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葵夜露は素直に好きと伝えたい  作者: 宮下龍美
第3章 近づく心と、離れる心
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第41話 遠足の前日とかは中々寝れない

 葵の家を出たのは十八時ごろだった。明日の予定を立てたり、今度やる映画の話をしたり、なぜかサメ映画について熱く語られたりしながらゆっくりとした時間を過ごし、夕飯時になる前に帰ることとなった。

 それにしてもなんでサメ映画。なんだよ「タバコシャーク」って。喫煙者の肺の中に卵を植えるって怖すぎるんですけど。B級クソ映画臭がやばい。

 とまあ、なんだかんだで恋人らしい時間を過ごして帰宅したわけだが。仕事で未だ帰宅していない父親を待たずに始まった本日の夕食。その中で話に上がるのは、もちろん母さんたちが朝陽と広瀬から報告を受けたこと。


「バイト、頑張ってるみたいね」

「まあ、それなりには」


 果たしてあの二人からどんな報告が行ってるのか。それをあずかり知らぬ俺は特にやましい事もないのに、なんとなく向かいに座る母さんから目を逸らしてしまった。

 しかし、その行動は悪手だ。目を逸らした先にいたのは我が姉。その顔にはいやらしい笑みを貼り付け、俺や母さんと違って黒い瞳は好奇心を隠そうともせず輝いている。


「あれあれー? なんか何か知られたらまずいことでもあるのかなー?」

「んなもんねぇよ。毎日真面目に働いてるだけだっての」

「でも朝陽からの報告によると、忙しいにも関わらず夜露ちゃんとイチャコラしてたらしいけど」

「ちゃんと忙しくない時だ!」

「イチャコラしてたのは否定しないんだ」

「……」


 完全に墓穴を掘ってしまった。姉ちゃんの笑みは一層深まるばかりで、母さんもニヤニヤとこちらを見ている。非常に居心地が悪い。


「別に悪いことじゃないと思うけどなー。恋人とちょっとでもイチャイチャしたいって思うのは」

「そういうのは彼氏が一度でも出来てから言えよな」

「は?」

「ごめんなさい」


 ドスの効いた声。いつもの間延びしたような喋り方が嘘のような。

 そう、この姉はそれなりに美形で高校時代もさぞおモテになっただろうに、これまで彼氏というものを作ったことがないのである。下品な言い方をしてしまえば、この歳になって処女である。

 美人すぎて逆に敬遠されるとか、女子の友達に鉄壁のバリアを貼られていたとか、そんな理由だろうとは推測できるけど。そもそもそのバリアが貼られていた理由だって、実際の姉ちゃんがかなりズボラでいい加減な性格をしていることを知られて男子たちの夢を壊さないように、なんていう悲しい理由だと聞いたことがあるし。

 事実として、そのバリアがなくなり婚活パーティーやら合コンやらに躍起になって参加している現在も、未だ彼氏の一人すら出来ないのだから。


「いい真矢? 私は彼氏が出来ないんじゃなくて、作らないの」

「あれだけ婚活パーティー行ってるくせによく言う」

「私に見合う男がいないだけなの」

「はいはい言い訳乙」


 はっと鼻で笑えば、視線だけで人を殺せそうなくらいに睨んでくる。弟に向ける目じゃないぞおい。真の英雄は目で殺すってあれ本当だったんですね。怖いからやめて。僕が悪かったです。


「でも、ちゃんと働いてるのは本当みたいね。今日は結構忙しかったんでしょ?」


 助け舟を出してくれたのは母さん。姉ちゃんと同じく俺のことを弄ってくるし休日はダラダラしてるようないい加減な人であるが、それでも教師をしているからか、もしくは親としてそれが当然なのか。俺たち子供にはちゃんと真摯に話を聞いたりしてくれるし、心配だってしてくれる。

 これで普段からもうちょいちゃんとしてくれてたら、自慢の母親だったものを。


「かなり忙しかったよ。お陰で今日は早上がりだったし。まあ、店のことを考えると忙しい方が商売上がったりだからな」

「今度お店にご挨拶に行った方がいいかしら」

「やめてくれない?」

「あ、私も行くー」

「じゃあ今度真矢がバイトの時に行きましょうか」

「仕事もあるし、土曜日かなー」

「大人は夏休みなんて関係ないものね」


 はぁ、と親娘揃ってため息。いきなり社会人の憂鬱を吐き出さないで欲しい。そんなん言われても夏休みで平日とか関係なく休みな俺には気持ちが分からんから。やっぱ学生って最高だわ。最後まで休みたっぷりだもん。


「ところで真矢、明日は?」

「出掛ける。晩飯はまた連絡するよ」

「夜露ちゃんとデートね」

「まあそうだけど……一々反応せんでもいいだろ……」


 若いっていいわーと遠い目をする明日仕事の母さん。教師に夏休みはないらしい。

 デートなんて普通の恋人同士なら普通にするだろうし、今は夏休みなのだから恋人同士じゃなくてもそこらのリア充は毎日パーリーピーポーしてんだから。


「どこ行くの? また映画?」

「どこでもいいだろ。ご馳走様、風呂入ってくるから」

「それくらい教えなさいよー」


 めんどくさいウザ絡みをしてくるこれまた明日仕事の姉を躱し、食器を流しに持って行ってから部屋へ着替えを取りに戻る。

 それにしても、明日仕事の大人たちを尻目に休日を謳歌するのって滅茶苦茶気持ちいいわ。たかがアルバイトながら自分自身も働き出して初めて気づいた。

 やはり休日はいい。リリンの生み出した文化の極みだよ。いやマジで。今日忙しかったから余計にそう感じる。もう毎日が日曜日でいいんじゃないかな。ついでにヤな宿題は全部ゴミ箱に捨てちゃえたらもっと良かったんだけどなぁ……。






 風呂から上がり自室に戻ってから、俺にはひとつやるべきことがあった。いつもなら宿題に手をつけるなりゲームするなり漫画読むなりしているのだが、それらを押し退けてでも早急に取り掛からねばならないものが。

 しかし残念なことに、俺はこの手のものはかなり不慣れであり、常日頃ならばそこまで思考を回さない。だが今回に限れば、いつもと少し事情が違うのだ。己の力ひとつではどうにもならなさそうな最優先事項。

 つまり、明日のピクニックに着ていく服を考えなければならないのである。


『や、いつも通りの普通なやつでいいじゃん。なんで変に凝ろうとしてるの?』


 相談相手である協力者の柏木世奈は、心底不思議そうな声を電話越しに届けてきた。


「いやでも、こう、ピクニックに行くに相応しい服装的なのあるんじゃねぇの? その辺パリピリア充なら詳しいかなと」

『大神くん基準のリア充なら、ピクニックに行かず街中に繰り出して遊ぶでしょ。ていうかわたし、パリピリア充だと思われてたんだ』


 へーそっかー、と含みのある声。愉快げに口角を上げてるんだろうと電話越しでも分かってしまう。

 柏木が相手なら特にそうなのだけど、言葉の端々を拾ってこっちを攻撃してこようとするから発言には注意しなければならない。しかもこいつの場合、広瀬や姉ちゃんと違って弄ってくるのではなく小悪魔的揶揄いがやってくるから手に負えない。


『ねえ大神くん。服装がダサかったりセンスないって言われる人が、なんでそう言われるか知ってる? なにもしなかったらバレないのに、センスない癖にそうやって変に凝った格好しようとするからバレちゃっておまけに余計なアクセとか加えちゃうからダサくなるんだよ?』

「俺が悪かったですごめんなさい……」


 俺は断じて服のセンスがないわけではないが、だからと言ってセンスのいいイケてる格好が出来るのかと聞かれるとノーとしか答えられない。

 そして、柏木のいう通りになってしまう可能性は頗る高かった。別にセンスがないわけではないが。


『髪はちゃんと整えて顔もちゃんと見えるようにして、壊滅的な服装のセンスがなかったら問題ないと思うよ。一応イケメンなんだし、それで見栄え的には及第点』

「出来れば満点が欲しいんだけど」

『わたしとモールで会った時の格好なら、ギリギリ落第かな』

「ダメじゃねぇか」


 以前モール内の喫茶店で会った時着ていたのは俺が持ってる中でもそれなりにマシな方の服だと思っていたんだが。それでも落第じゃあ何を着てもダメだ。

 嘘、俺ってもしかして服のセンスないの?

 あまりの事実にショックを隠せないでいると、電話の向こうから冗談だよ、と微笑みとともに言葉が返ってきた。そういうのやめません?


『てかさ、こういうのってわたしよりも同じ男子に聞いた方が良くない? ほら、朝陽くんがいるじゃん』

「お前マジで言ってんのか」

『冗談に決まってるじゃん』


 柏木は、俺たち四人の関係を知っている。というより、気づいている。人間観察が趣味と宣うこいつはそれを第三者の中でいち早く察知して友人たちを案じ、だからこそこうして俺の協力者になってくれたのだ。

 彼女曰く、俺もその友人のうちの一人にカウントされてしまっているらしいが。


「言っていい冗談と悪い冗談があるだろ……」

『こんなこと言うの、大神くんにだけ、だよ?』

「……っ、んな言い方されてもダメなもんはダメだ」

『でも今ちょっとドキッとしたでしょ』

「黙秘する」

『沈黙は肯定とみなすって便利な解釈の仕方だよね』

「分かってるんならやめてくれません?」

『楽しいからやだー』


 本当に楽しそうな微笑みが聞こえてくる。電話越しだと、耳元でクスクス囁かれてるみたいで本当にドキッとしてしまう。恐らくは、それすらも柏木の計算通りなんだろうが。


『じゃあ、そろそろ切るね。わたし明日バイトで早いから』

「ん、ありがとな。相談乗ってもらって」

『いいのいいの。友達なんだから、それくらい当然でしょ?』

「お前を友達にした覚えはないけどな」

『ケチだなー。いいじゃん減るもんじゃないし。むしろ増えるし』

「そういうのいいから。ほら、切るんだろ。おやすみ」

『そうやって律儀におやすみって言ってくれるところは好きだよ──』


 余計なことを言い出したので通話を切った。

 そういうことを男子相手に言うもんじゃないでしょ。などと言えばまた、大神くんにしかーとか言い出すんだろうけど。

 柏木世奈、侮れない相手である。小悪魔系清楚ギャル怖い。

 さて、明日はそこそこ朝が早い。とは言え学校の日よりも遅いが、いつもバイトの日に起きてる時間よりも早いのだ。夏休みの影響で生活リズム無茶苦茶になってるし、万が一遅刻なんてしてしまわないためにも、今日はそろそろ寝るか。

 いやまあ、さすがに遅刻なんてしないと思うけども。念のためね、念のため。

 今日は疲れたし、ぐっすり寝ちゃうかもしれないからね。

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