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「幸運」スキルが仕事をしない! 〜 裏ギルド出世街道  作者: 三上康明
第2章 モテる裏ギルド構成員はツライ

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15/36

ケチャップチャップチャプチャップ

 チクショウ、なんなんだよ。

 俺はこの「幸運」スキルをもらってからいいことなんて全然ないじゃねーか。


「——なにあれ!?」

「——ウッソ、裸なんだけど」

「——きゃあああああ!?」


 商店街をほとんど全裸で突っ走りながら俺は泣きたかった。

 もしかして「靴だけ残ってラッキーでしょ」とか言いたいわけ?

 違うだろ。どこに幸運要素があるんだよ。

 俺は王都で一旗揚げて、可愛らしい奥さんとか見つけちゃって、手堅い仕事で平和に暮らしたいだけなんだよ……!

 ショウウインドウに映った俺の姿は情けなかったが、それでも髪の毛は金色に逆立っていて、目もまた金だ。

 こうなってくると俺を追いかけてくる逆毛の大群は、俺が引き連れた子分みたいに見えてるのかもしれない。


「——うわ、逆毛が逆毛に追われてるぞ」

「——なんだなんだ。逆毛の王国でクーデターでも起きてるのか?」

「——むしろ裏切り者の逆毛が追われてるって感じじゃね?」


 無責任な野次馬の声を聞くと走る気力が奪われるよぉ!

 ていうかどこに逃げりゃいいんだ!?

 死にたくないけど裸で走るのも限界なんだけど!


「——おい貴様! 公共の場で粗末なイチモツを晒すとは何事か!!」


 ぎゃあああ治安本部ぅぅううううう!

 粗末じゃない! 粗末じゃないけどね!? 未使用だけどね!

 俺はあわてて裏通りに飛び込んだが、7人の逆毛もまた追ってくる。


「——待てやぁ!w」

「——いつまで鬼ごっこする気だぁ?wWw」

「——やっぱりお前がダフニアなんだろw」


 逆毛のくせに体力ありすぎだろ! いやまぁ髪型と体力は関係ねーけど!

 大体治安本部がいるならこの逆毛どもをどうにかして——。

 あれ? 待てよ?

 むしろ治安本部のいるところに飛び込んだほうがよかったんじゃないか?

 裸でいることのお説教は受けるだろうけど、逆毛から半殺しにはされないだろうし……。

 ああああああ、そうじゃん! なんで俺逃げちゃったんだよ!

 敵の敵は味方じゃん!


「!!」


 裏通りから再度表通りに飛び出す。

 人通りはそこそこあるが、人相の悪いチンピラの密度がぐんと上がっている。

 その場所を見て、俺はピンときた。


「——これだ!」


 敵の敵は味方。

 つまり、敵の敵の敵は味方かもしれないし、敵かもしれない。

 敵の敵の敵の敵はどうだ? そのまた敵は?

 この先は——さらに荒んだ通りがある。

 肩がぶつかれば即ケンカ。

 ケンカの強いヤツが偉い。

 通称「チンピラストリート」。

 その名の通り、バカしかいない通りだ。

 俺はこんな仕事をしているから今までは絶対に近寄らなかったけれども——今なら行ける!


「来いよ逆毛ども! 足おせえんだよバーカ!」


 振り返った俺が叫ぶと、


「——あんのクソガキw」

「——アイツが誰だろうがボコすわwWw」

「——逆毛の名にかけてw」


 逆毛の名ってなんだよ。

 まあどうでもいいわ。アイツらがバカならバカであるほうがいい。

 逆毛を——7人の逆毛をぶつけるのだ。

「チンピラストリート」のチンピラどもに。




「チンピラストリート」は馬車が通るには狭いほどの通りで、日中は歩行者しかいない。

 薄汚い露店がぽつりぽつりとあって、昼から立ち飲みで度数の強い酒を飲める。「ストロンゲスト・ゲロ」はここじゃ水代わりだ。

 途中で道幅が広くなって、小さな空き地のようなところもあるのだが——そこに行けば四六時中誰かしらが殴り合っている。

 観戦するヤツらを相手に酒や食べ物を売っているので、「チンピラストリート」で最も盛り上がっている場所はそこだ。


「こっちだこっちこっち! 逆毛は血が頭にいってっから足が遅いんだっけなあ!?」


 俺が大声を出してチンピラストリートに飛び込むと、


「——お、おい、なんだアイツは」

「——靴しか履いてねぇ。レベル高すぎんだろ」

「——春だから頭おかしいヤツもいるな」

「——ああいう手合いとはケンカしてもつまらねえ」


 すでにいる人相の悪いチンピラたちから辛辣な評価が飛んでくる。

 うるせえ。

 俺だってケンカしたくてここに来てるんじゃねーんだよ。

 あと今は初夏だ。


「——追え追え!w」

「——アイツなんであんな足がはええんだw」

「——服着てねえからかなwWw」


 逆毛もハーハー息を荒げながら追ってくる。

 服のことは言うなよ……。王女殿下に言ってよ……。

 しかし人のことは言ってられない。

 俺の体力もそろそろ限界だ。

 毎日、日付が変わるくらいまで働いて、休日なんかなくて、部下は役に立たず、しかも上司はパワハラ気質のクソゴリラ。

 むしろここまでよくぞもったよ、俺の身体……! あともうちょい、空き地のところまで行けば俺の勝ちだ!


「——いってぇな!」

「——あぁ!?w 邪魔なんだよボケw」

「——逆毛の野郎ども、ここはてめえらのシマじゃねえだろ」

「——どけw」


 ひとりで身軽な俺——しかもみんな道を空けてくれる(なんでだろう、なんでかなあ?)——と違って逆毛どもはいかつい7人組だ。

 そりゃあ他のチンピラにぶつかるよ。

 そうなればどうなるかって?


「——待てやコラァ!」

「——逆毛、当て逃げしてんじゃねえぞ!」


 ドドドドドドド……。

 逃げる俺、追う逆毛、逆毛を追うチンピラども。

 そんな集団になったのだ。


「ここがゴールだ、逆毛どもぉ!」


 そして俺は空き地に飛び込んだ。

 空き地ではすでに1対1のケンカをしているヤツらがいて、10人ほどのチンピラがそれを取り囲んで「やれ!」だの「殺せ!」だの昼から物騒な言葉を投げつけている。

 まだまだケンカはヒートアップしていないのか、酒を売ってるオッサンたちも、ソーセージを売ってるオッサンもヒマそうだ……ってなんだあのオッサン? 瓶タイプのケチャップの着ぐるみを着てるんだが。しかもケチャップから飛び出てる腕と足が筋骨隆々で、立ち姿は威風堂々。いっそ清々しいほどに男らしい。

 やべえな、ああいうのは。頭がどうかしてる。まあ俺なんて素っ裸だけど。

 そんなことより、さあ。


「始めようぜ! ドンパチをよぉ!」

 俺は近くの露店に置かれていた酒瓶をつかんで、逆毛どもにぶん投げた。

 彼らは突然の俺の攻撃に怯み、一瞬足を止める。

 バカめ。

 ここで足を止めたらどうなるかもわからんのか?


「こんなもん投げやがってw」

「当たるとでも思ったのかよwWw」

「ノーコン野郎——あ?w」


 逆毛のひとりが振り返る。


「てめえらヨソ者が、ハシャイでんじゃねえぞ?」

「ごっ!?w」


 追いついたチンピラが逆毛を殴り飛ばした。


「んだ、テメーらはw ザコが邪魔してんじゃねーぞw」

「しょっぺえ三下ギルドがしゃしゃってんじゃねえ!」

「『からくりダフニア』より先にこいつらだ、リーダー!w」

「なにぃ、『からくりダフニア』がいんのか!?」


 始まった始まった。

 大乱闘が始まった。

 はっはっは。いい眺めだぜ。俺なんか放っておいて一生殴り合っててくれ。

 あー、しんど。息が上がったわ。


「……おい、ずいぶん上機嫌じゃねえか」

「あん? そりゃね。ドンパチなんて俺と関係ないところでやってくれるぶんには楽しいだろ。花火といっしょだよ」

「そうかい。そんなら——」

「ん?」


 俺はその声がすぐ真後ろから聞こえたのに気づいた。


「——こっちも花火をおっぱじめようぜぇ? お前がぶん投げたあれは、ウチでいちばん高級な酒だったんだぞ!!」

「はぶあ!?」


 露店のオッサンが振り抜いた右拳が俺の頬をとらえる。

 一瞬で視界が飛んで、俺の身体は吹っ飛ばされる。

 やべえ!

 完全に気を抜いてた!

 俺の身体はもんどり打って転がって行く。

 だけど立ち上がった俺は、


「に、逃げ——」

「待てやコラァ! 金置いてけ! てめぇどう見ても一文無しだがなあ!」

「ひいい!?」


 確かにな! スッポンポンが金持ってるわけねーわ!

 俺は露店のオッサンから逃げ出そうとしたが、足に力が入らない。

 あの一発で、俺の貧相な肉体はガッタガタになっていたのだ。


「やば——」


 俺が前のめりに倒れようとしたそこにいたのは、赤色の着ぐるみだった。


「すっ、すみませんんんん!」

「ん? ——ごぼぉ!?」


 俺は思いっきり、着ぐるみのマッチョオッサンにヘッドバットをかましてしまったのだ。

 ケチャップ瓶はふんにょりとした柔らかで、しかし湿っておりやたら生温かい、控えめに言ってもクソほど気持ち悪い感触だった。

 次の瞬間、フタの部分がパカッと空いて、赤色の液体が噴火する火山のように飛び出した。

 ケチャップ(らしきもの)がちゃんと入っていたのだ。

 なんで。

 なんでそんなところにこだわってんだよクソ着ぐるみぃ!


「あばばばばばば!?」


 その赤色の液体が俺に降り注ぐ。


「ぺっ、ぺっ、な、なんだこれ、おえ、おえええ、くせえ! 臭すぎる!」


 ケチャップじゃない、なんかぬるぬるして生温かい最悪の液体だ。

 そして俺の不幸はそれだけじゃなかった。


「おい、あそこ!w」

「『からくりダフニア』がいたぞ!!wWw」


 逆毛が叫ぶと、


「なんだ、あの真っ赤なヤツか?」

「ケチャップお化けにぶつかったアイツが『からくりダフニア』!?」

「アイツを倒せば——有名人じゃねえか!」


 他のチンピラどもも一斉に俺に注目する。


「「「「「「『からくりダフニア』をヤるのは俺だぁぁぁぁぁぁぁ!!」」」」」」


 大量のチンピラが俺を目がけて走ってきた——。

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