そこには冷たく澄んだ水源地が静かに広がっていた。


鏡のような水面が朝焼けを映し、ほのかな光に包まれている。


「……きれい……」


サキがぽつりと呟く。


「冷たい……」


ユミが思わず顔をしかめるが、すぐに両手を使って水をすくい上げる。


一口含むと、冷たい水が喉を通り、乾ききった体の中に染み渡った。全員がそれぞれのやり方で水を飲み、そして顔を洗い、少しずつ顔に生気が戻っていく。


「……こういうのって、幸せっていうのかな」


ミユが言った。


「今は、十分すぎるほど」


ノアが微笑む。


「ベースキャンプ……ここに作る?」


スバルが周囲を見渡しながら尋ねた。


「そうだね。この水源が使えるなら、しばらくはここにいてもいい。問題は……見られてないかだけど」


ノアの言葉に、皆が一斉に辺りを警戒する。


「……なら、急いで作ろう」


サキがすぐに行動を始める。


互いに役割を手分けし、木材や葉を集め始める。その作業の中で、少しだけ空気が和らいだ気がした。


言葉は少ないが、視線や仕草で通じ合える仲間との作業。それは不安を薄める、何よりの薬だった。


しかし、その束の間の静寂を切り裂くように――


「……なに、あれ……?」


ミユの声と同時に、空から低く響く唸り声。


「ドローン……ヘリ?」


ユミが呆然と空を見上げた。


「伏せて!」


ノアが叫ぶように言い、全員が地面に身を投げた。


木々の間を滑るように、黒い機影が音もなく飛び去っていく。低空で、明らかに何かを“探している”飛行だった。


「……さっきのルート……」


スバルが息を詰めながら言った。「私たちが来た方向を、逆にたどってたな」


「もしかしたら……助けかもしれない」


その言葉は、恐怖の中に一筋の光を差し込んだ。


だがその光は、同時に疑念も呼び起こした。


「見つかった……ってこと?」


サキが不安げに問うと、ノアは黙ってうなずいた。


ドローンはやがて音もなく消えたが、空気には緊張が残ったままだった。


そして彼女たちの中に、新たな感情――「希望」という名の不確かなものが芽生え始めている者もいた。


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