表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
葵夜露は素直に好きと伝えたい  作者: 宮下龍美
第3章 近づく心と、離れる心
52/73

第52話 漢たちのロマン

 地元からマイクロバスを走らせること一時間半。辿り着いたのは山の中のキャンプ場。バスから降りた俺は、長時間座っていたことで凝り固まった体をほぐすように伸びをする。


「やー、ついたついた。びっくりするくらい山ばっかだな」

「山ん中来たんだから当然だろ」


 しかし朝陽がつい言葉に出してしまうのも致し方ないだろう。普段コンクリートジャングルに囲まれて過ごす我々現代っ子からすると、こんなにも山に囲まれた環境なんて中々来る場所でもないのだから。

 やはり空気も地元とは違う気がするし、太陽は変わらず地上を照りつけているのに靡く風のお陰でそれなりに涼しい。夜になれば星だって綺麗に見えることだろう。


「男子は荷物運んでねー。女子は自分の手荷物だけでいいからー」


 姉ちゃんの指示にいち早く応えたのは三馬鹿ども。美人のお姉さんにいいところを見せようとしてるのか知らんが、見てくれに騙されるなよ。あれは美人の皮を被ったナマケモノだぞ。

 三馬鹿どもがテント一式やバーベキュー用のコンロを運んでくれたので、俺と朝陽は残ったその他の道具を手分けして持って行く。

 その間に柳のお父さんが受け付けを済ませに行ってくれているので、俺たちは手頃な場所に陣取ってそこをキャンプ地とした。


「いいところですね」

「だな」


 あたりを見回して呟いた葵に同意する。

 特別広いわけではないキャンプ場。目の前には小さな川が流れていて、子供もそこに入って遊んでいるのを見るに水深も浅いらしい。川の周りは石だらけだから足元には注意しておかないといけないけれど、もう少し奥に行けば釣りもできるだろう。する暇あるかは知らんけど。

 テントを設置する場所の近くにはシャワー室や更衣室も置かれていて、一度来たことがあるらしい柳によるとそれらの施設も綺麗な状態で保たれているそうだ。

 おまけに人が少ない。夏休みのお盆時期だからそれなりに人がいるのを覚悟していたのだが、俺たち以外に四組ほど見受けられるのみ。存分に羽を伸ばせる。


「じゃあとりあえず、テントの設営からだな。親父が戻ってくるまでに説明しとくか」


 キャンプ経験者の柳と大田が率先して場を取りまとめてくれる。黒田と同じバカだと思っていたが、どうやら認識を改めねばならないらしい。

 テントの設営と言っても、作業自体は至極簡単なものである。インナーテントと呼ばれる居住空間の本体部分にあたるそれをポールで支えてペグで地面に固定する。今回はかなり大きめのテントを持って来ているので男子総出で二つのテントをひとつずつ組み立てた。

 柳のお父さんも戻ってきて男女それぞれのテントも組み立て終えたら、ひとまずの自由時間だ。


「それじゃあたしたち着替えてくるから」

「鼻の下伸ばして待っててねー」


 更衣室に向かった女子たち。三馬鹿は柏木のセリフ通り鼻の下伸ばしてやがる。やっぱり柳も大田もバカじゃねぇか。

 俺たち男子はテントの中でさっさと着替え、時間のかかるであろう女子を待つことに。手持ち無沙汰なこの時間。三馬鹿の一人、大田がボソリと呟いた。


「なあ、誰が一番デカイと思う?」


 瞬間、その言葉の意味を察して真顔になる男五人。これは円卓会議の時間のようですね。


「凪だな。間違いない。たまに薄着の時とか見るけど、あれはかなりの逸材だ」


 神妙な顔で朝陽が呟けば、


「いやいや、大神の姉ちゃんもかなりのもんだと睨んでるぞ俺は」


 馬鹿面した黒田が変なことを言い出し、


「やめろ黒田人の姉で変な妄想すんな。あんな年増のどこがいいんだ」


 それに俺がツッコミを入れると、


「かー! 大神は分かってねぇなぁ! 年上のお姉さんこそ最高だろうが!」

「落ち着けよケン。年上よりも年下女子の方が可愛いに決まってるだろ」


 大田と柳が急に性的嗜好を曝け出す。

 こいつら本当馬鹿ばっかだな。朝陽も含めて。


「つーか朝陽! お前シレッとなに言っちゃってんだよ! 広瀬の薄着とか羨ましいぞこの野郎!」

「あ、それくらいなら俺も見たことある」

「裏切ったな大神ちくしょう!」

「つーかそもそもさ、胸の大きさが全てじゃないだろ」

「ふむ、よろしい。申してみよ大神議員」

「お前は何様だよ朝陽。いや、もちろんデカイことに越したことはないと思うけどな、大事なのは全体のバランスなんだよ。胸、腰回り、足、その全てのバランスが完璧な調和で保たれたプロポーションこそ、俺たちの求めるものじゃないのか?」


 巨乳には巨乳の、貧乳には貧乳の良さがある。その嗜好は人それぞれだ。どちらがより優れているかを語るなど、所詮はただの水掛け論でしかない。

 だからこそ、胸も含めた体全体のバランスこそが最も重視されるべきというのが俺の見解だ。巨乳ならば巨乳に合ったスタイルが、貧乳なら貧乳に合ったスタイルがあるのだから。

 彼らは胸の大きさの引力に魂を引かれたオールドタイプ。これからは俺のような境地に至ったニュータイプこそが人類を導くのだよ。


「つまりは葵が一番ってわけ」

「結局惚気かよ!」

「唯一の彼女持ちは余裕があっていいですねぇ!」

「死ね! 爆発しろ! 川に流されて魚の餌にでもなっちまえ!」


 ちょっと言い過ぎじゃない? あと川魚に人を餌にできるほどのやつはいないからな黒田。ちゃんと調べて罵倒しような。


「いや、俺も真矢の意見に賛成だな」

「俺の彼女が一番ってとこか?」

「違う違う、そっちじゃねぇよ。つかお前、今日はやけにグイグイ来るな」

「夏の開放感ってやつには陽キャも陰キャも関係ないんだよ……」

「なんだそれ」


 キャンプなんかしてる時点で俺は陰キャの皆さんに同士として認めてもらえなさそうだし。なんならリア充扱いされて後ろから刺されるかも。夜道に気をつけなきゃ。


「で? むっつりスケベの王様はつまりなにが言いたいわけ?」

「誰がむっつりスケベだ。話進まねぇな……」


 進まなくていいんじゃないかなこんな話。


「だってよ、そもそも考えてみろよ。俺は凪の薄着姿でデカイのは見飽きてるんだよ。だからそろそろ新境地を開拓したいわけ」

「お前も結局自慢かよ!」

「これだから年間告白された数堂々の第一位様はよぉ!」

「今まで胸がデカイ表紙の本ばっか貸してたのに!」


 まあ、たしかに。朝陽が黒田から借りてたエロ本は表紙の女の人軒並み胸デカかったけど。てか大田、そのランキングなんだ。どこ調べだ。いや調べなくても分かるか。


「むしろ逆に、あの中で一番小さいのって誰よ」

「柏木」

「柏木だな」

「間違いなく柏木」

「まあ、世奈だろうなぁ」

「お、おう……」


 それは共通認識なのね。これ、本人に聞かれてたらどうなるもんか分かったもんじゃないぞ……。

 でもまあ、あいつのことだから自分からネタにしたりしてそうだしなぁ。俺と話しててもたまにするし。そういう身を削る自虐ネタをされてもどう言う顔をすればいいのか分からないので是非やめてもらいたい。笑えばいいってもんじゃないし。むしろ笑ったらぶん殴られるまである。

 俺が胸囲の格差社会に恐れ慄いている、その時だった。


「なんの話してるのかなー?」


 突然聞こえてきた声に肩を震わせる男五人。振り返ったその先には、フリルのあしらわれた可愛らしいビキニとスカートの水着を着た柏木世奈が、笑顔で立っていた。

 聖母のように優しげな、しかし般若よりも恐ろしい笑顔で。

 今の柏木は地獄からの使者にしか見えない。脳内であのBGM流しても全く恐怖が緩和しない。ソードビッカーで串刺しにされた後俺たちの肉でバーベキューされる未来しか見えない。


「もしかしてだけど、わたしの話してた?」

「めめめ滅相もございません!」

「そう? ならいいけど。胸がどうこうとか、夕凪と朱音の前で言わない方がいいと思うよ。物理的な実力行使されるからね」


 だが予想とは違い、柏木はそれだけ言ってお咎めなし。

 誰もが見惚れるような笑顔。五人揃ってその場から一歩も動けなかった。主に恐怖で。

 その後、先に出てきた柏木に遅れて他の五人も出てくる。

 まず最初にうちの姉ちゃん。至って平凡などこにでもある青い無地のビキニ。面白みのかけらもないし、実の姉に色気なんぞ感じるはずもない。それは長い付き合いの朝陽も同じく、姉ちゃんの方を見向きもしていない。しかし三馬鹿どもは違うようで、年下好きと公言していた柳ですら目を奪われている始末。何度も言うが見てくれに騙されるなよ。

 次に葵の友人であり、俺は今日が初対面の小渕舞。なんと驚きの競泳水着である。起伏のある体つきではないものの、それでも女性らしい膨らみやボディラインは余計に強調されている。ていうかなんでちょっと鼻息荒いの? しかも俺たち男子を見ながら。若干の恐怖を感じるんですけど。

 続いて窪田。赤いビキニにパレオと、色合い的には随分と攻めているように見受けられる。これがギャルの力というやつか。明るい茶色に染められた髪の色も相まって、なんか全体的に力強いというか、堂々としている。自分のプロポーションに自信があるのだろう。事実、そのスタイルは中々のものだ。

 そして一番デカイ候補の広瀬。こちらもビキニとパレオであるが、色は窪田と違って水色。本人の性格と反して落ち着いた色だ。こいつに関しても長い付き合いの幼馴染ゆえに特になにも感じない。まあリア充っぽいですねーくらいの感想だ。

 そして最後。俺にとってのメイン。我が恋人たる葵夜露はというと。


「うぅ……やっぱり恥ずかしいですよぉ……」

「ちょっと夜露ー。一人だけなにパーカー羽織ってんのよ」


 広瀬の指摘した通り、上からパーカーを羽織ってしまっていた。お陰で水着の全貌は未だ見えず。しっかりチャックが上まで閉められたパーカーからはパレオの布が見えているくらいだ。そこから伸びる白い素足だけでもびっくりするくらい綺麗なのだけれど、それだけでなくちゃんと全部見たいと思うのは仕方ないことだ。


「だ、だって! 凪ちゃんとか加奈さんのを見ちゃったら自信なくしちゃいますよ!」


 嘆くように言う葵は果たして一体なにを見たのか。そこんとこ詳しく聞きたいんですけどダメですか? あ、ダメですかごめんなさい。

 ゴクリと生唾を飲んだ三馬鹿に柏木が睨みを利かせる。多分三馬鹿だけじゃなくて俺も含まれてた。

 その柏木が葵にそっと寄り添い、優しい眼差しでその手を取る。


「大丈夫だよ夜露」

「世奈ちゃん……」


 見つめ合う二人。痛みを分かち合う同士のように、二人は気持ちを通わせる。目の前に立ちはだかった巨大な壁、いや壁は柏木の方か。巨大な山に力を合わせて挑むための、無二の相棒のような雰囲気を醸し出している。

 しかし、柏木世奈を侮るなかれ。俺には分かる。これまで柏木の被害を被ってきた俺なら、分かってしまう。

 だって自称俺の友達である彼女は、この上ない愉快犯なのだから。


「どうせこの中で一番小さいのは私なんだから、そんなに気にしなくても大丈夫だよ!」

「え、ちょっ、世奈ちゃんなにを……!」


 握っていた葵の手を呆気なく離し、柏木の魔の手が伸びる先はパーカーのチャック。あれだけ強固に守られていたはずのそれは愉快犯の手によって呆気なく外され、呆然として動けないでいる葵の体からこれまた呆気なく取り払われた。

 その結果、隠されていた水着の全貌が明らかになる。

 雪のように白い肌は、長く伸びる黒髪と美しいコントラストを描いている。肌と同じ色のビキニに覆われているのは、大きいとも言えないが柏木と違って確かな膨らみを帯びていて、そこからくびれにかけてのラインは心配になるほど細い。ビキニと同じ色のパンツの上からは水玉模様のパレオ。ただ一点、羞恥に染まった顔だけが真っ赤だ。

 釘付けになる。網膜に焼きつく。人間離れした美しさの前になにも言えない俺は──。


「聖女だ……」

「天使だ……」

「女神だ……」

「いや葵は人間だから。たしかにそれくらい綺麗だけどな。あいつの彼氏やってる真矢が羨ましいぜ。ほれ、お前からもなんか言ってやれよ」

「……」

「真矢?」

「……」

「し、死んでる……」


 大神真矢、本日二度目のご臨終である。

 死因、葵が可愛すぎた。(二回目)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ