モグラが出てきた!
ふりふり。ふりふり。
あいらんが歩く度に、ぴょこんと飛び出た小さな白い尻尾も一緒に動く。ハムスター特有のまるまるボディには、毛艶がいいのか天使の輪が表れていた。
最後尾からその光景を眺めていたスケは、可愛いを連呼する夜叉丸の気持ちも少しわかるなぁ、と思ってしまった。
元々、そこまでハムスターに愛着があるわけではないスケでも、あいらんは可愛いと思う。
だからこそ、普段ならば絶対に見知らぬプレイヤーに声を掛けない夜叉丸が、声を掛けたのだろう。
あいらんには話していないが、スケも夜叉丸も実は別ゲームではランカー上位の、トップクランに所属している。
もちろん、長期休暇中は、廃人間際ぐらい、のめり込んでいたりする。
資金力(課金要素)は、他のクランの仲間に任せて、夜叉丸やスケは特攻、遊撃、攻略をメインとする。だから、あいらんが夜叉丸の動きがすごい!と、しきりに感心するのもいわば当然のことだった。
「あ! シルバーフォックスですね!」
銀色の狐二体が、草場の影から飛び出してきた。真っ先に夜叉丸が反応して身構える。
「あの、夜叉丸さん。ちょっと魅了を試してみてもいいですか?」
「わかった。俺も興味あるし。スケもいいか?」
「大丈夫だよ」
「ありがとうございます。魅了!」
あいらんが魅了スキルを使用すると、ピンクのハートマークのエフェクトがあいらんから出た。
すると、シルバーフォックス二体が急にのけぞり、ハートマークの状態異常がつく。
そして、シルバーフォックスは魅了中は、けしてパーティーに攻撃しようとしなかった。
そのため、スケが水魔法のアクア・ボールを、あいらんが風魔法のウインド・カッターを放ち一体を、もう一体を夜叉丸が危なげなく処理した。
「すっげー! あいらんちゃんのおかげで楽に戦えた」
「ありがとうございます。上手くいって、ほっとしました」
「いやー、魅了ってかかると強いね。あいらんちゃん、消費MPは大丈夫?」
「消費は1なので、バンバン使って大丈夫です!」
「「え」」
あまりのコストの低さに、夜叉丸とスケが驚いた。よくわかっていないあいらんが、疑問符を浮かべていると。
「まぁ、それならあいらんちゃんが一番に魅了を使ってから、俺らが攻撃した方が安全性が増しそうだな」
「消費1、か。じゃあ、魅了の確率は案外低めに設定されてるかも。ただ、この辺りは魔物も強くないから、夜叉丸の言う通り、最初に使ってもらおう」
「はい! がんばります・・・あれ?」
あいらんは、耳で微かな異音を拾った。思わず振り向くと、土がもこもこと奇妙な形に盛り上がっている。
「あれ、なんでしょう?」
スケと夜叉丸もすぐに気づき、警戒しながら、自分の武器を構えた。