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ダンジョン実習③

 「紋章を使うのは、久しぶりだからうまくいくかわからないけど魔王様からの命令だし……やるしかない!」


 岩陰からクミの様子を伺っていたS級冒険者のステフは、手の甲に魔力を流すと出現する魔王の紋章を使って、クミ達の集合場所となっている開けた広間のような空間には通常はモンスターは現れないが紋章の力によって無理やりダンジョンをいじって出現させる。


 「頼む!出てきてくれ!オーガ!」


 ステフが呼び出したのは、E級のゴブリンダンジョンでは、通常ありえない規格外の

B級モンスター「オーガ」


 魔王からの与えられた紋章は、世界にあるいくつものダンジョンを行き来できる能力とステータス「幸運」の数値に依存する形になってしまうが、ステフのように一般人の50倍である「幸運値1000」あれば、かなりの確率で種族別になっているダンジョンの最上級モンスターを生み出すことができる。


 今回で言うなら、鬼系モンスターの最高峰「オーガ」となる。


 「フフン……さすがは、この僕だ!」 


 幸運だけで成り上がり、その末に、魔王軍四天王の1人となったと言うか、なってしまった男「ステフ」の視線の先……生徒たちの正面にオーガが現れる。


 「頼むよー!聖剣を持ってるって情報が合ってるかどうかだけ魔王様は知りたがってるから!なんとか聖剣を引きずり出してくれ!」


 オーガに向けて、祈るように両手を合わせる。


 


 *****

 


 「グオオ!」


 オーガの叫び声が轟く。


 「……誰だよ。私の睡眠を妨げる者は」


 夢の中で黄金風呂を満喫していた私は、不快な喚き声に目を覚ます。


 「お、おいおい!」

 「学園のダンジョンで!」

 「オーガ!」


 息ぴったりの三兄弟……長男!次男!エンド!


 相変わらず仲がいい。


 「ふぁぁぁ……何かあったの?」


 あくびをしながら立ち上がり、隣に立つエマに尋ねる。


 おほー♡なんか知らんけど、振動で微弱に揺れるFカップ


 「ふむ!最高ですな!」

 

 顎に手を当てて観察。


 「んー……なんかオーガが現れたっぽい」

 

 いつもと変わりない様子で話すエマは、オーガの方を見たまま、腰に刺しているダガーを鞘ごと抜き、私に向けてくる。


 「ちょ!そんなので叩いたら!」


 焦る、私。


 「せっかくの微弱な振動に揺れる見事なおっぱ!」

 「黙れ」


 力説してる途中で思いっきり叩かれた。


 「いっ、てぇぇ!」


 頭頂部を手で押さえて転げ回る。


 鞘の剣先で思いっきり刺されたぁ!陥没した!メリ!って言ったよぉぉ!……

 ちなみに陥没乳〇は大好きです!


 「よーし!今日こそは!野に放たれた野獣を元の人間に戻してみせるよ!」


 すかさずダメージを負った私の頭にハイヒールをかけてくれるユリ。


 「おお~効くぅぅ」


 私はあまりの気持ち良さに白目を剥く。


 「ぎゃああ!そうだった!あんまり頭にヒールをかけすぎると活性化しすぎてよくないんだった!」


 たまにやらかしてくれるユリさん。


 「ごめん!ごめんね!さらに馬鹿になっちゃったかも!」


 焦った様子で私に駆け寄って抱きしめてくれるユリさん……


 そうなのかー。床上スケーティング!とか33回転アクセル早朝迷惑エディション!をするようになったのはユリのせい……


 「……いや、元々だ!おぎゃぁぁ!と生まれて13年!いつだって私はこんな感じだ!」

 

 名残惜しいがユリさんの太ももの感触によって、エネルギーチャージが完了した私は元気よく飛び上がる。


 「なーんだ!生まれた時からなら直しようがないじゃん!出会った時から手遅れじゃん!よかったぁ……」


 素晴らしい隠れ巨乳にそっと手を添えて一安心といった息を吐くユリさん。


 「ユリさん……心が!心が痛いっす!私も一応、野獣 兼 人間!なんで勘弁してください」


 胸を抑えてユリに必死の人間アピール。


 「あ、ごめん。そうだったね。兼業してるからギリギリ大丈夫なのか?……まあ、なんでもいいか……よーし!クミさん!オーガをやっておしまいなさい!」


 出会った頃はもっと真面目だったのになぁ……


 すっかり私色に染まってしまったユリを寂しく思う。


 「グオオオオ!」


 寸劇を繰り広げる私たちの間にオーガ叫び声が飛び込んでくる。


 「……うるせぇ!もう少しくらい寸劇をヤらせろぉぉ!」


 亜空間から聖剣を取り出してオーガに向けて投げつける。


 「グ、グオ?(え、俺のこと?)」


 エマと互角の戦いをしていたオーガは戦闘中にも関わらず、真面目に私の声に反応してくれる。


 「そうです!お前です!静かにしてください!」


 その瞬間、私の投げた聖剣「エクスカリバー」がオーガの体を……


 「グオ!グオオ!(うお!なんか飛んできた!)」


 棍棒ではたき落とされてしまった。


 「ええ!伝説の剣なのに!しょぼっ……」

 

 落胆する私。


 「あんたの使い方が悪いのよ!」


 地面を転がる聖剣から流れ込んでくる感情。


 「ええー!だって、そいつ腰布すらしてないじゃん?汚いじゃん?近づきたくないじゃん……ねぇ?」

 「え、ええ……確かに」


 私の意見に同意してくれるユリ。


 「グ、グオオ……(好きで、こんな格好してるわけじゃないのに……)」


 私の言葉に心を抉られた様子のオーガは下を向いて涙を流し始める。


 「なんか可哀想……」

 「ちょっと言い過ぎじゃない」


 オーガを泣かせた私にみんなから非難の目が集中する。


 「ええ!私……」


 オーガは体育座りになり、地面に指で何かを書き始める。


 「えっと……傷つきました。謝ってください……だってよ」


 エマはダガーを構えたまま、オーガの近くに行き、書いた内容を伝えてくれる。


 「ええ!文字書けんの!」


 私は思わず叫んでしまう。


 「グ、グオオ」

 「えっと……なぜかわかりませんが書けます……だって」


 オーガが地面に書いたものをエマが伝えてくれる。


 「うーん……そっか、人魚とか人間と友好的な魔物もいるっちゃいるしな……突然変異かな?」

 「多分ね……学園都市近くの砂浜に行けばいっぱいいるしね」

 

 突然、ユリから耳寄りな情報が舞い込む。


 「ほほう……ちなみにどんな姿をしてる?」

 「え?エマと同じようなビキニ姿にエルフのような可愛さ?だったよ」

 「……」


 う、うっひょーい!……マーメイド天国!この世にも天国は実在したんだぁ!


 「あ、やべ……」


 興奮のあまり鼻血が吹き出す私。


 「もう……世話が焼けるんだから」


 準備の良いユリは、ポケットから紙を取り出して鼻を拭いてくれる。


 ありがとう!ユリまま。


 「なぁ!こいつ、どうする?」


 そんな私にエマから声がかかる。


 んー、どうすると言われても……

ん!んん!待てよ…


 「ああー、確かリサが、あちこちで魔物被害が多発してて、最近はまともにダンジョンを管理できなくなってきてるって言ってたから、ここの管理人にしちゃわない?」


 私は提案しながらオーガの元に転移する。


 「どうだ……その前に、これを腰に巻いて」


 オーガに亜空間から取り出した大きめのバスタオルを差し出す。


 「グオオ?(いいのか?)」

 

 オーガは差し出されたバスタオルを嬉しそうな目で見て、受け取っていいのか私に聞いてくる。


 「おう!気にすんな!」

 「グオオ!(ありがとう!)」


 よっぽど嬉しかったのか、誕生日プレゼントをもらった子供のように、無邪気に腰にタオルを巻く。


 うん!完全に風呂上がりのいかついお父さんって感じ!似合うよ!オーガくん!


 「それで管理人はやる?」

 「グオオ!(よろしく頼むよ!)」


 礼儀正しいオーガは頭を下げてくる。


 なんか、可愛い……


 「おっし!後のことはなんとか……なるっしょ!私に任せておけ!」


 オーガを安心させるように肩を叩いてやる。


 「「「……不安だ」」」


 肩を組み合うクミとオーガを見た他のみんなは口を揃えて言う。


 「だははは!任せておけ!」

 「グオオ!(ありがとう!)」


 私に新たな友達ができた。



 *****



 「えええ!オーガと友達になった!」


 肩を組むクミとオーガを見て驚愕するステフ。


 「……予想の斜め上を突き抜けていくやつだ……まあ、いいか。勇者から奪った聖剣は奴の元にあることが分かっただけでも……」


 クミをひと睨みしてからダンジョンの外へ向かって歩き出す。


 「しかし……どっかで見たことあるんだよなぁーあの黒髪……」


 クミの後ろ姿が記憶の何かと被って仕方がないステフであった。

最後まで読んでくださりありがとうございます。

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