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「幸運」スキルが仕事をしない! ~ 裏ギルド出世街道  作者: 三上康明
エピローグ ビビリ・ひ弱・童貞と三拍子そろった小市民の俺ですが「幸運」スキルがあっても裏ギルドで出世するのはお断りだ!

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そして1年の月日が経った

「11、12、13……14。確かに、聖白金貨14枚だな……1千4百万イェン、受け取った」


 本部長の部屋のローテーブルは新しいものに入れ替わっていた。

 だけど見た目は前とまったく同じ。

 さすがにこのテーブルの代金まで請求されたらたまらないとは思っていたが、それは言われなかったっけ。

 テーブルに置かれた14枚の聖白金貨は、1枚が百万イェンという価値がある。

 あの約束から1年。

 俺は——16歳になっていた。


「ありがとうございます。これで諸々、チャラですね?」

「……まあ、そうだが。お前これからヒマか? ちょっと飲みに行こうや」

「お誘いはうれしいんですが、現場仕事がありましてね」


 まだ昼にもなってねーってのになにが悲しくてゴリラの顔を眺めながら酒飲まなきゃならねーんだよ。


「現場監督のピョイとベッスルじゃダメなのか?」

「……俺が行かないとどうにも動かないことが多くて」

「ふぅん、そんじゃしょうがねぇな」

「では失礼します」

「おう」


 俺は一礼して本部長の部屋を出て、「蜥蜴とピッケル」の事務所を後にした。相変わらず小汚い事務所だ。俺が独立ギルドを手に入れた最大のメリットは、この汚い事務所に来なくてよくなったってことかもしれん。


(さっきの本部長の顔、あれは絶対なにか企んでるんだよな)


 さりげなく現場監督はピョイとベッスルなのか? そうなんだろ? ってカマもかけてきたしな。


(大方、俺がどうやってたった1年で1千4百万イェンも貯めたのか気になってるんだろうな。で、ピョイとベッスルに酒でも飲ませて全部話させる、と。あわよくば儲け話をかすめ取ってやろうとか思ってるのかな? そんなに簡単なら誰でもやれてるっつう話だよ)


 そんなことを考えながら、俺は家に戻る——スラムから離れた、古いながらもこぎれいな一画にある集合住宅(アパートメント)だ。

 俺の仕事をやるにはスラムに住んでいるのはよろしくないのである。

 で、久々に袖を通したガラの悪いスーツを脱いで作業着であるツナギに着替える。


「あら、今から仕事かい、ダフニアちゃん。重役出勤だねぇ」

「からかわないでくださいよー。……俺、臭ってないですかね?」

「大丈夫よぉ、清潔にしてくれてるから助かるわぁ」


 大家のおばちゃんに挨拶して出て行く。

 とにかく気をつけているのは、「まっとう」であること。

 まさにこれこそが俺の目指した生き方だからな。

 そこから俺が向かったのは、王都の役人が管理しているエリア——そこを、借りている鍵を使って入る。

 ひっそりとした小径を抜けると階段が現れ、そこを下っていくとイヤなニオイが漂ってくる。

 もう慣れたもんだけどな。


「おう、そろってるか」

「ういーす」

「ういうい」

「…………」


 気の抜けた返事をしているのがピョイとベッスルで、無言でつまらなさそうなのがフェリだ。


「よし、行くぞ。今日の下水(・・)はどうなってるかな~」


 俺の仕事は、そう、下水道の整備だ。




 1年も経てばいろいろなものが変わる。

 そして、忘れられる。

 俺が——というより下水と「青浪鯱々」が引き起こしたガス爆発事件は最初の1月こそ酒場の話題としては最高のものだったが、やがて忘れられた。

 その事件に俺が関わっていたこともウワサされ、俺の不名誉な二つ名である「からくりダフニア」と「血煙ダフニア」がくっついて「からくり血煙殺すニア」という頭のネジが2つ3つブッ飛んでる二つ名に進化していた。

 だがそんな頭のおかしいニアさんも、表舞台から去ればまた忘れられていく。活躍しなければ新たなウワサも生まれないのだ。

「龍舞」の「七若龍」に入れ替わりがあったとか、「青浪鯱々」の幹部が「青々虎々」に呼び出されて大目玉を食ったとか、アティラ様がまた悪人を捕まえたとか……王都ではそういう話題に事欠かないのである。

 そして確かに、麻薬の取り扱いに関する俺の嫌疑は晴れた。麻薬中毒になった人たちもすぐに回復したので騒ぎは大きくならず、倉庫への不法侵入だけが俺の罪状として残った。しかし倉庫の持ち主にも「龍舞」が手を回してくれたらしく、持ち主が訴え出なかったので刑はナシ。「龍舞」様々である。できれば二度と近寄りたくない人たちだ。

 いや……よくよく考えてみると、一晩でマーカスの麻薬製造工房を見つけ出すとか「龍舞」の情報網、ヤバ過ぎんでしょ。

 そのマーカス(故人)には、治安本部の捜査が一度入ったがもちろん死んでいるので不起訴。「青浪鯱々」はマーカスは3年前に破門しており関係ないと言い張り(大嘘)、もちろん破門の証拠(ねつ造)あるのでお咎めなし。いろいろなものが闇に葬られ、治安本部のエドワード第4部長は胃が痛いだろうなぁと心中お察しする。

 16区に手を出された「龍舞」は「青浪鯱々」を撃退したことで面目が立ち、「青々虎々」はあくまでも「青浪鯱々」の暴走ということで手を打ち、ただひとり「青浪鯱々」だけが割を食った感じだ。

 しばらく「『からくり血煙殺すニア』ってヤツはどこだ」と聞いて回るジーンズジャケットの男たちがいたようだが、ニアなんてヤツは見つからなかった。「蜥蜴とピッケル」にももう俺はいなかったし。いやほんとフェリ様のおかげでダフニア(・・・・)は元気です。フェリが「ニアニア」言っていたおかげだ。

 こういうのは「どっちが手を出したか」というのが非常に重要らしく、レイチェルティリア様と「王都最強のケンカ屋」があのとき手を出さなかったのは、その辺を考えてのことらしい。先に手を出したほうは面子をかけて「勝つ」まで手を引けなくなるとかなんとか。

 まあ、俺の知ったことじゃないわ。もう、俺は裏ギルドからは足を洗ったからな!


「……この区画か。こりゃまた古いな。天井の崩落があるかもしれねえから気をつけろよ」

「へい」

「ういーっす」

「…………」


 相変わらずの3人とともに作業に当たる。

 基本的にピョイとベッスルを組ませて、ネズミとかの害獣がいれば処理させる。

 俺は下水道のマップを更新していく。

 この下水道——王都の長い歴史の中で、何度も工事が始まったり終わったりして全容を把握できている人間がいないらしい。

 巨大なトンネルが王都の地下を縦横無尽に——まるで迷宮のように走っている。

 で、役人としては場当たり的にトラブルを処理してきた。

 それを請け負っていたのが裏ギルドだ。

 だけど先日のガス爆発で「いい加減ちゃんと管理しろ」という命令が雲の上の人たちから下って、役人たちは大慌て。

 そこへ、新たにギルドを立ち上げた俺が現れた、というわけだ。

 俺としては裏ギルドで過ごした経験から、下水道の仕事をまとめて引き受ければ金になると思ったんだ。裏ギルドで、下水道の仕事を喜んでやってるヤツはいなかったし、それは「蜥蜴とピッケル」に限らずよそもそうだろうと。

 ただシマの縄張りがあるからよそのチンピラを入れたくないだけ。

 であれば、「龍舞」や「青々虎々」なんかの息が掛かっていないギルドが請け負えばいいじゃないかと。

 役人も、俺の仕事ぶりは知っているので歓迎するだろうと踏んで——それをクソピンクゴリラに提案し、ヤツも承諾した。

 ウチのシマだけじゃなく「よそのシマの仕事も奪える」というのが気に入ったらしい。

 まあ、実際は「誰もやりたくない仕事を引き受ける」ってだけなんだけど。

 それを言っちゃえば死体の運搬なんかもそうなんだけど、こっちは治安本部とのやりとりや、犯人が身内だったりして裏ギルドが手放したがらない。

 ともあれ、全部まとめて引き受けちゃえば金になるという俺の見込みは当たった。

 ガス抜きや補修作業なんていう簡単なものは日雇いを使ってこなし、「下水道の全貌を把握する」みたいな難しい作業は俺がやってる。

 ちゃんと利益が出ているおかげで、1千4百万イェンを渡したあとも「解散しろ」と本部長は言わなかった。利用価値に気づいたんだろう。

 楽しいだけじゃないけどな、もちろん。

 白骨死体が転がってるのなんて日常茶飯事だし、ガスを吸ってぶっ倒れたこともあった。

 白骨が抱えた財宝みたいなのを見つけたときにはネコババすることも考えたけど、これを役人にちゃんと報告することで信頼も得たし、それ以降は俺からの請求書はノーチェックで通るようになったっけ。

 そもそも宝石の売り方なんて知らんし、足がつくのが怖いわ。

 その財宝がどうなったかは知らん。


「フェリ、鉄扉だ」

「…………」


 朽ちた鉄柵や扉みたいなのがあちこちにあって、そこではフェリが大活躍だ。

 そう、「破壊」スキル——ではなく、


「ニアのぉぉぉぉバカやろぉぉぉぉぉ!」


 どんがらがっしゃーん。

 蹴りだ。

 フェリの蹴りは相変わらず鉄扉くらいぶっ壊す。


「……なあ、お前まだ怒ってんの?」

「別に」


 ぷいっ、と顔を背けるフェリ。

 怒ってるじゃん。

 こいつは、俺が裏ギルドから抜けたがっているのが気にくわないのだ。


 ——ニアならぜってートップギルドになれるって!


 と俺に目をきらきらさせながら言ってきたけど、仮にそんな才能が俺にあるのだとしてもイヤだっての。お断りだ。

 そんなやりとりを1年も続ければ、フェリはくすぶるだけの破壊神となる。

 だけどなぁ、俺の目標は、手堅く生きることなんだよ。


「なあ、ニア。ピョイとベッスルのことだけど……」

「…………」


 唇を尖らせている。

 こいつはいまだに、俺がピョイとベッスルをこの仕事に引き込んだことも気に入らないらしい。意外と嫉妬深いのだ。アイツらただのバカなのに。


「……あのふたりに、この仕事を引き継ぐつもりなんだ」

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