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プロローグ『蓮見 士郎、三十路』
——後、一分。
時計のカチ、カチという音が耳に響く。
時刻は二十三時五十九分。
一分後には八月一日になる。
暗いアパートの一室で俺——蓮見士郎は黄昏ていた。
——後、三十秒。
八月一日——それは俺の誕生日。
成人すると年齢に無頓着になる。
気づけば三十路。おっさんの仲間入りだ。
が、特に悲観することはない。
これからも俺はサラリーマンをしながら、唯一の趣味である運動をして生きていく。
変わらない日々。変わらない日常。
年を重ねると、平穏を求めるようになる。
俺は、ただ平穏に生きていければいい。
——後、一秒。
俺は目を閉じる。そして、呟く。
「誕生日おめでとう、俺」
感じるのは頬を撫でる優しい風と自然の匂い。
これからも頑張ろう。
そう決意して、目を開けた先に広がる世界。
それは——
「……んっ?」
辺り一面に広がる、緑の草原。
その真ん中で、俺は黄昏ていた。