表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

6/57

初めての夜の街

 「はぁーー結局うまくいかなかった」


 学園から街へ降る山道をとぼとぼ歩く。

 

 夕陽はすでに傾き、半分が地平線の彼方にステージアウト。 


 「辛気臭いねーカビが生えそうだー」


 私の左肩に足を組んで座るシルフィ。

 こいつはーーまったく。怒ってもしょうがないか。


 私は気持ちを切り替える。

 私にはやってみたいことがあったから。

 私も13になり成人したので、夜の街を経験してみたい!


 「そうだ!お楽しみはここからだぜ!」


 顔を上げて街を見据える。

 生まれて初めての外食だ!楽しむぜー!

 山道を駆ける。



******


 

 山道から住宅街へと入り、道に迷いながらもなんとか商業区へと辿り着いた。

 夜でも魔道灯という魔石を使った灯りで昼間のように明るく夜になっても歩きやすかった。

 

 「うお!めちゃくちゃ賑わってる!祭りでもやってるのか?」

 「祭りだー祭りだー」


 商業区「夜街」

 飲み屋を中心に大人のお店、ギャンブルなどのお店が一斉に営業を始め、夜だけ人で賑わう街として「夜街やがい」と呼ばれている。


 おお!聖国では見かけない獣人!それも冒険者、制服姿の人と色んなのがいる!それに亜人!特にエルフさんーーナイスおっぱい!


 馬車が行き交う道が歩行者天国となり、ど このお店も1日の仕事を終えた仕事人達で埋まっていてどこもなかなか入れる場所がなかった。


 「しょうがない」


 たくさんのお胸様達に別れを告げ、賭け&飲み屋横丁と書かれた通りへと入っていく。


 沢山の人で混雑していた大通りと違い、人が少なく落ち着いた雰囲気のお店が並んでいた。

 

 「ふむ、お店がいっぱいあって迷うな…」


 良さげなお店が沢山あり迷う。

 そんな時はと亜空間から背中かきを取り出して、まずは背中をかいてリラックス

 

 「ふぅーきもちええー」


 その間に目を閉じて、5秒してから目を開ける。


 「ポーカー&BAR「スミス」ーーよし!ここにしよう!」


 まぶたを開けた瞬間に目の前にあったお店へと入る。

 他のお店より高そうだけど、まあ、いいや。どんと使おう!私には山賊達の金もあるからな!


 亜空間から銀貨と金貨が数十枚ずつ入った袋を取り出してワンピースドレスのポケットへと突っ込む。




 *****




 「こちらがメニュー表になります。お決まりになりましたらお声かけください。ポーカーは途中からでも参加できます。もしよろしかったらそちらもお楽しみください」 

 「うぃ、ウィッ!」


 ピチッと髪を整えたダンディーなマスターは説明を終えるとそのまま別の客のお酒を作り始めた。

 

 や、やべぇ!緊張で変な返し、しちゃったよ!なんだよ!ウィ!って!

 

 「恥ずかしいねー」


 シルフィは私以外の人間に見えないのを良いことにマスターの頭の上で寝っ転がる。

 

 くそー。周りに人がいる時は声に出して反応できないから余計に腹が立つ!こうなったら……


 「絶対にポーカーで大勝ちしてやる!」


 目に浮かぶ。大量の金貨に埋もれる私の姿。そして、高級宿に泊まって入学試験までの1ヶ月、豪遊しまくる私の姿……景気付けだ!1番高い酒で行こう!


 「ヘイ!マスター!」


 高級感あふれる老舗のBAR。

客のほとんどが仕立ての良さそうな服を着て、店の内装とマッチした落ち着いた楽器演奏を耳で楽しみ、ポーカーで心を躍らせ、マスターの作るカクテルを愛でる。


 そんなお店に私の元気の良い声が響く。

 なぜかマスターやディーラー、お客達の視線が私に集まる。


 みんなが私を見てる。驚いた目で、そうか。今の私はそれ程までに輝いているのか。全く罪な女だぜ


 「はい」


 マスターが落ち着いた足取りで私の方までやってくる。


 よし!いったれ!しかし、あくまでも大人の女らしく魅力的にお淑やかに……


 「この6属性カクテルをお店のお客全員分お願いね」

 「……かしこまりました」


 しばらく私を見つめたマスターは色んなお酒の瓶を揃えてカクテルを作り始めた。


 ふ……そんなに見つめても金貨しか出てこないぜ。たまに銀貨。


 「ははは!全員分とは気前がいいな!嬢ちゃん!」


 カウンター席に座る私に、少し汚れた服を着たとんがり帽子を被った歯が所々ない、でっぷり腹のおっちゃんが豪快に笑いながら話しかけてきた。

 

 「おうよ!今日の私は輝いてるからね!」


 しかし、物おじせずに話す。こういうおっちゃんの方が話しやすくていい。


 「ははは!面白え嬢ちゃんだな!よし!俺もポーカーで大勝ちしたから嬢ちゃんの分、奢るぜぇ!」

 「まじか!おっちゃん!見た目と一緒で太っ腹だな!」


 私は腹を叩く。


 「おおー心に刺さるひとことー

ふとっぱらー」


 のんびりした声で打楽器のようにお腹を叩くシルフィ。

 失礼なやつだ。


 「……ははは!この俺にそんな口を聞く奴は初めてだ!気に入った!俺がポーカーを教えてやるぜ!」

 「おお!やったぜ!」

 「お待たせいたしました。6属性カクテルです」


 マスターが出来上がったカクテルを持ってきてくれる。

 カクテルグラスに6属性の「赤」「緑」「土」「青」「白」「黒」の綺麗な飲むのがもったいなくなるほどの綺麗な一品。

 

 「うわぁ……」

 「おお!綺麗だね……」


 手にした瞬間に私の魔力に反応して、カクテルが輝き出す。

 私は思わず見とれる。

 普段は、ほとんど目を閉じているシルフィも見開き驚く。


 「ふふ…純粋な方ですね。どの言葉にも裏がない。ありがとうございます」


 マスターは頭を下げてカウンター奥へと歩いて行った。


 「久しぶりに見たな。あんなに嬉しそうなマスターは……よし!嬢ちゃん乾杯だ!」

 「乾杯!」

 「乾杯ー」


 もう少し目で楽しみたかったけど、一気に飲み干す。

 美味しい!お酒は好みが分かれるって見張りの兵達が話してたけど、私は好きだな!遅れて喉が温かくなる感じも心地いい。


 「よし!戦いに行きますか」


 おっちゃんは顔を叩く。


 ギャンブルをする前のしきたりかな?

 私もおっちゃんに習って顔を叩く。

 ジンジンする頬。

 お酒によってとろけた思考が引き締まる。


 そうか!ギャンブルは神聖な決闘と同じなんだ!決闘前に剣を清めるのと同じでこうすることで清めてから戦う。なるほどな!勉強になるぜ!


 「そんなわけないー」


 清めが終わった私とおっちゃんは互いに頷き合い、ギャンブルという名の戦場へと向かう。

 戦場にしてはみんな和やかだな。ま、いいか。

 危機迫る様相で席に腰掛ける。


 「賭け金を」


 と、ディーラーの兄ちゃん。


 その声に客達は銀貨を数枚出す。

 おっちゃんも銀貨を同じ数だけ出す。


 「いいか?ギャンブルはな。大きくかけてドカン!と勝つのがいいんだ。デカくかけておけ」

 

 おっちゃんが耳打ちしてくる。

 でっかくーーなら、

 私は山賊から貰った袋から金貨を10枚出す。

 

 「ーーおい!デカくって言ったけどデカすぎだ!一度にそんなに出す奴いねえよ!」


 おっちゃんが慌てた様子で話してくる。

 いや。デカくって言ったのはそっちじゃん。それに私がやりたいのは一発逆転!このくらいやらんでどうする!


 私の反応を見たディーラーは、金貨を回収していく。

 カードが配られる。

 

 「ポーカーはな……」


 カードを手にしたおっちゃんがワンペアとかフルハウスとか大まかにルールを教えてくれた。

 ふむ……「A」と書かれたカードが3枚。

 私は5枚の手札の内2枚のカードを交換する。

 

 「はい」


 ディーラーから新しく2枚のカードが配られた。

 ふむ?よくわからないけど、これで勝負しよう。


 「それでは……ジャックのスリーカード」


 みんな一斉にカードを開く。


 「クイーンのワンペア」

 「8と9のツーペア」

 「キングのスリーカード」

 「くそ!ノーペアだ!」


 おっちゃんの左隣の客が勝ち誇った顔で私を見てくる。

 ムカつく顔だな。1発、膝をぶち込むか?

 

 「はい!」


 力一杯にカードを反転させる。

 机の軋む音。


 「……Aと2のフルハウス!5番の方、おめでとうございます!」


 私の出した金貨10枚と客達のお金が全て私の方にやってきた。


 なんかわからんけど。きゃほーい!いらっしゃい!愛しき私の金!


 とりあえず勝った金で酒を追加。


 「おっちゃん!乾杯!」

 「くそー!次は俺が勝つ!」


 勢いよくカクテルグラスを傾ける。


 ぷはぁ!気分がいいぜぇ!


 「よっしゃ!次だ!かかってこーい!」


 頬を叩いて席に着く。

 

 その後……

 

 「な!ロイヤルストレートフラッシュ!」

 「2のフォーカード!」

 「Aのスリーカード!」

 「クイーンとキングのフルハウス!」

 「キングのスリーカード!」etc……


 気がつけば朝日が昇っていた。


 「すっからかん……嬢ちゃんに全部持ってかれた」


 落ち込んだ様子のおっちゃんは、朝日を背にして帰っていった。


 「ふっふっふーー」


 笑いが止まらない。

 ぎっしりと詰まった袋に頬ずり。


 「全戦全勝!金貨200枚!ギャンブル、やべぇ!たまんねぇ!」


 とりあえず袋を亜空間に丁寧に仕舞い込み、高級宿を探しに朝日に向かって歩き出す。


 「やばいかもねー」


 目を覚ましたシルフィの間延びした声。

最後まで読んでくださりありがとうございます。

よかったら、ブックマーク、評価、いいね。

よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ