希望の光
少女たちは5人。何が起きたのか、どうしてこの島にいるのか、それすらもわからない。
ただ、ひとつ確かなのは――
「……時間がない。太陽が沈んだら、夜になる」
ノアがぽつりと告げた。
その瞳は冷静で、しかし燃えるような意志を宿していた。
「誰かリーダーを決めて、動かないと…」
「え? リーダー? そんなの、どうやって決めるの?」
ミユが眉をひそめる。
「私がやる!」
ノアの声が、波音を切り裂いた。
一瞬の静寂ののち、少女たちは目を見交わした。
「うん……ノアなら、信じられる」
サキが真っ直ぐに頷いた。
「異議なし!」とスバルが手を挙げる。
「納得」ユミは小さく頷き、ミユも肩をすくめて笑う。
「じゃ、船長さん。命令くださーい!」
「まず、最優先は『水』と『火』。このままじゃ夜を越せない。2つの班に分かれる」
ノアは手早く地面に地図のようなものを描く。
「ミユ、スバル。君たちは水源を探して。森の奥は危険だけど、動きが速い2人なら最適」
「了解!」
ミユがガッツポーズ。
「水探し、冒険って感じで楽しそう〜」
スバルが笑う。
「サキ、ユミ。君たちは火を起こす材料。乾いた枝葉、枯れ木、何でもいい」
「任せて! こう見えて火起こし得意なんだよ、あたし!」
サキが胸を張る。
「静かに動くのは得意だから。気配に注意して探すわ」
ユミも静かに同意した。
「装備はこれだけ」
ノアは唯一のサバイバルナイフを掲げた。
「…大事に使おう」
5人はそれぞれの任務に散っていった。
ーーーー
「ミユ、こっち、こっち! なんか水っぽい匂いしない?」
スバルが密林の中を飛び跳ねるように進んでいく。
「ちょ、待ってって! 足元滑るから…」
ぬかるんだ地面に気を取られつつも、ミユの耳がある音を捉えた。
「…あれ、水音? 聞こえる?」
「うん! ちょっと走れば――」
――ガシャーンッ!!
「きゃあっ!!」
ミユの足元が崩れ、彼女の体が落下しかける。しかし、間一髪でスバルが腕を掴んだ。
「ミユっ! 大丈夫!?」
「い、今の…なに?」
彼女の下には、鋭利な木の杭が何本も突き立っていた。
「罠……? 誰かが作ったの?」スバルが呆然と呟く。
「こんな場所に罠って、おかしいよ……この島、ほんとに無人島なの……?」
ミユは青ざめた顔でうなずく。
「戻ろう、ノアに報告しないと!」
浜辺に戻ると、ノアはすぐに彼女たちを迎えた。
「どうだった?」
「水源らしき音がした。でもその途中で……罠に落ちかけたの!」
ミユの声が震える。
「木の杭がたくさん、しかも人工的に仕掛けられてて……あれは絶対偶然じゃない!」
ノアの瞳が鋭く細まる。
「……この島全体が罠に覆われているかもしれない」
ユミとサキも戻ってきた。
「火の材料は集まったけど……こっちにも違和感があったの。動物の気配が一切ない」
「普通、こんなに静かじゃないよ。虫の音すら少ない」
「人工的な罠、動物の不在、環境の不自然さ……」
ノアは深く考え込んだあと、はっきりと命令を出した。
「今後は、絶対に二人一組で行動すること!」
「それから、罠の構造を記録して、共通点やパターンを探る!」
「あと、緊急時の合図。ホイッスルもないし、代わりに石を3回叩いて音を出す。聞こえたらすぐ戻ること!」
少女たちは一様に真剣な表情でうなずいた。
「でも……誰が、何のためにこんな島を?」
ミユが呟く。
「さあね。けど、私たちはそれを解明する前に、生き延びなきゃならない」
「ノア……」
サキがそっと彼女の肩に手を置いた。
「大丈夫。あたしらがついてるよ。仲間でしょ?」
「ありがとう、サキ。でも、これは私の責任だから」
「一人で背負うなよー」
スバルがふくれっ面をする。
「ノアが倒れたら、誰が指揮とるの?」
「……そうだね。ありがとう」
その時、ユミがふと空を見上げた。
「もうすぐ、夜が来る」
空は赤く燃え、風が湿った冷気を運び始めていた。
「まずは焚き火だ。火があれば、少しは安心できる」
集めた枝葉を使い、サキが手際よく火を起こす。
探して見つけた硬い石とサバイバルナイフの背で火花を散らして火種を作る。
慎重に火種を乾いた草、枯れ木へと繋いで炎が上がる。
「よし……点いた!」
「うわあ、暖かい〜」スバルが火の前に座り込む。
「火の前って、なんか安心するね」
「うん……ちょっとだけ、家みたい」
ノアが火を見つめながら、ぽつりと呟いた。
「私たちは絶対に、生き延びる。」
小さな声だった。しかし、その言葉は誰よりも強く、深く、仲間たちの胸に響いた。
「うん……絶対に、だね」
「明日も、がんばろう」
夜の帳が下りる頃、5人の少女たちは火を囲みながら、肩を寄せ合って座っていた。
その瞳には恐れ以上に強い「希望の光」が、確かに宿っていた。