初めての冒険者登録
試験が終わった私は、エマとユリと一緒に街へ続く山道を歩いていた。
「それで残りの借金が金貨700枚って、ぶははは!山を両断したり、めちゃくちゃだな!超おもしろれぇーあははは!」
「もう少し慎重に生きた方が良いんじゃない?」
山道を歩く中で、話題は私の事に。聖女、教会についてはリサとの約束で隠す事になっているからそれ以外のことを全て話した。
「そうなんだよ。とにかく金がなくて。だから、どこか安く泊まれる宿、知らない?」
「それなら私達の施設にくれば?園長が優しくてクミみたいなの、たまに泊まっていくことあるよ」
「それがいいと思う。話を聞いてたら1人にしておくのが心配になってきたよ。それでお金はどうやって稼ぐつもりなの?私達は、これから冒険者登録しにいくけど、一緒に行く?」
なんか、ユリから母性のようなものを感じる。
「マジで!やったー!宿ゲット!…って、冒険者登録?何故?学園に入学してからでも良いんじゃないの?」
宿が見つかり、飛び跳ねる私……だけど、冒険者登録しに行くという言葉に疑問が浮かび、尋ねる。
「え?全員が試験に受かって学園に通えるわけじゃないんだぞ?それに学園に入学しても生活費は稼がないとな」
「そうそう……まだ、施設には小さい子達もいるし」
2人は話す。
「試験に落ちた後のことか……受けたら通えると思ってたから何にも考えなかったわ。とりあえず、ポーカーで一発逆転!しか頭になかった」
「お、おう……とりあえず一緒に登録しに行こうな?」
「一緒に登録しといた方がいいよ。クエストでお金も稼げるようになるから」
「ほー」
呑気な私となぜかものすごく哀れみの目で見てくる2人。
そんなに変なこと言っただろうか?
首を傾げながら、山道を下る。
*****
「ここが冒険者ギルド本部かぁ……無駄にでかい!」
「確かに……何度見ても無駄にでかい!」
学園都市の中心部にある「行政区」
全長2kmの中にあらゆる建物が所狭しと建ち並ぶど真ん中に冒険者ギルド本部はある。
一辺500mの四角形の10階建て。
「ちょっと!みんなに見られて恥ずかしいからやめて!」
道行く人達の注目を一身に浴びる私たち。
物珍しいものを見るような視線に頬を染めるユリと特に気にしないエマと私。
そんな恥ずかしがるユリに背中を押され冒険者ギルド本部入り口へ行く。
「でっけえ扉」
「おおーでっかいねー」
大聖堂の入り口と同じ大きさの扉というかもはや門を見上げる。
本当に何もかも無駄にでかい。
「開け!ごま!」
ユリが門に向かって手をかざし呪文を唱えると重々しい扉が徐々に開いていく。
え?今の言葉って必ず言わなきゃいけないの?すっげえ恥ずかしいんだけど……
ユリとエマを見ると当然と言った顔で門が開いていくのを見ている。
マジかぁ……ギルド本部マジかぁ……
「恥ずかしいねー」
門が開くと試験を受けた300mくらいの校庭と同じ広さのエントランスが現れる。
その奥に受付、素材買取などと書かれたカウンター式の窓口が10個ほどあり、その横壁にはクエストが冒険者の階級別に張り出されていた。
うへぇーー中も広いなぁ!無駄に……一体何のために、こんなに広いんだ?
「ほら!行くよ!」
おのぼりさんと化した私は、ユリに腕を引かれて受付へと向かう。
そんな受付にはたくさんのクエスト終わりと思われる冒険者が並んでいた。
「いっぱいだねー」
私たちが向かうのは冒険者達の列ではなく、冒険者登録と書かれた看板のある受付。
誰も並んでる者はいなくて空いている。
「冒険者登録でよろしいでしょうか?」
受付に座る疲れ顔の中年男性が、私たちに話しかけてきた。
「そうです」
エマが答える。
おお!私達に親しく話す時のエマと違ってキリッとした顔に変化した!おもしれぇーー
一方のユリは本人も言っていた通り、人見知りのようで、若干、体がガチガチ。
「わかりました。それではこちらの用紙にそれぞれの名前、戦士などの職業をご記入ください。それと3名での同時加入のようですが、パーティー申請もなさいますか?」
受付の男性に勧められる。
どうする?と2人が私に視線を向けてくる。
パーティー申請とか冒険者っぽいじゃん!良い!めちゃくちゃ良いじゃん!
「やるやる!やります!」
冒険者に憧れる私は飛び跳ねる喜びを表現する。
「承知いたしました。それではこちらの用紙にパーティー名をご記入ください」
おじさんは慣れた様子で紙を渡してきた。
「グッジョブ!おじさん!」
「お、おじ……ははは」
それから渡された紙に記入していく。
そういえば辞職してきたから聖女って書けないな……どうするかな?
「……よし!武器とか防具に金のかからない拳闘士にしよう!」
名前を書いた後に職業欄に拳闘士と記入していく。
そんな私を見た受付のおじさんは急に立ち上がる。
どうした!おじさん!痔か?痔でも痛むのか?
「え!そんな決め方で良いんですか?もっと、こう自分の得意武器とかを踏まえて書くとか……」
目を見開き心配した様子で私に顔を近づけてくる。
何だ……痔じゃないのか、
「だいじょぶだいじょぶ!こういうのはノリが大切だって!優しいねぇ!おっさん!」
私は笑いながら手をひらひらさせて話す。
モンスター討伐とかも、その辺にある枝とか小石でやってたし、何とかなるっしょ!
「……はぁ、なんか疲れました」
ぐったりした様子で力なく椅子に腰掛けるおじさんと白い目で私を見てくるエマとユリ。
「それでパーティー名は?」
弱々しい声でおじさんが聞いてくる。
「パーティー名……どうする?私は何も浮かばない」
「うーーん……あたしも!クミは?」
パーティー名か……
3人の共通点に関わる物がいいな。
私とエマはお金と酒が好きだということが判明している。
ユリはどうなんだ?
「ユリってお金好き?」
「え?……嫌いではないかな」
クリクリと指で毛先をいじるユリ。その目が少しだけ金色に輝く。
これは完全に好きだな。よし!なら、一つしかない。
「私たちのパーティー名は「金の亡者」で!」
ギルド本部のエントランスにクミの声が響き渡る。
隣に並ぶ冒険者やギルド職員の視線が一斉に私たちの方に向けられる。
どうした!痔なのか!みんな痔なのかい!
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