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ステージ1(D)

 脳天への一撃が決定打となり

 大蜘蛛は光の粒となって消えた


コ:ふう……なんとかなったあ……


?:……大丈夫? 怪我してない?


コ:おかげさまでビンビンだよ


?:……ピンピンじゃなくて?


レ:セクハラはやめなさい


コ:と、とにかくボクは元気さ! 君のほうこそ……


?:あなたのおかげでわたしは平気


コ:そっか


?:…………


コ:…………


 沈黙


コ:(気まずい! 女の子と喋ったことないから何言っていいかわかんないよ! レンゲのやつ気を利かせて何か話してくれないかな?)


レ:~~~~(目が泳いでいる)


コ:(ダメだ、こいつは使えない)


?:……まえ……


コ:へ⁉ なになに⁉ なんて言ったの⁉


?:名前聞いてもいい?


コ:そっか、自己紹介がまだだったね! ボクは…………コクメだよ


 一瞬、口ごもる

 隻翼の少女、首をかしげる


?:……えっと、コクメくんでいいのかな?


コ:あ、いや。その……


レ:本当は違う。オレが勝手につけた名前だ


?:どういうこと?


レ:――コクメ


コ:……実はボク、記憶がなくてさ


?:記憶がない……


コ:ボクは自分を探す旅をしてるんだ。だから『天使』の君に会えれば、記憶を取り戻すきっかけにつながるのかなと思ってたんだけど


?:天使……?


コ:へ?


 少女につられて首をかしげる彼


コ:も、もしかして……君は『天使』じゃないの?


?:えっと……その……『天使』だったのかもしれない


コ:……かもしれない?


?:目覚めたばかりだからかな、昔のことを思い出せなくて。どうしてここで眠っていたのか、そもそも自分が何者なのか


コ:片方の翼しかない理由も……


?:そう、覚えてない……。でも名前はわかるよ!


 彼女は胸元に手をあて、呼吸を整える


?:わたしはね、ハイネっていうの


コ:ハイネ……なんだか綺麗な色の名前だね!


ハ:綺麗な色?


主:うん。君の髪色に似て、雪のように白くて。でもどこか碧が芽吹いているような感じがして。まるで雪解けの春みたい!


ハ:ぷふっ……あははっ


コ:えっ、変だったかな⁉


ハ:うん、正直ね! でも、すっごくあたたかい気分


コ:なにそれ!


レ:…………(じっと見つめる)


コ:な、なんだよレンゲ


レ:ぶち壊したい


コ:何を


レ:別に


ハ:ねえ、どうしてコクメくんって呼ぶようになったの?


コ:それはレンゲがボクの黒目が印象的だって言うから


ハ:たしかに、すごく綺麗だね


コ:黒い目なのに綺麗なの?


ハ:うん、まるで夜空みたい


コ:そ、そっか……


ハ:なんで顔をそむけるの?


コ:べ、べつになんでもないもんね!


ハ:ん? 変なコクメくん


 コクメ、どこか居心地が悪い

 ハイネは気にしていない模様


コ:…………え?


ハ:え?


コ:いや、なんだか違和感だなと思って


ハ:なんの話?


コ:なにが違和感なのかはわからないんだけどね


ハ:もう、コクメくんってばホントに変なんだから


コ:あ、はは……っ


 彼がそう思うのも不思議ではない

 小説や舞台ならキリのいいところで一度幕がおろされるのだから

 だがこれは現実

 キリがよくても現実は続く


コ:…………


ハ:…………


コ:(ぬおおおおおお! せっかくいい雰囲気だったのに話終わっちゃったよ! え、こんなときって普通どうするのかな? このまま新しい話題を出すのかな? それとも天気の話でもする? くそ、世の中のできる男はどうしているんだ!)


 視線を向けて、こっそりレンゲに助け舟を求める


コ:(レンゲ、なんとかして)


レ:(ぷいっ)


コ(なにその嫉妬してる恋人みたいな反応‼)


ハ:――――あの人


コ:え、なになに⁉ どうしたの⁉


 強烈な既視感デジャヴに見舞われながらも

 コクメはそれもう必死に耳を傾けた


ハ:あの人、消えちゃったね


コ:あの人って…………大蜘蛛のこと?


ハ:うん、そう……


コ:……死んじゃったのはかわいそうだけど、こればかりは仕方ないよ。ボクたちの命を狙ってたんだ。自分が殺される覚悟があったんだと思う


ハ:……うん、あの人もきっと覚悟を決めてたんだよね


コ:ハイネちゃんは優しいね。あんな恐ろしい大蜘蛛でも人のように扱って、心を寄せるなんてさ


ハ:…………


コ:不思議そうな顔して、どうかした?


ハ:……もしかして、コクメくんは知らないの?


コ:え、なにが?


ハ:あの人は……あの大蜘蛛は『獣人』っていうの


コ:あ、『獣人』は知ってるよ! ここにくる途中で感じの悪いおっさんに教えてもらったからね


ハ:なら、じゃあ『獣人』はもともと……


コ:――――っ


 息が止まる


コ:……そっか。獣人は本来何の罪もない普通の人なんだよね……


ハ:その男の人から聞いたかもしれないけど、感染症のようなものなの。これまで穏やかに暮らしていた人がある日突然ヒトではない異形の姿に変わる


コ:…………


ハ:それもウイルスみたいに近くの人に感染するから、一度獣人になってしまえば人の社会から追い出される。親しい人でさえ侮蔑の目に変わる


 気づかなかった……気づかないほうがよかった事実に直面する

 そう、これは悪さをする怪物を退治する、ヒーローの物語ではない

 主人公気取りで獣人を倒してきた


 獣人をころしてきた


コ:じゃ、じゃあ……初めて倒したあの獣人も、脳天を突き刺して殺した大蜘蛛も全部――――


レ:それ以上はやめておけ 


 レンゲに忠告されるが、一度拍車のかかった思考は止まらない

 気づいてしまった

 辺境の地にやってくる大男がいたことを


コ:あの人は……もしかして……っ


 男は言った


 人間にとって都合の悪い環境だ

 ここにいたとしても自殺志願者か

 けったいな物好きくらいだろうよ


 彼は獣人だったのか?

 それとも、本当に物好きなだけだったのか?


 コクメには知る由もない


 ただ一つだけ

 あの豪雪の中、大蜘蛛から受けた火傷の温かみが、まだじんわりと残っている



 ステージ1、クリア


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