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幽閉された僕はなにもしていない

作者: あんず

僕が3歳の時だった。

王妃であった母が、側室の子である異母兄の殺人未遂により投獄されたのだ。

僕は乳母であったばあやと共に、ボロボロの塔に幽閉された。


それは投獄とほぼ変わりない対応だが、3歳という年齢を考慮した甘めの対応だったらしい。

僕は16歳になったが、そこら辺は詳しくは知らない。

勉学するにも教師がおらず、ばあやに教えてもらうしかなかった。

幽閉されているので、流行や政治についての情報など一切わからないのである。


僕はばあやに申し訳なかった。

僕の乳母だったばっかりに一緒に幽閉されてしまったのだから。

そんな罪悪感だけが募って行く毎日であった。


食事は定刻になると、塔の窓から入れられる。

それ以外はなにもやってこない。

水道は使えるので、なんとか清潔を保っているが、3歳の頃から使っているシーツはもうボロボロである。

食事だって、2人分とは思えない量である。


ばあやは僕を思ってか食べる量が少ない、どんどん痩せ細るばあや。

3歳のころから変わらない食事量に、どう考えても食べ盛りの男が正常に成長していけるわけがなかった。

僕の身長はとうに伸びなくなった。

どんなに餓えても、嘆願するにも相手がいない。


「坊ちゃん、心を強くお持ちください」

ばあやの口癖であった。

ばあやは自分自身にも言い聞かせていたのだろう、風邪を引いてもお医者様すら呼べない環境に、僕らは強く生きなければならなかった。


そんな僕らの日常がとある女によって崩れてしまった。

この塔に新たなメンバーが現れたのである。

異母兄であるフィンクスの元婚約者と名乗るアーニャ。

僕とばあやのみずぼらしい姿をみて、眉を寄せた。


「私には助けが来ますの。もし可能であれば、あなた方の環境の改善もお願いしてみますわ」

心の優しい女の子であった。

アーニャは最近の外の世界について教えてくれた。

といってもアーニャも学園での寮生活のため、偏りがあるとは言っていた。


アーニャがなぜここに来ることになったのかも教えてくれた。

アーニャはフィンクスの婚約者であったが、当のフィンクスは別の女性と愛し合っていたそうだ。

婚約を白紙にして、その女性と婚約し直せばよいものなのだが、自分が有責であることが耐え難いと、ありもしない罪をでっち上げアーニャを幽閉したようだ。

アーニャは公爵の身分なので、借りを作るのも嫌だったようだ。


しかし公爵家の家族はアーニャが幽閉されることに大層お怒りで、必ず出してやると約束してくれたそうだ。

アーニャはその言葉を信じて、助けが来るのを待つそうだ。

僕もばあやも知らなかったが、側室は王妃となり、さらに兄弟が3人増えているらしい。

長男のフィンクスは僕の母が毒殺しようとしていた相手である。


「でも、その毒殺自体も側室だった王妃様の虚言でないかという噂があるの」

アーニャは事件がその後も捜査されていることを教えてくれた。

王妃様にバレないよう、内密に調査が行われているらしいが、やはり『やっていない』という証拠を見つけるのは大変なことなのだろう。

それでも、僕もばあやも母が無実であれと、日頃から思っていたので救われた気分である。


アーニャが塔に来ても、食事の量は変わらなかった。

3人になったはずなのに、少量のご飯である。

均等に分け合い、僕たちは飢えをしのいでいた。


3日も経たないうちにアーニャは風邪を引いてしまった。

公爵として、それなりの生活をしてきたアーニャにはこの幽閉は無茶である。

僕とばあやはお医者様を呼んでほしいと、食事係が来る時間帯に窓辺によって叫んでみるが、なにも反応がなくただ、食事が置かれるだけであった。


僕とばあやは、アーニャの看病をできるだけ行った。

水分をよく取り、汗は拭いて、できるだけ清潔にしてベッドなんて呼べない粗末な寝床で休んでもらうしか他にすることがなかった。

高熱でうなされるアーニャに僕たちは何もできないことを嘆くしかなかった。


しかし次の日には熱も下がり、笑顔を見せるアーニャを僕たちは涙を流して喜んだ。

食事は粗末なご飯でしかないが、体力をつけるのが大事だと、大半をアーニャに譲った。

アーニャは遠慮したが、僕たちが譲らなかったので、しぶしぶ食べていた。


その後も3人で過ごしていた。

1ヶ月が経とうとするころ、アーニャのなかで焦りが出て来ていた。

家族を信じていても、いつまでこの生活なのかと、本当に出れるのかと、恐怖に押しつぶされそうなアーニャを僕たちは必死で支えていた。

『やっていない』を証明するのは大変なのだ。



2ヶ月がたち、3ヶ月がたち、アーニャはどこか諦めていた。

支えていたはずの僕らでさえ、本当に迎えが来るのか信じられなくなっていた。

アーニャは日付が経つにつれ、やつれて行くが、たくましくもなって行く。


半年が来るころ、ようやくアーニャにお迎えがきた。

騎士が塔まで迎えに来て、アーニャのみを連れて行ったのである。

出会いも突然であったが、別れも突然であった。


アーニャはまた来ると言っていたが、ここに来るのは難しい。

食事係以外、近寄れないよう王命があるのだ。

しかし、そんな予想は覆され、1ヶ月後には元気になったアーニャが迎えに来てくれたのだ。

会いに来たのでない、迎えに来てくれたのだ。


物心つく前からこの塔に幽閉されていた僕は、外に出たのである。

実質初めてと言っても過言ではない。

アーニャは僕とばあやを王城の応接室へと案内してくれた。

みずぼらしい2人、きらびやかな王城に縮こまる勢いで気配を消していた。


「初めまして、兄様。僕はライラックと申します」

そこで現れたのはきらびやかな洋服を着たし少年であった。

年齢は14歳とのこと。

王妃が生んだ2人目の子供だそうだ。


今回、アーニャを幽閉から解放するために、様々な問題を解決する必要があった。

そのため、アーニャの迎えが遅くなってしまったそうだ。

その中の一つが僕の母の無罪である。

王妃の虚言が立証され、母は監獄から解放、逆に王妃が投獄されることになったそうだ。


そして、王についても、嘘とわかっていながら、王妃を陥れたこと含む様々な悪事が露呈し、処刑されたそうだ。

代わりとして、即位するはずだった長男であるフィンクスは婚約者を陥れた罪により、王家の資格なしと平民送りとなった。

わずか14歳にして即位したライラックは、居心地が悪そうに僕たちの正面に座る。


「本当は兄様に王位に付いてほしかったんだ」

ライラックは僕の存在を知らなかった。だが、実の兄の底意地の悪さを知っており、自分がしっかりしないとと思い立ち、即位を決意したそうだ。

その後アーニャの解放が行われ、僕の存在を知ったが、王位を譲るのは問題視されているそうだ。


「僕としても、何も知らない世界だから、少しでも知っている君の方がいいと思う」

僕の言葉を汲んでくれて、ライラックは僕とばあや、それから母さんとを公爵家の持つ避暑地にひっそりと住まわせてくれるよう手配してくれた。

僕は16歳になってようやく、家族揃って平穏な生活を送れるようになった。


なぜか学園を卒業したアーニャが紛れているのだが、誰も何も言わないので、みんなひっくるめて僕の家族なのだと胸を張って宣言します。



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