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初めての裏口入学

 「はぁ……魔の森から逃げ出したモンスターによる街への被害、またか……」


 紳士服を着こなした妙齢の女性は、最近増えているギルドからの魔物被害をまとめたレポートを見て頭を抱える。

 それにより腰まである銀の長髪がさらさら流れ、見いいってしまう程きれいな顔を覆い隠す。


 「B級冒険者以上でやっと対応できるというのにーーこの発生件数じゃ、数が足りないな」


 学園の理事長職、冒険者ギルドのグランドマスター職に学園都市の都市長、それにS級冒険者としてのクエストーー

 睡眠不足による少しの頭痛を覚えた彼女「リサ」(38)は秘書の用意してくれたお茶を飲む。

 

 「ふぅ……」


 僅かだがお茶により頭痛が癒え、背もたれに身を預ける。

 静かな理事長室。騒がしい日常を送る彼女が唯一心の平穏を保てる場所。

 しかし、突如として静かな部屋を揺らす衝撃と爆発音に似た音ーー

 再び痛み出す頭を抑えてため息をつく。


 「少しくらい休ませてくれ……」

 

 学園を見渡せる理事長室の窓から事態を把握するため椅子から起き上がる。

 

 「おいおい…勘弁してくれ……」


 窓から見た目を疑いたくなる光景に彼女はぐらつく目を抑える。

 何者かの攻撃により学園を覆っていた結界の消失、壁の崩壊ーー


 避難し出した生徒達を見て教師陣の対応の速さと優秀さに感動しつつ、自身は敵の発見、殲滅をするために行動を開始する。


 「ふむふむ」


 と、理事長室を出るために振り返ろうとしたリサの背後から人の声。

 体に緊張が走る。


 全く気配を感じなかった。S級冒険者の私に気配を察知させずに、背後を取るほどの敵とは……


 死を覚悟するリサ。


 しかし、その瞬間、数年前にクエストを共にした出鱈目な聖女の顔が浮かぶ。

 この世で最強の真竜を相手に、私たちS級冒険者が苦戦する中、1人で戦場に現れ、あくびを浮かべながら退治してしまった人物。


 その時も眠い目をこすりながら、私を見た途端に目を輝かせて背後へと回り込み「ふむふむ」と言いながら胸を揉まれた。


 その時と似た感触が胸から伝わる。


 揉まれているのに嫌な気持ちが湧き上がって来ず、逆に敬われているという気持ちよさが伝わってくる不思議な感触……


 「相変わらず素晴らしいお胸様だ!しかし、健康状態が良くない。睡眠不足と鍛錬不足で垂れてきてる。私の知見からこの状態を改善するには今すぐ栄養のあるものを食べて横になる必要があります」


 診断結果を患者に伝える医師のように話す。

 胸から感触がなくなり、気配が離れていく。


 「大きなお世話だーー刺突!」


 左腰の鞘から日本刀でいうつばの部分が氷華のデザインとなっているオリジナル氷結系レイピア「雪華」を振るう。


 「ほっ」


 クミは空から舞い落ちる羽を掴もうとする時のように人差し指と親指でレイピアの刃先を摘んで受け止める。

 

 「ーー相変わらずだな。乳揉み聖女」

 「はっはっは!人間はそう簡単に変わらんよ。えっと、ありさ!」

 「ーーお前、私の名前忘れたのか」

 「……あははは!」


 互いに空中に浮きながら笑顔を浮かべる。




 *****




 「どうぞ!」


 灰色のタイトスカート、白のワイシャツをセクシーに着こなすメガネ美女がお茶を出し、部屋から出ていく。


 美女の名は「メービス」さん。

 リサの担当秘書だという。

 羨ましい……是非とも毎日拝みたいお胸様をしている。


 「お姉さんーーナイスおっぱい!」


 私は爽やかな笑顔を浮かべサムズアップ。


 「やめい!」


 対面に座るリサに手を叩かれる。


 「おおーいいツッコミだねー」


 と、シルフィが反応の速さに驚く。


 確かに……いいお胸様だ!動くたびに程よく揺れる。まだまだ若い!これからだ!諦めるな!私!5年後にはリサの様になっているはずだ!……たぶん


 自分の胸のリサの胸を見比べて絶望する自分を鼓舞する。


 リサの攻撃によって崩壊した理事長室でら話せないと、その隣の秘書室に私たちはいる。


 「素晴らしい秘書だ……おそらくパッド4枚挟んでいるんだろう」

 「そんなわけないだろう。本人が自前だと学校内で自慢してるのを見たぞ」

 「責めているのではないのです。ただ私は素晴らしい擬似巨乳だと言っているのです」


 私が悟り顔で擬似巨乳と言った瞬間ーー


 「誰が擬似巨乳ですって!……ええ!その通りですよ!でも、残念でしたね!私が挟んでいるパッドの枚数は5枚です!」


 勢いよく扉が開き、擬似巨乳さんが勝ち誇った顔で言い放ち、扉を勢いよく閉める。

 

 な、なに!私としたことが!


 「見落としたとでも言うのか!延べ6万人の胸を揉んできた!この私が!ーーくそ!」


 来客用のソファから床へ崩れ落ち四つん這いに。


 「あー。この後、お前の増やしてくれた仕事を処理しなければならない。早く要件を言ってくれ」


 リサは頭を抑えてため息をつきながら話しかけてくる。

 全くーーもう少しいじけさせてくれてもいいだろう。

 ケロッとした顔で起き上がり、ソファに戻る。


 「実はーー」


 私は、洗いざらい全てを白状した。


 「大聖堂に風穴を開けて、金を奪って逃げてきた。しかも腹いせに兵士を100人血祭りに上げてーーはぁ」


 話を聞き終えたリサは、青ざめた顔で天を仰ぐ。

 

 「まあ、教会側のこれまでの仕打ちに比べれば安いものか。その程度の損害なら、これまでのお前から奪った稼ぎでいくらでも補填可能だろうし、信者達からの「お布施」もあるからな。それにクエストで得たお前の金を奪っていたなら、規約違反だし窃盗と同じだ!ーーと、事情はわかった。で、これからどうするんだ?」


 私の話を聞いて少し怒り顔のリサさん。


 「この学園に通って友達を作る!そして、冒険者として大金を稼ぐ!さらに不労所得も狙う!ーーとにかくこの街で生活したい!」


 私は頭を下げる。


 「わかった。しかし、1人だと何をするかわからないから、私がお前の保護者になる。学園理事長、そして、この国を統べる私の顔に泥を塗るようなことはするなよ。それから聖国が逃げたお前を放っておくとは限らない。早めにB級以上の冒険者になることも命題だ。B級になれば国に縛られることはないし、搾取されることもない。わかったな」


 リサは窓の外を指をさしながら話す。

 心外だな。私が何をしたと言うのだ。新たな入り口を作っただけだぞ? 

 心の声を読まれたようで睨まれた。


 「はい!肝に銘じます!さっさとB級冒険者にもなります!」

 「よろしい!それで学園へ通うなら来月の入学試験を受けると言うことで良いんだな?選択は冒険者コース」


 き、きた!

 ついに訪れた瞬間に胸が高鳴る。

 私の目的は何においても「楽」をすること。入学試験などごめんである。だから、この瞬間のために、わざわざ金庫から自分のお金を持ってきた。


 亜空間から持ってきた金貨200枚を取り出す。


 「どうぞ。寄付です。お納めください」


 リサに金貨の入った袋を手渡す。


 見張りの兵士達が言っていた。

寄付さえすれば、どんな学校へも簡単に入学できると。お前達のことは嫌いだけど!その言だけは信じるぞ!信じるからな!頼むぞ!……あと、もう聖女からの搾取はやめろよ!

 

 「そういうことかーー確かにもらっておく」


 つ、通じた!

 内心でガッツポーズ。

 やった!お前ら!大好きだ!


 「お前が壊した壁と結界の修理代として!これでも全額は賄えないから残りは借金だ。毎月しっかりと返済しろよ。それで?他には何かあるか?」


 リサは擬似巨乳を呼び、金貨の入った袋を笑顔で渡す。

 や、やられたー!私が裏口入学の取引を持ちかけたことを理解した上で修理代を回収しやがった!はめられたー!

 

 「特に何もないなら話は終わりだ。これが入学試験の案内書だ。目を通しておけよ?それから、こういうことはやめておけ。人間として!いいな?」


 ものすごい形相で睨まれてしまった。


 「う、ウィっす!」


 その後、擬似巨乳に案内されるままに、学園の外へ。

 やっぱりお前らーー大っ嫌いだ!!

 心の中で、今頃ベッドの上にいるであろう私を部屋に投げていた兵士たちへ叫ぶ。

最後まで読んでくださりありがとうございます。

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