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葵夜露は素直に好きと伝えたい  作者: 宮下龍美
第1章 ツンデレですか? いいえ素直になれないだけです。
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第6話 デートのお誘い

 大神くんと一緒に屋上で昼休みを過ごすことになってから、数日が経った。

 当初のような体たらくぶりはさすがに鳴りを潜めて、今では普通にお話しながらお昼ご飯を食べることが出来ている。でも、言ってしまえばそれだけしか出来ていないのが現状で。昼休み以外に大神くんと会えたのなんて、この前うちにご飯食べにきてくれた時だけで。

 そう。進展がなにもないのだ。


「どうしましょう凪ちゃん……」

『あんた、なんでもかんでもあたしに相談したらどうにかなると思ってるでしょ?』


 電話越しに図星を突かれて、思わずうっと言葉に詰まる。別に、なんでもかんでもって訳じゃないですけど。実際、ここ数日での大神くんとの話題は自分で考えてましたし。

 私も少しは成長してるはず、です。多分。してたらいいなぁ……。


『まあ取り敢えず、もうすぐゴールデンウィークなんだからさ。デートにでも誘えば?』

「デデデデート⁉︎」

『うるさっ……』

「あ、ごめんなさい……」


 いや、でも、だって、デートですよ? 付き合ってる男女が遊びに出かけるあれですよ? またの名を逢い引きとも言うやつですよ?

 そんな、私と大神くんがデートだなんて、そんなの……。


『デートって言っても、ただ二人で遊びに行きましょうって誘うだけ。夜露は重く捉えすぎよ』

「でもでも……」

『でもじゃないの。うだうだ考える前に行動する。分かった?』

「うぅ……」


 そもそも、遊びに行くって言ってもどこに行ったらいいのかも分かりませんし、大神くんに用事があるかもですし……。

 でも、大神くんと二人きりでデートは、凄い魅力的なんですよね……。うぅ、私は一体どうしたら……。


「そうだっ、凪ちゃんと伊能くんも一緒に」

『行きません』

「薄情者ぉ……」

『なんとでも言いなさい』


 聞こえてくるのは愉快そうな笑い声。これ、絶対面白がってますよね。でもこうしてなんだかんだと相談には乗ってくれてるから、文句なんて言えるはずもない。


『とにかく、明日ちゃんと誘うように。分かった?』

「はい……」


 誘うだけ。そう、まだ誘うだけだから。私にもそれくらい出来るはず。心なしか胃が痛くなって来た気もするけど、このままなにも進展がないよりマシ、なはずですよね。

 頑張れ、私っ!







 三年生になって、そろそろ一ヶ月が経過しようとしている。

 葵夜露とのごたごたで忘れかけていたが、俺たちは受験生だ。進級してからも進学に関するガイダンスなんかをもう何度か受けているし、具体的な大学の名前も挙げていかなければならない。

 まだまだ先の話だとばかり思っていたが、その実すぐ目の前まで迫って来ているのだ。


「葵は大学、どうするんだ?」

「大学ですか?」


 昼休み。もはや恒例となってしまった屋上で葵と二人の昼食会。まあ、昼食会なんて言うほど畏まったもんでもないが。

 ふと気になったので聞いてみれば、コテンと小首を傾げて考えるそぶりを見せる。相変わらず可愛いなおい。


「うーん、まだそこまで考えてないですね。成績に見合ったところを適当に、って感じです」

「葵の成績に見合うって、結構レベル高いとのじゃん」

「そうでもないですよ? 中学の頃の友達とか、うちよりももっと偏差値高い学校に行ってる子もいますから。私なんてまだまだです」


 さらっとこの高校をバカにしたような気もしたが、葵のことだから言葉以上の他意はないのだろう。実際、うちの学校は偏差値がそこまで高いわけでもないし。自称進学校なんかよりもうん倍マシだ。

 だからと言って、葵の勉学における優秀さが霞むわけでもないのだが。だってテストで100点とか普通に生きてたらまず取らないでしょ。


「大神くんは?」

「ん、俺か? 葵と似たようなもんだよ。つっても、俺と葵じゃ結構成績も違うけどな」

「そう、ですか……」


 シュンと目尻が下がり、どこか落ち込んだ様子で弁当を頬張る葵。え、なに、今の会話でなんか落ち込む要素あった? 乙女心は分からん。


「でも、葵は洋食屋とか継いだりしないのか?」

「ああ、あれは両親が趣味で始めたみたいなものですから。私にその気がないなら、別にいいらしいです」


 趣味で洋食屋始めるって、それ結構な金持ちじゃないと中々出来ないと思うんだけど、もしかしなくても葵って結構なお嬢様だったりするんだろうか。

 まあ、育ちよさそうだもんな。飯の食い方とか、どことなく上品だし。話し方も丁寧だし。


「そ、そんなことより、ですね」

「ん?」


 改まった様子で、葵が話題を変える。頬は少し赤く染まっていて、恥ずかしいのか手はモゾモゾと。

 うーん、なんか見覚えあるやつだぞこれ。具体的には、連絡先聞こうとしたり、暑いとかぬかしていきなり脱ぎ出した時とかに見たことあるぞ。

 またなにか仕掛けてくるのかと思えば、自然身構えてしまう。なにせ葵のアプローチは、悉くが斜め上なのた。ここ数日は鳴りを潜めていたが、暑いとか言い出した時も、こいつの家でオムライス食った時も、正直色々とぶっ飛びすぎだろうと思わずにいられなかったわけだが。どうせ広瀬になにか吹き込まれてるんだろうけど。

 果たして今回は、いかなるアプローチと言う名の暴走が飛び出してくるのやら。


「大神くん、ゴールデンウィークの予定は空いてますか……?」

「まあ、空いてるけど」

「な、なら、その、どこかで遊びに出掛けたり……」

「朝陽たちとか? 俺はいいけど、あいつらの予定も聞いとけよ。特に朝陽は部活もあるし」


 なにせ今年のゴールデンウィークは十日近く休みがあるのだ。そんなに休日が続けば、そりゃ予定くらいいくらでも空くし、朝陽も一日くらいは部活が休みの日もあるだろう。

 だが、どうやら葵が言いたいのはみんなで遊びに、というわけではないらしく。


「いえ、そうじゃなくてっ! その、二人で、どこかに、えっと、で、ででで……!」


 デデデ大王?


「デート、にっ、行きません、かっ!」

「はぁ……デート……」


 えらく頑張って言葉を出した割には、今までのものよりもちょっとインパクトが足りなくて拍子抜けしてしまう。デートってあれでしょ? 恋仲の男女が二人でどっかに遊びに出掛けたりする、いわゆる逢い引きとかいうやつでしょ? そう言えば葵の家の洋食屋はハンバーグも美味そうだったな。それは合挽き。

 ふむ、俺と葵がデートねぇ。しかも二人きりで。ふーん。


「……マジで?」


 コクコクと全力で首を縦に振る葵は、申し訳ないが超スーパーシュール。超スーパーってなんですか。

 遅れて、事の重大さに気づいた。いや、そこまで重大ってわけではないのかもしれないが、なにせデートだ。俺と、葵が。

 この昼休みの時間には多少慣れてきたとは言え、学校の外で、しかも休日に会うとか、なんか一気にハードルが上がった感じある。


「ダメ、ですか……?」

「いや、ダメとは言ってないだろ……」


 シュンとした表情が上目遣いで、俺の前髪とメガネの奥まで届いてくる。

 こいつ、本当マジで、自分がどんだけ可愛いか自覚してんだろうか。そんな目で見つめられてノーと言えるわけがないのに。


「じゃ、じゃあ……」

「うん、いいよ。ゴールデンウィークな」

「やったっ」


 小さな笑みがその顔に咲く。嬉しそうにガッツポーズまでしちゃって、そういうのを天然でやるあたりが恐ろしい。


「で、いつにする?」

「へ?」

「いや、ゴールデンウィークって言っても、結構休み長いだろ。だから、今のうちからいつにするのか決めといたほうがいいんじゃないか?」


 葵のやつ、この様子だとそこまで考えてなかったな? 誘うことに精一杯でそこから先に頭が回らなかったか。愛いやつめ。

 じゃなくて。これ、この調子だとあれだろうか。俺が色々決めた方がいいんだろうか。まあ、こういうのは男がエスコートするもんだって前に朝陽から借りて読んだ少女漫画に描いてたし。や、なんで朝陽から少女漫画なんか借りてんだよ俺。


「その、考えてくるので、また明日お伝えしますね!」

「いや、んなことしなくても今二人で考えた方が」

「大丈夫です! 私が完璧なデートコース考えてきますから! 安心してください!」


 若干ドヤ顔気味で張った胸を叩くのは微笑ましいが、視線のやり場に困るのでその姿勢はやめて欲しい。

 ていうか、なんとなく安心できない気がするのはなんでなんですかね……。本当に任せて大丈夫なんかな……。

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