話の7:すわ!仲間集め(VI)
夢追い人。
兄様を表すのに、これほど的確な言葉はない。
兄様は昔から自分の夢に向かって直走り、決して後ろを振り向かなかった。
兄様にとっての夢とは目標であり目的であり、挑み続けるに足る問題。昔から幾つもの夢を追い、それを越え、新たな夢を定めて進む。
常に真っ直ぐで、曲がらず折れず。己が道行きを尊び、即するものを敬う。それが兄様の生き様。
優しく、雄々しく、強く、気高い兄様は、幼い頃から私の憧れで、理想だった。そして父様達の誇りであり、希望であり、夢でもある。
そんな兄様はある日突然、父様達に何も告げずに家を出て行ってしまった。
兄様に強く期待していた父様達は、兄様の出奔に嘆き悲しんだ。私も兄様が居ないのは寂しく思った。
けれど私は少し、ほっとしていたのを憶えている。
兄様には、自分のやりたい事を誰に気兼ねなくやって貰いたかった。何よりそれが私の尊敬する兄様らしい姿だから。
それから半年程して、私は兄様が月の遺跡に挑むべく、アウェーカーとなっている事を知った。
兄様が全てを捨てて、新たに追った夢。それが月の遺跡にある。
それを知った私は居ても立ってもいられず、一人家を抜け出し、兄様の姿を追っていた。
けれど、私は兄様には再会出来なかった。
私が会えたのは、かつて兄様と一緒に遺跡へ挑んだという仲間の一人だけ。
その人に教えられた。兄様は少し前に遺跡で命を落としたと。
窮地に陥った仲間を救う為に、たった一人で皆が逃げ切るまでの時間を稼いだ。そして自分は、命尽き果てたのだと。
哀しみと喪失感に包まれて、私は立てなくなった。
あまりにショックが大きすぎて、涙さえ流れない。
信じられなかった。
信じたくなかった。
私にとって兄様は目指すべき場所、理想。誰よりも敬愛し、共に歩みたいと望んだ人。
その兄様は、もう居ない。
たった一つの腕輪を遺して、消えてしまった。
「このブレスレットはね、兄様の形見なの」
兄様が最後まで身に付けていた遺品。何も描かれていない金の腕輪に触れる。
冷たくて硬い。無機的で、質素で、温かみの欠片もない道具。
「兄様は遺跡で死んだって。多くのアウェーカーがそうなったみたいに、ね」
私の心を映して、大きな刃に変わる物。
戦う為の力。前へ進む為の力。兄様と共に歩んでいた力。
「私は見てみたいの。兄様が見ていたものを。探そうとしたものを。求めていたものを」
家も、家族も、地位も、名誉も、財産も、持ち得る物の全てを捨てて、自分の人生までも捧げて、兄様が一途に追い続けた夢。
この目で見たい、手で触れたい。
「そして、兄様が見られなかったものを」
他の誰でもない、私が兄様の意志を継ごう。
兄様の後を追い、何時か兄様の辿り着けなかった場所へ、代わりに踏み入ろう。
それが私の答え。望み。願い。目的。
「でも私一人じゃ到底無理。だから風皇君に霧江君、改めてお願いするわ。私も一緒に連れて行って」
各話のサブタイトルに付く()の数字は、その話の視点を持つキャラによって変わっています。
数字は赤巴、漢数字は劉、ローマ数字はウエインという具合で。