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話の61:夢覚めて(+2)

 座席を離れ、目の前に開かれた光の中へと踏み入る。

 外界との接点であるハッチを越えると、真昼のように明るい別世界が私を迎えた。あまりの眩しさに片手でひさしを作り、思わず照明から目を隠してしまう。何時もは何とも思わない明りに対処してしまうのは、闇の中から急に出た為だろうか。

 けれど、それも長くは続かない。すぐに目は普段の光量へ馴れ戻り、降り注ぐ穏やかな輝きを受け入れ始める。更に僅かの間を置いて瞳は完全に平時の状態へ移り、あれ程に眩かった光を苦と思わなくなった。正常に明りを捉えた双眸が本来の機能を回復させると、それまで膨大な光に包まれて判然としなかった風景が見えてくる。

 世界を照らす光源は、遥か高い天井に居並ぶ大型ライトの群。等間隔に配された埋め込み式のそれらが天井と一体に近しい状態で、眼下の空間へと光を投げ掛けていた。多数のライトが隅々まで浸透し、広大なスペース全体を浮き彫りにする。そうして現された場所は、縦横に広く奥行きもある巨大な格納庫。

 上方を仰ぎ見ていた視線を水平に戻し、周囲をぐるりと見渡す。順次動く視界に入るのは目新しい物でなく、馴染み深い見慣れた物達。最初に確認出来たのは、やはりソレだ。雄々しく堂々たる姿で鎮座した、格納庫が主と呼べる鋼の巨塊。

 前後に伸びた40m強の長大な黒色フレーム。先端に砲門を備えたその全容は、サイズこそ違うものの銃身を彷彿とさせる。メインフレーム中心付近上面にコックピットが、末端である最後尾には十字型のスラスターが設置されていた。

 推進機関を搭載したコアエンジンブロックの前方、コックピットからは後方に当たる場所より、メインフレームが左右へ展開。拡張パーツ部には多目的ミサイルを装填したランチャーポッドが設けられ、更に右上、右下、左上、左下の4方向へと短翼型スタビライザーが突出する。

 操縦席から出て、メインフレーム中心上から全方を見る私の目には、格納庫内に置かれた同型戦闘機が5つ映った。それぞれ似通った形状をするけれど、機体後方の兵装ブロックと主翼の色彩によって区別が出来る。ちなみに私が乗っていた機体の翼色は赤。


 これらは皆、同じ目的の下に作られた戦闘兵器だ。大多数の敵と戦う事を想定して、他の追随を許さない圧倒的戦闘力を誇示すべく開発された。例えどんな強敵が現れても、どんな危機的状況に追い込まれても、常勝の道を突き進む為に。その一点へのみ特化した決戦兵器達。

 各機体のフレーム先端方に描かれたエンブレムは、その所属を示している。白いヴェールで全身を覆った蒼髪の乙女が、満円の月を背に剣を掲げた姿。それは軍事産業で名を馳せたクリシナーデエンタープライズの紋章。現在、格納庫に保管され微調整を受けている戦闘機達は、同企業が社運を賭して完成させた最高傑作。

 それが極限戦闘対応型第一種臨界突破制圧用高機動戦略掃討航宙艇『Cosmo Dragoon』。通称COD。

 全長40.6m、全幅27.8m、全高22mの搭乗式多武装戦闘機。私に与えられたのは1番機『ネメシス』。


 周囲へ向けていた意識を正面へ戻し、進むべき道を見定める。

 そうして確認出来たのは、真っ直ぐに伸びたメインフレームと、同じ高さへ取り付けられた通路。吹き抜け構造である格納庫の二階層目は、各機のコックピットの側方に付随し広がっている。

 開かれたままのハッチを背に、私は黒色のフレームを踏み越えて通路へ出た。自分に宛がわれたCODから少しずつ距離を取り、長く続く硬材床を歩き行く。その途中、階下への転落を防止する手摺柵の向こう側から、一階層目で動き回る人々の姿が見えた。

 オレンジ色のツナギ服を着込んだ作業員達だ。彼等の背にはクリシナーデエンタープライズのエンブレムが刻まれている。CODの修理、強化改造、弾薬の補充、武装チェック、システム面の調整等、凡そあらゆる整備を行う専門家集団。1つの機体に10人単位で整備士が付き、常に最善の状態を維持すべく働いてくれている。彼等が居なければ、私達は満足に戦う事も出来ない。縁の下の力持ちとは正に彼等のこと。足を向けては寝られないわ。


 工具を持って行き交う者、機体に接続したUPCSを使い内部システムへ手を加える者、機体に取り付いて欠損部の修復に従事する者、スラスター周りを検査する者、エンジンブロックに潜り込んでいる者、消費した弾装を武器庫から運び出してくる者、各々が与えられた職務を着実にこなし、それに対する作業音が響いている。

 方々から聞こえる多彩な音を聞きつつ、一同の様子を見下ろしながら、私は更に通路を踏んだ。程無くして、階下へ下りる為の階段へ辿り着く。二階層目と一階層目を繋ぐ階段は折り返し構造で、数度曲がった後に下層へ到達していた。私はその一段目へ脚を乗せ、二段目を踏み、三段目も同様に足裏で叩く。歩く度に硬く高い音が響き出る昇降材を降り、忙しなく働く人々の熱気が上層よりも明瞭に伝わってくる同階へ向かった。

 階段を降りきった後、振り返ってネメシスを見る。赤翼の愛機。魔力に呼応して展開する武装を盛り込み、それ故の攻防力を備えた反面、他者には扱い得ない私専用となった戦闘艇。数々の戦場を潜る中、私の癖が染み付いたお陰で、いよいよ私以外では操縦出来なくなってしまった。けれどだからこそ、愛着も強く感じる。


 そんな機体のすぐ傍で、併設された据え置き型の大容量UPCSを睨んでいる男性が1人。

 皆と同じオレンジのツナギ服を着て、やはり皆と同じにあちこちが油や何かで汚れていた。でも顔は綺麗だ。頬にも油汚れが付いて清潔とは言えない。それでも綺麗な顔だと思う。

 品良く整った目鼻に、形のいい唇。色艶に富んだ肌は白くてキメ細かく、その細面は羨ましくなるぐらい端整。身体の線も細く、余分な脂肪が一切付いていない理想的なスレンダーさ。一見では女性としか思えない。

 首筋を隠し、瞼へ落ちかかる髪は蒼。眼鏡の奥にある瞳は赤。理知的で自意識も高そうな顔は、雰囲気と表情も相まってキツめに見える。実際、性格もキツイんだけど。

 しかも17、8歳ぐらいな外見のくせして、本当は私より2つ年上なのよね。本当は24歳なんだって。彼程に実年齢と性別が違って見える男もいないでしょう。そうは思っても、皆してそれを口に出さない。彼は容姿の事を言われると物凄く怒るから。まぁ、中には彼の憤慨を気にせずに言いまくる人もいるけど。


 今も大型UPCSと睨めっこしている彼は、ネメシスの専属整備士だ。

 此処に居る整備士達はローテーションで入れ替わり、対応する機体を代える。COD各機の整備班は週毎に再編されて、その都度、別番機の対処に当たってきた。これは何かしらの理由で欠員が出ても、他の面子で穴を埋める為に取られた方法らしい。CODはそれぞれに特徴はあるものの、大元の基本構造は等しいので可能だという話。

 その中にあって、1機へのみ付いて働く専属整備士が居る。各機体に1人ずつ、つまりパイロット数と同じに計5人。彼等は他の整備士達以上に自分の受け持つCODについて詳しく、他者が触れられないような中枢機関にまで精通した優秀な技術者でもある。彼はその1人。

 その性質上、私達パイロットとは関係が深い専属整備士は、パートナーという間柄である事が常。私と彼もそれなりに気心の知れた仲。

 だからこそ、話しておくべき事はあると思う。小さな禍根でも後に残したくはないから。可能な限り早々に摘み取って、互いの内に横たわる遣り難さは解消しておきたい。その思いが、私の歩を進ませる。未だ私の存在には気付いていない彼の方へと。

 兄弟達と同じに翼を休めるネメシスの巨体。前方に其の偉容を見ながら、私は敷設されたUPCSを迂回して彼の側方へ回った。


「忙しそうだね」


 声を掛けて、横合いから彼の注視するモニターを覗き込む。

 立体映像式画面ホログラフィックモニターに浮かぶネメシスの俯瞰図と、その周囲に連なる数字の羅列、伸縮を繰り返すグラフを真剣な顔で見詰めていた彼は、そこで始めて私の方へ顔を向けてきた。

 眼鏡の奥にある瞳と目が合う。なのに彼は表情を変えない。少し不機嫌寄りに見える無表情。一方で赤い双眸は非難めいた輝きを宿していた。


「そう見えるんじゃなく、忙しいんだよ」


 私へと睨み目を送りながら、不機嫌そうな声で返してくる。

 少女のような面立ちのくせに、そこへ敷かれた感情の温度は低い。激昂という程ではないけれど、下火になった怒りへ近いものを感じる。やっぱり居眠りしたという事実が、かなぁり腹へ据えかねているらしい。


「あ、ごめん。邪魔しちゃった?」

「まぁ、いいさ。丁度言っておきたい事もあったからね」


 眼鏡の奥に覗く瞳を閉じて、彼は顔を正面へ戻す。

 それと同時に腰掛けていた椅子を引いて、支柱に支えられた座面を回した。体毎私の方へ向けて、膝の上で十指を組む。

 作業の片手間ではなく、面と向かって私と話し合うつもりみたいだ。真面目に話そうとしてくれる姿勢は嬉しいけど、改まって構えられると少し緊張しちゃう。


「それなら私も」

「なんだ? 先に言ってくれ」

「え……あ、うん」


 椅子に座したまま真っ直ぐ見詰めてくる彼の目から、今は主だった感情が読み取れない。

 さっきまであった低度の怒気はナリを潜め、代わりに無感動な光が静かに揺れた。人の心が読める訳でなし、表情を消されると相手の思いは途端に判らなくなる。雰囲気や気配も特徴を失せさせ、いよいよ知れない。

 今、彼は私を前に、何を思っているのだろうか。相手の心が気になって、それが少し不安を煽る。


「なんで、システムを停めちゃったの? 私はまだ続けても良かったのに」

「起動中に意識を失うような状態で、作業の続行は出来ない」


 私の問いに、彼は間髪いれず返してきた。

 私が何を言うか予測していたかのような勢いで、続きを遮る程にピシャリと言い放つ。あまりな切り返しの妙に、次言おうとしていた言葉を本当に封じられてしまった。


「……でも」

「例え一瞬だろうと、それが問題なのは変わりない。これが戦闘中だったらどうなっていたか、言う必要なんて無いだろ?」


 辛うじて開いた口は、これまた彼の次言によって掻き消される。

 反論を試みようとする私へ、有無を言わさぬ口調で問い掛ける彼。その瞳には否定と咎め、呆れと拒絶がくすぶり見えた。

 ようやく現れた感情の色は、しかしどれも友好の気とは真逆。これに当てられた私は、次こそ口を閉ざさずにはいられず。告げたい言葉を吐き出す事は出来なくなった。

 何よりも、彼の言わんとする事が理解出来るから。彼の言い様は私自身が思った事だし、彼でなくとも私の非を突き示すでしょう。それを思えば尚の事、言うべき言葉は見付からない。それもその筈。言い返す意味なんて無いのだもの。


「今回だけじゃない。ここ最近のデータと照らし合わせても、君はそういう時が何度かあった」


 彼は横目で立体化している大型ディスプレイを見遣る。

 そこに浮き出ている複数の図柄は、どうやら私と機体の同調率や精神状態を表しているものらしい。確かに少し前までは安定していたグラフ表は、ここ暫くの部分になって凹凸が目立っている。これじゃ、彼が危機感を募らせるのも仕方ないかも。


「全て些末な時間の小さな出来事かもしれない。訓練や起動試験の間だけで、実戦には1度も無かっただろう。だからと言って、今後同じ事が戦の渦中で起きない保障はないだろ」


 私は何も言えなかった。

 ただ黙って、唇を噛む以外には。彼の刺す様な視線が痛い。


「言っておくけど、これは危険な兆候だ。『戦闘中に陥ってないから大丈夫』なんじゃない。今までたまたま戦闘中に出ていなかっただけだぞ。こんな状態が続けば、何時か必ず大きなミスへ繋がる。君だって判ってる筈だ」


 至極正論。

 彼の言う事はどれも尤も。

 一瞬の状況判断が常に必要とされ、些細な判断ミスは致命的な被害を生みかねない。それが命懸けの戦闘というもの。それで割を受けるのが自分だけならまだしも、仲間や多くの人々を巻き込んでしまうのが私達だ。甘えや妥協は許されない。ごめんなさい、じゃ通じない。

 私が立っているのは、そういう世界。勿論、判ってる。判ってる、けど……本当に完璧に、理解して、納得して、自分にそう言い聞かせて心に持ち続けていたかと問われると、頷けない、かも。


「こんな事、言われなきゃ気付けないほど君も馬鹿じゃないだろ。判ったなら、今日はもう帰って休め。いざという時に備えて休息するのも君達の仕事だ」


 そこまで言って彼は椅子を動かし、再びUPCSに向き直る。

 モニター同様に空間映像として出力されたホログラフィックキーボードを軽快に打ち叩き、次々に画面内の表示画像を切り替えていった。

 そんな彼の姿を少しだけ見ていた後で、格納庫の出口へ向かう為、私は踵を返す。

 頭の中では彼に言われたばかりの言葉が渦巻いていた。自分の浅はかさ、未熟さに対する苦悔くかいの念と共に。心が鈍く痛む。体もなんだか重く感じる。

 結局、私は私自身へ言い訳すら出来なかった。自分の非を再認識し、軽率さを痛感するぐらいだ。それが無性に悲しいし、腹立たしいし、悔しい。我知らず、拳を握ってしまう程に。


勇魚いさな


 彼へ背を向けて歩き始めた直後、いきなり名前を呼ばれた。

 無意識に脚が止まり、私はその場で立ち尽くしす。それからゆっくりと首だけを動かして、肩越しに横目で彼を見た。


「悪い事は言わない、先生に診て貰え。精神的な事も、面倒を見てくれる人だ」


 先と同じ姿勢で、UPCSの操作を続けながら彼は述べる。

 こちらは見ずに画面へ視線を注いだまま、忙しなく指を動かして。

 その、まるで私の事なんてどうでもいいと言いたげな在り様が。業務連絡的な通達法が、私の胸中に1つの感情を灯した。小さな、けれど確かな熱を持つ、僅かな苦しみを伴う心の火。これは、怒り。


赤巴せきは君」


 気付いたら口を開き、私も彼の名前を呼んでいた。

 それでも相手は、画面から目を逸らさない。


「なんだ」

「私の事を、心配してくれてるの?」


 考えるより先に、口が動いて言葉を放つ。

 自分で何を言っているのか、すぐには判らなかった程。感情が先走り、思ってもいない事を口に出していた。

 いえ、本当は思ったままを口にしたのか。


「COD一機にどれだけの金が掛かってる思う? 作業員の労力だって半端じゃない。それを個人の単純なミスで台無しにされちゃ堪らないだろ」


 依然として作業と並行しての返答。

 しかも感情味の欠けた、素っ気無い物言い。無駄な余念を一切差し挟んでいないが故に、本心だと判る。

 私の中に芽生えた小さな灯は、ざわめきながら猛然とした勢いで広がり始めた。更に大きく、更に熱く、更に激しく。


「それにね」

「……それに?」


 次の一言と共、彼は不意にこちらへと顔を向ける。

 睨むような目と、無表情の顔。でもそこに異なる動きを私は見た。


「パイロットのパーソナルデータを機体に取り入れ、同調率を高めていくっていうのは、随分と手間なんだよ。死んだパイロットの代わりを探して、1から設定し直すなんて面倒で困る。そういうのは全部僕の仕事だ。君の為に、要らない苦労はしたくないんでね」


 彼の清廉そうな口唇が、僅かに歪む。嘲りの形に。

 冷笑を刷いて、私を嘲笑った後、彼はもう興味を失ったように視線を外した。眼前のモニターへ意識の全てを向け、もう作業へ集中してしまう。それ以上の言葉は、流れてはこない。


「そぉ、ですっかッ!」


 私も顔を正面に向ける。一気に、勢い良く。

 彼の姿を視界から消して、胸中にたぎる感情を、力任せに吐き出した。

 自分でも驚くぐらいの激情が込もった声は、数多の作業音を上回り、格納庫全体に響いてしまう。その結果、何事かとこちらを見てくる整備員達の視線が、一斉に私へ注がれるのを感じた。でも今は、皆の奇異の視線も気にならない。

 内側で猛り狂う憤怒の大火が、羞恥心その他一切を上回り、私の心へかつてない震動を与えている。あまりに激しく揺れ動く感情の轟きに、私の体そのものも芯から小刻みに震えてきた。


 無関心。徹底した無関心。

 彼は、私の専属整備士パートナーは、あの霧江赤巴という男は、私の事はどうでもいいらしい!

 人の迷惑以前に、自分が面倒事を背負い込むのが嫌だから、私に自重しろと言う!

 自分勝手! 自己中心的! 少しは人の気持ちも考えろ!

 一言、嘘でもいいから『君の事が心配なんだよ』って、それぐらい言っていいじゃない! どうしてそれが言えないの! そこは素直に自分の気持ちを、それもガッカリするような内容を、しれっと言う場面じゃないでしょ! 空気読みなさいよ! 昨日今日会ったばかりじゃないんだから、私が何を求めてるのか感じ取りなさいよ!

 それとも、知ってて敢えてあんな事を言ったの? だったら尚更悪いわよ!

 最低! ホンットに最ッ低ッ! 馬鹿! 馬鹿ばか莫迦バカ大馬鹿野郎! 男女! 腐れドシスコン!

 もぉ、もぉ、知らない! 全ッ然、知らないッ! 勝手にしなさいよッ!


「手間掛けさせて、悪ぅ御座いましたネッ!」


 もう一度、全ての感情を塗り込めて、私は渾身の声で大きく怒鳴る。

 人生最大級と思える怒号は、またも格納庫へ響き渡った。さっき以上に荒々しく、凄まじく、凶暴に。私を視ていた整備士一同が、その一喝に当てられて逃げ散り出したのが判った。けれど彼だけは、赤巴君だけは意にも介さず、作業を続行している様子。怯える事も、驚く事も、突発的に身を震わす事さえも、まるでせずに。私の背後と悠々と椅子に座り、働き続けているようなのだ。

 それがまた余計、癇に障る。私の事など本当に眼中へないという、そんな態度の表れ。興味ない者の声なんて聞こえないとでも言うように。完全なる無視シカト。頭にキた。もうこれ以上ないというぐらい。

 振り返って文句を言う? 冗談じゃない、顔も見たくないわ!

 相手がそのつもりなら結構。私だって、アウトオブ眼中してやるわよ。


 彼を除く整備員達の戦慄を感じながら、私は出口へと歩を進める。

 1歩踏み出す毎に床を激しく踏みしだき、その所為で普段絶対に鳴らないような大音が轟くのも仕方ない。

 私はそのまま前だけを見て、心中穏やかならざる状態で格納庫を突っ切った。何時の間にか、小走りになって。

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