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「幸運」スキルが仕事をしない! 〜 裏ギルド出世街道  作者: 三上康明
第4章 裏路地の暗闘

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裏ギルド会議 後

「ダフニアくん、安心してください。ボスは昨日見た歌劇を思い出してそのセリフを言ってるだけですから」


 若頭が言った。


「…………」


 え、えぇ……? 完全にボケちゃってるってこと?

「子の失敗は親の失敗」とか、俺は柄にもなく、すこしだけど、ほんとのほんとにすこしだけど、感動したんだけど……。


「——まあまあ、ボス、落ち着いてくだせえ」

「——落ち着けるかよ! てめェ、イモ引いてんじゃねェぞ!」

「——突撃部隊には武装させてますから、ちっとばかし時間が要りやす。それまでボスは心の刃を研いでいてくだせえ」

「——な、なんだ……そうか? そんなら、まァ……」


 本部長がボスをなだめている。

 まるで駄々っ子をあやすパパだ。

 どっと疲れたわ……。


「ダフニアくん。あんなボスですが、それでもうつむいた君の顔を上げさせることはできた」


 若頭に言われ、俺はハッとした。


「確かに、シマとシマの抗争なんて、いかに『からくりダフニア』、『血煙ダフニア』の二つ名を持つ君であっても手に余るでしょう」

「…………」


 若頭、俺のそのクソダサい二つ名を口にするとき半笑いになるの止めて?


「ですが、今の君にはやるべきことがある。いや、君にしかできない、やらねばならないことがある。わかりますか」


 俺にしか——できないこと?

 そして俺がやらなきゃいけないこと?

 そうか。

 そうだよな……。


「……俺、麻薬を売っちまった人たちに謝ってきます。金はあんまり残ってないけど、それも全部返して、彼らの治療費が必要ならそれも——え?」


 かなり大真面目に言ったつもりなのに、若頭はしかめつらで「はぁ?」って顔をしていた。


「ち、違いました……?」

「……大間違いですよ。大体ヤツらは軽症だと言ったでしょう。鎮痛剤も切れた今、元に戻りますよ。もし仮に重症であったとしてもね……ダフニアくん、私らは裏ギルド。泣く子も黙る『蜥蜴とピッケル』ですよ。麻薬を使ってラリッたバカの世話なんてするこたァないんです」

「————」


 俺はそのとき——若頭を前にして何度も感じていた恐怖を、もう一度感じた。

 だけどその恐怖は今までよりもずっとずっと強く、そして深かった。

 この人は、芯から裏社会の人間なのだと。

 当たり前のこと——今まで俺が目をつぶろうとしていたことに、気づかされたのだ。


「金はいくら残ってるんです」

「…………」

「ダフニアくん?」

「——あ、は、はいっ、あ、あと、25万イェンくらいはなんとか」


 冷や汗をかきながら答えると若頭は「ふぅん」と鼻を鳴らしてから、


「それくらいあれば、そこそこのものは買えるでしょう」


 買える……? なにを?

 ま、ま、まさか魔導爆薬を……?


「今すぐ金を持ってとびきりの一張羅を仕立ててきなさい。スーツは、我々の戦闘服ですから」

「え? え? え?」


 ワケがわからない。スーツを仕立てる? なんで?


「あなたが今しなければいけないこと——それはたったひとつ。マーカスとかいう詐欺師を見つけ出し、『蜥蜴とピッケル』にナメた真似をしたことのケジメをつけさせるんですよ」


 若頭はにこりと笑って付け加えた。


「……そしてこれこそが、ダフニアくんの窮地を救う唯一の手です」

「えっ」

「マーカスを捕らえ、マーカスが主犯であることがわかれば君は加害者から一転して被害者になりますよ。無論、無許可の薬剤販売は咎められるでしょうが、それすらも罰金程度で済むでしょう」


 不意に——視界が明るくなったように感じた。

 目の前が開けて、爽やかな風が吹いたような感じだ。

 刑務所に行かずに済む道があるのだ……!


「この店を『逆毛は生き様』がたまり場にしています」


 すっと紙片を差し出した若頭。

 なんて用意がいい。

 俺は——この人の手のひらで踊らされているのかもしれない。

 でも、だとしても、俺がすがるべき道はそれしか残されていないんだということは、はっきりとわかった。


「……いただきます」

「いい顔です。本部長からはなにかありますか?」

「そうですな」


 ボスをなだめて座らせていた本部長がのっしのっしと俺の横にやってきた。


「ダフニア、お前が鎮痛剤(・・・)を売って、その後にもっと寄越せと言ってきた連中のリストを出せ」

「……本部長」


 胸がじぃんとした。

 この人、俺の代わりに謝罪に行ってくれるのか。

 俺本人が行ったら大変なことになるから……。

 でも大丈夫だよ。その人たち軽症だから。


「麻薬だとわかってさらに手を出すようなバカどもは、一度シメて教育してやらなきゃならねえだろ?」

「…………」


 全然違った。

 そりゃそうだわ。この人たちが、金にも得にもならないことで動くわけないわ。

「龍舞」とか「赫牙」に「麻薬に手を出したバカを教育しました」というアピールをしたいだけだわ。


「そっちは俺がやっとくから心配するんじゃねえぞ」

「は、はあ……」


 心配しかないんだが。その後、俺がどの面下げてまた毎月の集金に行かなきゃいけないんだよ!

 ああ、今から胃が痛い。

 しばらくは頭を下げまくらなきゃいけないんだろうな……。


(って、なに考えてるんだ、俺は)


 俺は——この事件が解決したであろう後のことを気にしている自分に気がついた。

 まだマーカスを見つけてもいないのに。


(俺ってこんなに楽天的だったのか)


 さっきまで家の布団でネチネチしていたのに。

 この事務所には頭がチンピラになるような魔導システムがあるのかもしれない。


「それじゃ、行ってきます」

「ああ。——いや、これも持ってけ」

「?」


 本部長が胸ポケットから出したのは、紙巻きタバコとオイルライターだった。

 俺がそれまで、似合いもしないのに吸っていたような安物ではない。

 ライターも、蜥蜴とピッケルの意匠が彫り込まれている品だった。


「いいスーツを着るんなら、たとえカッコつけでもマシなタバコを吸わねぇとな。スーツ決めて一服つけりゃぁ、大抵のことはうまくいくって思えるもんだ」

「…………」

「魔導爆薬はもうねえから、火を持ってても安心だぜ」

「…………」


 すっかり見透かされてる。もうやだ。

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