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4 トリロ目撃者となる


 「それなら、どうして見捨てられた王国から出てきたんだ?」


 適当な相槌を打って耳を傾けていたトリロは、リアに尋ねました。皿の上に山盛りとなっていた果物は、すっかりリアが平らげてしまいました。

 トリロの質問に、リアは項垂れました。


 「不細工なのは女ばかりで、そこで一儲け企む男どもは、人並みだった。しかも不細工女どもは、己の不細工を棚に上げて、少しでも見た目のよい男どもに群がる。あそこでも私は暮らせない」


 「ここへ来ても、見捨てられた王国より暮らしやすいことなどあり得ない」


 「わかっている。私はもうくたびれた」


 トリロは腕組みをしました。リアは暫く目を閉じてソファの背もたれに体を預けておりましたが、やがて目を開けました。小さな目がトリロを真っ直ぐ捉えます。


 「首を落とせば、いくらなんでも死ねると思う」

 「で?」


 トリロは腕組みをしたまま、いかにも嫌そうに先を促しました。リアは躊躇いませんでした。


 「私の首を落としてくれ」

 「嫌だ。プラメリア王国の王子の首を斬るなんて、ただの罪では済まない。領地が滅ぼされてしまう」


 「トリロ殿は先程、プラメリアのことは知らないと言ったではないか。第一、故国では私を既に死んだものとしている。名目と実態を合わせるだけのこと。迷惑はかけない」


 リアが熱心に言葉を尽くすほど、トリロは渋面を固めました。


 「ここで働けばいい」


 ぽつりとトリロが言いました。これにはリアが首を振りました。


 「この手足でできる仕事などない。私は村で生活できるようにはできていない。それこそ、迷惑をかけるだけだ」


 二人とも、言うべきことがなくなって、黙って向き合いました。トリロはなおも考え続けておりました。リアは自分の言葉がいつ受け入れてもらえるかと、期待に満ちた眼差しを向けておりました。


 「知り合いの修道女と連絡を取ってみる。修道院で人目を避けて、少女のために祈れば、いつか呪いが解けるかもしれない。今夜はここへ泊まって、よく考えるがいい」



 トリロはリアを残して応接間を出ると、待ち構えていた館の人たちに必要な命令を出しました。

 館の人達は喜んであちこちへ出かけました。村の外に漏れることは決してありませんが、こうした変わった話を村人は喜んで知りたがるのでした。


 知り合いの修道女というのは、かつてトリロが助けたことのある王女でした。領主とはいえ、気安く話すことのできる相手ではありません。トリロは山住みの人達を使って、秘密裡に連絡をとろうとしていました。


 リアを残してきた応接間で、ちょっとした騒ぎが起こりました。


 トリロが急いで駆けつけると、暖炉の壁にかけてあった斧が外され、リアの首と胴体をまっぷたつにしていました。悲鳴を上げたのは、リアを寝室へ案内しようと入った人々でした。

 近付いてみると、リアはまだ息をしておりました。痛みをまるで感じていないように、口元には満足そうな笑みすらたたえております。


 「これでよい」

 「そうかな」


 トリロの言葉に、リアの表情が不安でかき曇りました。

 手のすいた館の人々が、騒ぎを聞きつけて、次々と集まってきました。


 トリロは床に突き刺さっていた斧を、ぐいと引き抜きました。


 みるみるうちに傷口が桃色の塊で盛り上がりました。首からも、胴体からも、同じように盛り上がりました。首と胴体が近過ぎて互いに邪魔になり、盛り上がる塊が首を回転させました。リアは残された胴体から膨らむ物を見て、恐怖の表情を浮かべました。


 「きゃああ」


 さすがに変わったものに慣れた館の人々も、度肝を抜かれました。気を失って倒れ込む婦人が出ました。


 つるつるした塊は、明らかにリアの頭を形作ろうとしておりました。髪の毛こそ生えませんが、目鼻口耳といった道具が皮肉にも以前よりもっと矮小化した形で現れておりました。


 人々が恐ろしさを感じたのは、リアの頭が胴体からばかりでなく、斬られた首からも生えてきたことでありました。

 皆が見守っている間に、頭同士が首でつながったリアと、元の形に似たリアの二人が出来上がりました。頭一つにつき一人と考えれば、リアはいっぺんに三人に増えたのです。


 トリロは呆然としている館の人に命じて、大きな鏡を持ってこさせました。そしてそれをリアの姿が全て見えるように近付けました。リアの恐怖の表情は頂点に達しました。


 「殺してくれえ」


 三人のリアは一斉に泣きわめきました。


 「無理だと思うな」


 トリロは無慈悲に告げました。リアは聞いておりませんでした。



 それからリアがどうなったかというと、頭二つがくっついたリアは、間もなく望み通りに死んでしまいました。頭だけでは、生き続けられなかったのでしょう。

 残りのリアが死んだら、三人とも一緒のお墓に埋めてもらえるよう、死骸は焼いて小さな壷に収めました。


 ちゃんと手足の揃ったリアは、トリロの忠告に従って、元王女の手引きで人里離れた修道院へ入りました。そこで日がな一日、少女と先に死んだリア達の冥福を祈り続けている筈です。


 泉の少女は、きっと天国に行けるでしょう。

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