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「幸運」スキルが仕事をしない! 〜 裏ギルド出世街道  作者: 三上康明
第2章 モテる裏ギルド構成員はツライ

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「破壊」の少女は信じている

     ●~*  フェリ  ●~*



 逆毛に追われ、ダフニアがほぼ全裸で逃げ出した。

 ダフニアならちょちょいのちょいで逆毛7人くらい半殺しにすると思っていたのに——逃げ出してしまった。


「なんで、どうして……ニア……!?」


 だが次の瞬間、フェリは気づく。

 さっきダフニアはこっちを指差して逆毛たちになにか言っていた。


「そういうことか……!」


 きっとこう言ったに違いない。


 ——事務所にいるフェリに手を出したら絶対に許さない。


 と。


「くっ……! カッケー! カッケーよニア! だけど、守られてるだけのあたしじゃないんだぞ!」


 フェリは一歩踏み込むとダフニアがぶち破った窓を乗り越えてベランダの手すりを蹴ってひらりと表通りに降り立った。


「!」


 するとその横に、ひらりと、物音一つ立てずに降り立った人影があった。

 事務所にいたヴェールをつけた客人だ。


「……アンタ、何者なの」


 フェリは警戒心たっぷりにたずねる。

 長い長いトイレから出てみれば、この女ともうひとり、あそこで市民からもみくちゃにされてる顔面偏差値のやたら高い女がいた(フェリはそれが誰か知らない)。

 もみくちゃ女がダフニアに襲いかかったのは見たが、このヴェール女が敵なのか味方なのかはわからない。

 ただフェリの野生の勘が「こいつは強い」と囁いていた。


「君こそ、彼のなんだ?」

「あたしはニアの……部下(・・)だよ」


 苦々しげにフェリは言った。

 ほんとうは「大事にされてる大切な人」とか「背中を預けられる唯一の戦友」言いたいところだった。

 だが、


(あたしは、ダフニアに守られてるような存在だ……)


 フェリは、ダフニアひとりなら余裕で逆毛7人を倒せるはずと勘違いしているので、そんな結論に至ってしまった。


「フッ……部下、ね」


 ヴェールの向こうで女が笑うと、フェリはハッとする。

 もしやこの女は、自分の地位を狙っているのではないか。

 ニアの右腕になろうとしているのではないか。

 それもそうだ。

 ニアのような「漢の中の漢」を見たら、誰だってお近づきになりたいと思うはず!

 フェリの勘違いは止まらない。


「で、でもな!? 部下は部下でもあたしは『信頼されてる部下』なんだぞ! いいか!? そこんとこ間違えるなよ!? も、もう『右腕』って言ってもいいくらいじゃないかなぁ!? ニアの部下はあたしひとりで十分だし!!」

「構わない。私が気にしているのは彼の下半し——」

「ん?『かはんし』? なに?」

「……私は彼を追う」

「あ、ちょっと待て!」


 音もなく走り出したヴェール女を追う。

 フェリはもみくちゃ女をちらりと振り返ったが、こちらを見てもいなかった。フェリになんてまったく注目していない。

 彼女を迎えに来たらしい身なりのいい男たちがやってきて野次馬が散らされている。


(……むう)


 みんな、ダフニアに注目している。

 それもそうだ。あれほどの男は滅多にいないのだ。

 だが自分を無視されるとそれはそれでもやもやするフェリなのである。


「……この先は『チンピラストリート』か。考えたな」

「なにをだ?」

「!」


 ヴェール女のつぶやきにフェリが反応すると、驚いたように女が振り返った。


「……よくついてこられたな」

「いや、あれくらいヨユーでしょ」

「…………」


 ヴェール女、レイチェルティリアはヴェールの向こうで目を細める。

 本気で走ったわけではないが、かなりの速度で走り抜けた。人混みだって縫うように走った。

 だというのに、この女は平気な顔でついてきている。

 さっきも2階から表通りへとためらいなく飛び降りていたし。


「……裏ギルドでも血の気の多いヤツらがうろついている界隈だ。追っ手をぶつければ自然にケンカが起きるだろう」

「そ、そういうことか! ニアすげー!」


 目をキラキラさせてフェリは叫んだ。


「ただ7人に勝つくらいじゃつまらねーから、もっとケンカをデカくしたってことだろ!?」

「…………」


 どうやら、レイチェルティリアの考えは伝わらなかったらしい。

 するとストリートの向こうで「ワァッ」という声が上がった。

 さらには建物の上に、ちらりと見える巨大な赤い飛沫。

 まさか血しぶきなんてことはないだろうが——ただ事ではなさそうだ。


「——『からくりダフニア』がいるらしいぞ」

「——それってアレか? 爆弾魔っていう」

「——治安本部の部長を爆殺したんだっけ」


 ダフニアが聞けば「違いますけど!?」と言いかねないほどにウワサには尾ヒレがついて広がっている。


「むふふ。ニアはすごいんだからな!」


 だがフェリだけはそれを喜んでいる。

 さすがのレイチェルティリアも、フェリのその楽観に眉をひそめる。


「……ここで乱闘になれば、ふつうの人間ならタダでは済まないわ」


 レイチェルティリアはダフニアの考えくらい見抜いている。

 逃げるのならば良策だろう。

 チンピラにチンピラをぶつける——その作戦は有効だ。

 だが、もしなにかトラブル(・・・・)でもあって乱闘に巻き込まれたら?

 さっきの赤い飛沫はなにかトラブルの証拠なのではないか?


ふつうの人間(・・・・・・)なら、そうかもしんないけどね」


 しかしフェリは自信満々だ。


「ほら——」


 やがてふたりは、チンピラストリートの空き地にやってきた。

 おおおおおおぉぉぉぉ——と地鳴りのようなチンピラたちの声が上がっている。

 その中心にいたのは。


「そんな……バカなことって……」


 レイチェルティリアが唖然とし、


「やっぱニアはすげーんだよ!」


 フェリは興奮して「破壊」スキルを発動しつつ近くにあった壁を殴ってぶっ壊してしまった。


「ほあたたたたたたたたたたたァッ!!」


 全身を赤く染めた男が——ダフニアが、四方八方から攻撃をされながらも、そのすべてをかわして(・・・・)いたのだった。

 まるで激しくダンスでも踊るように。

●~* ←爆弾

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