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「幸運」スキルが仕事をしない! 〜 裏ギルド出世街道  作者: 三上康明
第3章 儲け話にゃ裏がある

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白い歯

 急いでいた。

 大急ぎで向かっていた——薬品倉庫に。

 レイチェルティリア様とアティラ王女殿下の衝突はなく、そのままお互いがにらみつけ合いながら別れたのだけれど、俺は気が気じゃなかった。


 ——俺が売ってたのは鎮痛剤じゃなく、ほんとうは……麻薬だったんじゃ?


 医者に掛かる金額を考えれば鎮痛剤が売れるのはわかる。「とりあえず持っておこう」と思うのは理解できる。

 だけど、「追加でもうひとつ。いや、あるだけ出してくれ!」となるはずがないのだ。

「使ってみてよかったから」という理由があったとしても、「さらに追加でもう5粒、いや、あるだけ出してくれ!」というのはおかしい。

 おかしいのだ。

 同じ相手に何回も鎮痛剤が売れるなんて——どう考えてもおかしいのだ。


(クソッ、なんで俺はそんな単純なことに気づかなかったんだよ!!)


 入ってくる金額のデカさに浮かれて、ちょっとした違和感を無視したせいだ。


(だけど、まだ間に合うはずだ)


 もしもあのオッサンが違法薬物を売ってるのだとしたら、オッサンを治安本部に突き出せば俺は、まあ、怒られはするだろうけど俺もまた「被害者」ということになる。騙されただけだし。

 虫がよすぎるか?

 いや、それでも主犯にはならんし、牢獄にぶちこまれることもないだろう。治安本部の捜査にだって協力しちゃうし。

 だけど、それをやるには、あの鎮痛剤がマジのマジで違法かどうかを確認しなきゃならない。

 もしかしたら——俺としてはそっちのほうがありがたいのだけど——あのオッサンは正当に、本物の鎮痛剤を俺に売っていたのかもしれない。そうだろ?

 いずれにせよ俺の手元には1粒も残っていないので、あの薬品倉庫で新しいものを仕入れなきゃならないってわけだ。

 今は真夜中だけど……朝まで待てんわ。

 なんなら忍び込んで何粒か盗み出してもいいとすら思う。

 それくらい俺は切羽詰まってる。


(もし麻薬だったらヤバイ。マーカスのオッサンがいなくなって、俺が主犯ってことになって、騎士に捕まって、「龍舞」から直々に破門されたら……)


 終わりだ。

 牢屋で残りの一生を過ごすことになるのか、あるいは裏ギルドに目を付けられてひどい目に遭わされるか——もしかしたら、死ぬかもしれない。それくらい「龍舞」は麻薬に対して強い拒否感を示している。

「幸運」スキルはきっと、俺にそのことを教えてくれたに違いない。


「…………」


 今は「幸運」スキルが収まってるのが気になるけども。

 スキルの手助けはそこまで、ってことかなぁ……。


「あれだ……薬品倉庫」


 人口の集中する王都エルドラドとは言え、夜中は静まり返っている。

 街灯の明かりもないとなると、月明かりだけが頼りになる。

 ぐちょっ。

 とまたなんか……イヤな感じのものを踏んだけれども。

 今はそんなことを気にしていられない。

 石造りの倉庫は、俺が背伸びしてギリギリ届くかというところに窓がある。

 正面に回ってみると、入口は鉄の扉になっているが、そこはがっちりとカギがかけられていて開くことはできない。

 入口脇の小屋は無人だ。この時間には警備員もいないんだろうか。


「……クソ。誰もいないんなら忍び込むしかないけど……」


 ぐるりと倉庫に沿って歩いて行くと、一箇所に木箱が積まれているのを見つけた。

 踏み台にするにはちょうどいい感じだ。

 ボロだけど、俺の体重なら大丈夫だろう——まさかひょろい自分の体型に感謝することになるとはな!

 木箱を引きずって、窓の下に持ってくる。

 周囲を確認する。


「…………」


 静まり返っている。

 ふー。

 ここからが勝負だぞ。俺は不法侵入をすることになるんだ。

 いや、むしろ被害者かもしれないんだから細かいことは気にするな。

 これで、マジもんの麻薬だったら、俺がヤバイ。

 生きるか死ぬかなんだ。

 木箱に足を掛けて乗ると、ギィッ、と軋んだ。

 だけど壊れはしない。

 そして俺の目の前にはすすけた窓ガラスがある。

 開く……ワケないよな。

 壊そう。

 俺は木箱から降りて、近くに落ちていた手頃な石を拾ってくる。

 もう一度木箱に乗って、窓ガラスに叩きつける——割れた。

 硬質な音が響き渡って、ドキリとする。


「いっつ……」


 手のひらが切れてる。

 バカか俺は……素手でやったら、そりゃ窓ガラスで切るよな。

 俺、めちゃくちゃテンパってるらしい。

 手ぬぐいを取り出して手に巻きつける。

 さっさと終わらせよう。

 さっさと終わらせるに限る。

 鍵、鍵……これか。

 ロックを外して、窓ガラスを開ける。

 小さい窓だけど、俺の身体くらいなら入るだろう。

 よし。

 行くぞ。

 木箱を蹴って身体を持ち上げ、上半身を倉庫の中に滑り込ませる——と、


「うおわ!?」


 勢い余ってそのまま中へと落ちた。


「いだっ!?」


 尻から落ちて衝撃が脳天に突き抜ける。

 あぁ、クソッ、なにやってんだよ俺は——。


「——え?」


 瞬間、俺の目の前が真っ白く飛んだ。

 それが、強烈な光を当てられたことなのだと気づくのには、数秒必要だった。


「住居建造物不法侵入の現行犯、及び窃盗の未遂、さらには禁止薬物取引容疑の罪であなたを逮捕します」


 いくつもの強烈な光を背景に、現れたのは——治安本部第4部長のエドワードだった。


「え……?」


 倉庫の外にも大量の光が焚かれている。

 ざわざわとした大勢の動く気配が感じられる。

 まさか。

 まさか。

 まさか——。


「俺……ハメられたのか……?」


 呆然とする俺を前に、逆光のエドワードがにやりとする——白い歯だけが浮かび上がった。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] うーん、微妙 毎回幸運スキルが発動してるのに幸運?というより、不幸に見舞われても致命的にならないという誤用での悪運ばかりで いつ幸運?になるのかと期待してたら今回のこれだから 最近妙に…
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