最悪の目覚め
ノアは意識の深淵から、ゆっくりと浮かび上がってきた。
耳に届くのは、穏やかな波の音。そして、肌をなでるような湿った風。重たいまぶたを開けると、空はどこまでも青く、まぶしい太陽が真上にあった。
「……ここは……どこだ……?」
ノアは起き上がり、周囲を見渡す。
目の前に広がっているのは、見知らぬ無人島。木々が風に揺れ、遠くで鳥が鳴いている。砂浜には、自分が倒れていた跡がくっきりと残っていた。
服装に違和感を覚えて、ふと自分の体を見下ろす。
ラフな私服だったはずの服は、いつの間にか制服に変わっていた。しかも、その制服はただの学生服ではない。実用性重視のミリタリーデザインに改造されており、腰には本物のサバイバルナイフが装備されている。足元には、使い込まれたコンバットブーツ。まるで、戦地に送り込まれた兵士のようだった。
「……なんだこれ……」
額に汗がにじむ。不安と混乱が一気に押し寄せたが、それでもノアは無理に深呼吸し、自分を落ち着けた。
そのとき、近くの草むらがざわめいた。びくりと体を強張らせると、草の中から、一人の少女が起き上がった。
「う、うぅん……」
それはミユだった。彼女も同じく制服姿で、頬に砂がついている。ぼんやりと目を開け、そしてすぐに焦点が合った。
「……ノア? ここ、どこ……?」
「わからない。でも、君もここに?」
ミユは頷き、立ち上がる。周囲を見回し、そして自分の服装に気づいて目を見開いた。
「これ……制服? なんで……?」
そのとき、もう一人が呻き声を上げた。スバルだった。彼女はゆっくりと体を起こしながら、眉をひそめる。
「……いてて……。なんで私たち……制服なんだ……?」
彼女もまた、自分の姿を見て驚愕する。
まるで何かの訓練に放り込まれたようなその装備は、明らかに異常だった。
続けて、サキが目を覚ました。彼女はすぐに周囲に警戒心を向け、地面に落ちた小石を手に取りながら、低い声で言った。
「訓練……? でも、こんなはずない。事前通知もなかったし、これは……」
最後に、ユミが静かに目を開けた。
他の誰よりも冷静で、感情の読めない表情をしていた。
彼女はゆっくりと立ち上がり、周囲を鋭く観察した後、一言だけ呟いた。
「……何かがおかしい」
ノアは周囲を観察する中で、違和感の正体に気づく。近くの木の陰、草の間に――それはあった。
「みんな、あれを見て」
彼女が指さす先にあったのは、小型の監視カメラだった。自然に溶け込むように巧妙にカモフラージュされていたが、確かにレンズがこちらを向いていた。
「えっ、カメラ……!?」
ミユが驚いた声を上げる。
「ってことは……私たち、見られてるってことか?」
スバルが険しい表情を浮かべる。
「訓練じゃない。ただのサバイバルごっこじゃないよ、これは……実験よ」
ノアが静かに言った。
その言葉に、全員が黙り込む。
「実験……? どういう意味?」
サキが眉をひそめて尋ねる。
「私たちがどう生き残るか、それを観察されてる。そんな気がする」
ユミが低く呟いた。
「だからって、じっとしていられないわ」
ノアが立ち上がり、鋭い目で仲間たちを見渡す。
「状況を把握して、ここから脱出する方法を探さなきゃ」