話の9:すわ!仲間集め(八)
「誰も一緒に行かないなんて言ってないだろ? 勝手に話を変な方向へ持ってくなって」
赤巴は何か勘違いしてやがるようだ。
この誤解は解いておかないとな。
「確かに次世代品種へ思う所はある。だが、それとこれとは別だぜ」
「意味が良く判らないんだけど」
眼鏡の奥で細められた目が、俺に嘘偽りを許さないと告げている。
下手な仏心は出さないで、本心を言えと。
可愛い顔して、おっかねぇ瞳してくれるぜ。
「なんつーのかね。次世代品種が後ろから俺達をズブリとやる危険性は拭えんが、だからと言ってお前さんと行動したくないという訳じゃないんだ」
人差し指を一本立て、顔の前で左右に振る。
そんな俺へ注ぐアイツの視線。今も真偽を問う厳しさに光っている。
「つまり?」
「一緒に行くのは賛成だって事さ。ウエインお嬢さんの言うとおり、お前さんの力は大した助けになるからな。無いと有るじゃ、有った方が断然いいに決まってる」
「そうだよね。うん、そうだよ」
俺の言葉に同意してくるのは、勿論ウエインお嬢さんだ。
さっきまでの不安が一転、今度は嬉しそうな顔。
やっぱり女の子には笑って貰わねぇとな。可憐な少女を悲しませるとあっちゃ、俺の男が廃るってもんよ。
だからといって、赤巴の事を強引に認めようと無理してる訳じゃないぞ。
「それは、僕を戦力としてアテにしているけれど、信用してはいない。そういう事か」
「まぁ、そう取ってくれて問題ない」
「信用してない奴と一緒に行動すると? それはまた妙な考えだな」
何とも言えない感情が、赤巴の両瞳に宿る。
それでいて強い眼光は絶えず俺を射抜き、本音を探っているよう。
揺らぎ一つなく維持された頑健な眼差しは、とても17歳前後の小僧とは思えない。
次世代品種ってのは皆こうなのか?
「さっきの非裏切り宣言を100%信用は出来ないが、共に戦う仲間としては信頼出来る。それが俺の結論だ」
頭じゃ危険と考えてるが、心は同行を求めてる。そんな感じだな。
相反する思いが同時に成り立つってのも変な気分だが。
それでもアイツとガチンコ対決しなけりゃ、こんな気にもならなかったさ。
何もしないで赤巴が次世代品種だと知ったなら、俺は間違いなくその場で袂を別っただろう。
直に戦い合って、アイツの力を肌で感じた今だから、協力して欲しいとも思えるんだな。
なんていうかね、喧嘩会話ってやつ?拳で語り合った仲的な親近感というか、感情移入というか。
いやはやまったく、らしくねぇぜ。
「俺はお前と行く事に異論はない。ていうか、一緒に来て欲しいね」
こういう事はアヤフヤにしてはいかんのさ。
だから俺は面と向かってはっきり言う。
直球、速球がポイントだぜ。
「……面白い奴だな、君は。それに物好きだ」
赤巴は少しばかり面食らったような顔をする。
どうやら本気で、俺が関係断絶を要求してくると思ってたらしい。
「でも、嫌いじゃないよ。そういうの」
笑った。
赤巴の奴が、初めて笑ったぞ。
ニッコリて程じゃないが、微笑強って感じだ。
元々が俺好みの女顔な所為で、可愛らしさが余計引き立つじゃねぇか。
例えるなら、そう。蕾がこう、ゆっくり遠慮がちに花開くような……
待て待て。俺は何を言ってる。相手は男だ。ヤローだ。雄が笑ったからって何を思う事がある。
そうとも、そんなモンは気の迷いさ。さっきの戦闘疲れが、俺のメンタル部分を狂わせてるだけだぜ。
でなけりゃ、どうして俺が野郎なんぞに関心をだな。
「そんなにじっと見て、どうかしたのか?」
……チクショウめッ!
赤巴ッ!
どうしてッ!
お前はッ!
男にッ!
「な、なんでもないぜ。ちょっとばかし疲れちまっただけさ。は、ははは」
「なんだ、あの程度で疲れたのか。思ったよりもだらしないんだな」
くぅ、呆れ顔も中々……って!
ちげーよ。俺はノーマル。嫌ってほどノーマルだ。
外見が少し女っぽく見えるからって、騙されやしねぇ。
俺がコイツを必要としてのは、実力があるからだ。それだけ。それしかない。絶対そう!
…………だよな、俺?