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「幸運」スキルが仕事をしない! 〜 裏ギルド出世街道  作者: 三上康明
第2章 モテる裏ギルド構成員はツライ

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3度目の「幸運」

「今なにかおっしゃって……」

「…………」

「……ませんよね。そうですよね」


 そりゃそうだ。俺の耳はバカになったのか? レイチェルティリア様がそんなシモワードを口にするわけがない。


「た、ただいま皆、業務で出払っております。幹部もたまたま(・・・・)おらず——」

「タマタマ?」

「——ご用があれば私めが承ります。えっと、はい?」


 なんか今変なワードが聞こえたよな?


「レイチェルティリア様?」

「…………」


 聞こえたよね!?


「……喉が渇いた」

「す、すぐにお茶をお淹れします!」


 有無を言わせぬ迫力に俺は飛び上がって給湯室に急いだ。

 お茶を沸かしながら茶器の準備をする——ボス用のを使っても構わないだろう。というかそれ以外にまともな茶器がない。本部長のはショッキングピンクのマグカップだし、若頭のは「勝手にさわったらどうなるかわかりますか? 以前いた舎弟の腕は2本ともなくなりましたけれど」なんて涼しい顔で言われた。おれ、ぜったい、さわらない。


 ——ガタッ。


「!?」


 トイレのほうから音がしてぎょっとしたけど、建て付けの悪い戸棚が外れたのだろう。ビビらせやがって……俺のビビリは筋金入りなんだぞ。

 俺は茶器セットを持って応接スペースへ戻る。


「…………」

「お邪魔していますわ」


 ひとり増えてるぅぅぅううう!?


「あ、あ、あ、あ、あなた様は……」


 しかも、その滑らかなピンクブロンドの髪に、気品あふれるお顔。装備品と呼べるようなものはないけれど、上等なブラウスにロングパンツは俺のスーツを100着売っても買えなさそう。

 つまり、その御方は。

 昨日、レイチェルティリア様と激突していた、


「アティラ=ストーム王女殿下!!!???!?!?!??!」

「申し訳ありませんが、少々お声のトーンを下げてくださる? お忍びで来ているの」

「はははははいいいいいい!」


 昨日の宿敵が目の前にいるというのに、レイチェルティリア様はウチの事務所の粗末なソファに座って足を組んでいるし(めっちゃ足が長い)、その対角に王女殿下は背筋を伸ばして座っている。

 王女殿下がこちらをにこりと微笑みながら見つめている姿はうっとりするほど可愛らしい。

 こりゃぁ……国民人気ナンバーワンの王族ってのもうなずけるぜ……。


(って、「うなずけるぜ」じゃねーよ!)


 ワケがわからん。なんで王女殿下がこんなゴミ捨て場みたいな事務所にいるんだ!?

 お茶セットの載ったトレイを持って俺がおたおたしていると、


「あら……あなた」


 アティラ様が立ち上がり、すっと俺に近づいた。

 ち、近い。

 顔が近い!

 殿下は俺の肩に顔を近づけると、すん、とニオイを嗅いだ。


「……悪のニオイがしますわぁ」

「!?」


 それは——温かで、にこやかで、親しみのある王女殿下から出たとは思えないほどの冷たい声。

 俺の前身に鳥肌が立って、脳内に警鐘が鳴る。

 ヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイ——————。

 そりゃそうだ!

 この人、レイチェルティリア様と互角に戦ってた超人だぞ!?

 でも、どうして俺から「悪のニオイ」が——。


「離れろ」


 すると我らが「龍舞」のレイチェルティリア様がすぐそこに立って、アティラ様をにらみつけていた。

 ヴェール越しとは思えないすさまじい眼力に、にらまれていない俺ですら心臓がキュッとなる。


「あらあらあらぁ~……イイニオイ(・・・)をなさるのねぇ~……」


 へ?

 いや、いやいやいや、アティラ殿下?

 なんか得体の知れないオーラが身体を覆って、ピンクブロンドの髪がぞわりと逆立とうとしていませんか?


「悪悪悪悪悪悪ゥ~~~~~~!! あなたから悪のニオイがしますわぁ~~~!! わたくしの『正義』スキルからは逃れられませんわぁ~~~~~!!!!」


 この人は——「悪」を見つけるとブッ飛んじゃうスキルでも持ってんのか!?

 王女殿下が踏み込むと事務所の床のタイルが割れる。

 身体をねじって繰り出すパンチは神速の一撃。

 それに応じるレイチェルティリア様の足にはスキル発動の証である青色の光がまとわりつき、ふたりの攻撃と攻撃がぶつかる——。


「——ふぃー。出た出た~。すっきりしたぁー」


 じゃー。

 そんな間の抜けた水の流れる音とともに、トイレから出てきた人影があった。


「お?」


 フェリは水で濡れた手を振って乾かしながら——ハンカチくらい持ち歩けといつも言ってるのに——出てきた。

 ふたりの超人が戦闘に入る一歩手前のところで、毒気を抜かれたように凍りついた。

 フェリ……お前、便秘だったのか……? それでさっき、俺をにらみつけていたのか? 腹が痛くて?


「おおっ! すげー!」


 そしてフェリは声を上げる。

 よかったな、フェリ。お前の大好きなすさまじく強い猛者がここにふたりもいるぞ。

 いいよな。

 俺はもういいよな。

 フェリに全部任せてここから逃げ出していいよな?


「ニアのその頭かっけー!」


 そう、おふたりはレイチェルティリア様と、アティラ=ストーム王女殿下だ。

 そう、ニアの頭が……。

 え?

 俺?

 俺の頭?

 頭がなに?


「あ」


 こっそりと逃げ出そうと、事務所の窓からベランダに出ようとしていた俺は窓ガラスに映る金髪と瞳が発光しているのに気がついた。

 え、これ、スキル発動してます?

 そして、


「いたわぁ~~~~~!!」


 王女殿下の瞳にハートマークが散った。


「あなたこそが悪! 真なる悪! ああ、ああっ、これほどまでに濃密で、身体の奥がじんじんしてしまうような悪のニオイは初めてですわっ……!! ああ、ああ、臭い、臭い、臭いですわぁぁぁ!!」

「ちょっとぉ!?」


 臭い臭い言わないでよ——と言いたかったけどそれよりも先にアティラ様が突っ込んできて俺に拳を繰り出してくる——。

 あ、やば。

 これ死ぬヤツだ。

 なんかスローモーションに見えるもん。

 アティラ様の可憐な小さなゲンコツが、なんか、魔導車ほどにデカく見えるもん。

 向こうにいるレイチェルティリア様も突然のことで反応できてないし、フェリにいたっては濡れた手を壁にくっつけて水を取ろうとしている。おいお前、「破壊」スキルで壁がえぐれてるだろうが。


「あ」


 そのとき、俺はデスクに置いておいたお茶セットのトレイに手を突いたようだった。

 ティーポットが跳ね上がって王女殿下にスプラッシュする。

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