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話の5:すわ!仲間集め(四)

「眼鏡は外しといた方がいいぜ」


 それまで黙って向かい合っていたが、俺は赤巴せきはに言ってやった。

 別に親切心からじゃぁない。

 忠告みたいなモンさ。これからお前をノシてやるぞ、ってな。

 俺の言葉を真に受けたのか、それとも最初からそのつもりだったのか。赤巴は何言うでもなく眼鏡を外す。

 そのまま両側の蔓を折り畳んで、シャツの胸ポケットに差し込んだ。

 一連の動作を見ながら俺は思う。

 確かに赤巴の言うように、俺には配慮が足りなかったのかもしれない。そう考えないでもない。

 しかしそれは、アイツに言われたから思うだけだ。言われなけりゃ、そんな風に考える事も無かったろう。

 別に自分へ対して言い訳るつもりもないが、仕方ない事なんだよな。

 俺は今までずっと一人でやってきた。アウェーカーとして一人で仕事をこなし、それなりに修羅場も潜ってきた。その過程で誰かと組んで動くなんて無かったからな。

 自分以外の相手の意向を気にしないで、勝手に話を進めちまうのは癖というか。今までがそうだったもんだから、今回もついそのノリで言っちまった訳だ。

 とは言え、俺は今までの遍歴を赤巴に話しちゃいないし、アイツが俺の思考状態を理解出きる筈ないのも事実。

 となると、俺の行動が勝手気ままと思われて怒りを買うのも、まぁしょうがねぇと言うか、判らんでもないと言うか。

 改めて考えれば俺は俺の非を認めんでもないさ。今までの慣習で物事を考え、動いちまったのは止む無しと言えど、相方の存在を失念同然に無視しちまったのは確かに悪かったと思う。

 俺個人のやり口に、それを知らないアイツを巻き込んじまったんだから。

 一度よくよく考えてみると、どんどん悪い気がしてきたぜ。……反省。

 だが、だ。

 それでも俺は退がる気はない。自分の誤りを自分なりに自覚出来始めたとしても、俺は赤巴を睨んだまま。

 一戦交えるつもりなのは今も変わらず。何故なのか。

 アイツの物言いにキレた?あの眼が気に入らない?生理的な嫌悪?或いは拒否感?日頃のストレスが爆発したか?

 どれも違うな。

 答えは、意外だったから、だろう。

 何が意外だったって、赤巴アイツがさ。

 女みたいなツラして、細っこくて、軟弱というか気が弱そうに見えた。道端の花を愛でつつ小動物と戯れるような、そんなメルヘンな野郎を想像してたのさ。アイツの姿からな。

 しかし実際にはどうだ。

 自分の言いたい事をズバズバ言うし、俺を馬鹿でも見るような目で見てくるし(反論出来きかねるのが余計に悔しいぜ)、ふにゃふにゃした情けねぇ性格かと思えばシャッキリしてやがる。

 イメージと実際のギャップが、その意外性が、なんつーかな。俺ん中の何かを刺激してやがるんだ。

 俺自身良く判らんのだから困ったもんだぜ。何せこんな気分は初めてだからよ。

 でも、もしかしたらと思う。

 これは興味なのかもってな。そう、アイツへの興味。

 女の子に抱く「もっと仲良くなりた〜い」って感じじゃねぇ。それは確かだ。

 だからってヤロウに、異性へ対するのと同じ感情を湧かせてる訳じゃねぇぞ。

 同姓故の興味ってのかな。

 俺は今までヤロウの事なんざ気に掛けた事もない。敵にしろ味方にしろ、もっと知りたいなんぞ考えた事は皆無だぜ。

 だが俺は今、赤巴に対して今まで感じた事の無い好奇心みたいな物を持ってる。

 アイツの事を知りたいと思う。んん?やっぱ興味だな。

 興味があるから、喧嘩してみたいと思ってるのか。

 直に戦って、アウェーカーとしてのアイツの実力を確かめたい。いや、もっと単純に、アイツとりあってみたいと、そう考えてる。

 何が驚きって、こんな事を思う自分に驚きだ。

 まさか女の子以外に俺の食指が動くとは。

 いや、いいか。これはアイツに女性的な魅力を感じてるからの興味じゃないぞ?

 そこは勘違いするな。

 どんなに俺好みな顔してても、俺は男色になんぞ走らん。それは確実に絶対だ。神に誓ってもいい。

 ま、俺は無神論者なんだが。

 とにかくだ。俺はアイツの事をもっと色々知りたいと思ってるのさ。その一環として戦いたいと。

 アイツの怒りが俺の思考態度に根差していて、俺もそれがマズかったと気付いた今。素直に詫びれば止められるだろう戦いを敢えて止めず、俺はやるぜ。

 赤巴、お前の力ってのを見せてくれや。


「その綺麗な顔には、傷を付けないようにしてやるよ」


 本音と挑発の入り混じった声を送り、俺は身構える。

 赤巴は相変わらず黙ったままだが、アイツなりに何がしかの構えを取っているようだ。

 今の所、俺達は得物を手にしていない。だがな、素手で殴り合うつもりじゃない。

 アウェーカーの喧嘩ってのは、互いの持てる技能を駆使して本気でい合うものを言うんだ。

 勿論、俺達だってその例には漏れない。俺は自分の得物を何時でも取り出せるよう準備をしてある。赤巴だってそうだろう。

 双方手の内は判らないままだが、なぁに大して問題じゃねぇ。これから嫌でも判るんだからな。


「一応、言っておくけど」


 睨み合いを始めてから、初めて赤巴が口を開いた。

 特に怒りへ震えているとか、感情を押し殺すとか、そういう風じゃない。自然な感じだ。

 それが逆に俺を緊張させやがる。


「今更謝っても許す気はないから。ここまで来たら、僕の気が済むよう一発は殴らせてもらう」


 目を細めて俺を見ながら、はっきりと宣言しやがる。

 見た目とは裏腹に、結構攻撃的な奴だな。

 だが安心しろ。俺だって謝る気はない。


「やってみろよ。出来るもんならな!」


 それが合図だ。

 俺はすかさず両腕を上げ、右手を左脇、左手を右脇へと差し込む。胸前で左右の腕を交差させ、着慣れたコートの下へ滑り込ませた。

 俺の脇の下にはホルスターがある。肩に掛けたストラップで固定化される其処へ、左右それぞれに愛銃を入れてあるのさ。

 身に付けた銃を手にして引き抜くまでに、1秒も要らねぇ。

 呼吸するのと同じレベルまで日常化した動きは、腕が、手が、指が、全て記憶していて勝手にやっちまう。

 コートを外側へとはためかせ、俺は両手に握った二挺の銃を正面へ翳す。

 右手に握るのはS&W-M500-8インチモデルのカスタムタイプ「ブラックライヤー」。

 左手に握るのはコルト・ガバメントM1911A1のカスタムモデル「シルバーハインド」。

 どちらも俺が長年使い、隅々まで改造してきた俺専用の俺銃だ。

 ブラックライヤーは全長380mmってデカさの50口径。全体を黒一色で統一してある。一般的な銃に比べて些か長い銃身が特徴だな。

 使用弾丸は500S&Wマグナム鐵鋼連弾。こいつはハイ・クリシズム(新技術で開発された硬化チタニウムと同程度の強度を誇る物質だぜ)を加工して作った特攻弾だ。

 この銃の大元は色々と使用上の問題があったんだが(例えば使用時のアホみたいな反動とか)、俺は自分用に改造してそれらを解消してある。

 ついでにリボルバー式のだった作動方式もセミオートマチック化して、マガジン装弾数は15発に拡張済みよ。

 一方のシルバーハインドは全長215mmの45口径。名前が示す通り銀で設えたお気に入りだ。グリップに龍の意匠を掘り込んであるのがオリジナリティ。

 使用弾丸は45APC貫通連弾。やっぱりハイ・クリシズム製だ。

 銃と言ったらガバメントってぐらい昔から人気のあるタイプだからな。安定した使い易さと、納得の威力。魅力的なフォルムも合わさって愛好家は多い。俺もその一人さ。

 独自に改造を重ねて、更なる使い勝手と威力向上を目指した一品だぜ。その結果、発射機構をセミオートマチック化、マガジン装弾数も17発と増量してある。

 我が愛銃を両手に掲げ、俺は射線に赤巴を捉える。

 約束どおり顔は狙わず、手足に照準を合わせてトリガーを引いた。

 その瞬間に生じる反動が腕を伝い、俺自身に銃の始動を知らしめる。

 自らの手で、意思で、眠っていた得物を目覚めさせた感触。確かなそれが脳髄に軽い痺れを与える最中。

 内部構造の起動に即して黒光りする弾丸が、両銃の銃口より吐き出されていく。


 撃ち出された2つの弾丸は螺旋状に回転しつつ、空気の壁を貫いて真っ直ぐに飛んだ。

 双弾の進行方向には、標的とされた男が立つ。

 対防弾用硝子さえ貫通粉砕する強攻弾は、直撃しようものなら確実に人体部位を破壊するだろう。それこそ高所から叩き落された熟れたトマトの如く、簡単且つ簡潔にな。

 たかが喧嘩に実弾を使うなんざ大人気ないと言われるかもしれないが、アウェーカー同士の喧嘩ってのはそういうもんなのさ。

 実力が物を言い、未熟な者では生き抜けない業界だ。どこで命を落とすとも知れない。アウェーカーをやろうなんて考える奴等は、誰だってその覚悟がある。

 マトモな頭じゃ勤まらねぇ、イカレた連中の揃い踏み。情け容赦に手加減無用、それが仕事屋アウェーカーよ。

 だから当然、喧嘩でも本気を出す。生きるか死ぬかはソイツの運と腕前次第。

 この考えについてこれない奴は、とっとと表の世界へ帰るんだな。


赤巴せきは、お前はどうだ!」


 俺の叫びが路上に響き、それと同時に2弾が揃って空を裂く。

 今の今まで赤巴の立っていた場所だ。そこを鐵鋼、貫通両連弾が駆け抜けた。何者も傷付ける事無く。

 避けやがった。

 赤巴は飛来する銃弾が自分へ到達するより先に、俺から見て左側へ走り出し命中前に躱したようだ。

 目玉をサイバーウェアの特別製に交換したり、特殊な薬物を服用する事で劇的に視力を強化したりと、今の時代は肉眼で弾道を捉える方法が幾つかある。

 実際そうやってるアウェーカーを俺も何人か知ってるし、赤巴がそういう連中と同じじゃないとは言い切れない。

 だがそうじゃ無かったら。

 アイツは弾丸を見たんじゃなく、直感か、感覚的に知ったのかもしれないぜ。世の中には気配で大凡の周辺情報を把握するなんて芸当の持ち主も居るからな。

 野生動物よろしく、本能の危機感知力が命ずるままに回避したって可能性も無くはない。

 何にせよ、アイツは俺の一撃を躱した。だったらどうする。


「決まってる、当たるまで狙い撃ちだ!」


 撃つ。撃つ撃つ撃つ撃つ。

 一度はこちらの射線上から逃れた赤巴を、再度捉えて引き金を引き絞る。

 その都度、ブラックライヤーとシルバーハインドのスライドが後方へ送られ、同じタイミングで強硬度の弾丸を吐き連ねた。

 繰り出される双発が宙空を抜け、或いは路面へと減り込む。

 しかし赤巴には当たらない。

 アイツは弾丸到着の寸前で、常に弾道の一歩外側へ抜け出している。俺の攻撃に骨肉を抉られないよう、先へ先へと走り続け、全ての弾を回避するんだ。

 まるでコンパス。

 俺が針軸で、アイツが鉛筆。俺を中心にして、周囲を円形に赤巴が走る。それを追って方向だけを変え、俺は二挺の銃を撃ち続ける。今の俺達を上から覗けば、きっと等身大のコンパスに見えるんだろうぜ。

 それにしたって大した奴だな。俺の銃撃を全て避けきるなんざ、中々出来るもんじゃねぇぞ。


「俺の弾切れを待ってんのか? だったら無駄だぜ」


 横目で俺の方を見ながら走る赤巴へ、俺は堂々と言ってやる。

 その直後、言ってる傍から両銃とも装填中の弾丸を使い切っちまった。

 内包弾数分トリガーを引くと、まず指が勝手に止まる。これは長年の経験から、俺の体が装弾数を覚えてるからだ。お陰で空撃ちなんて情けない真似はしなくなったぜ。

 そしてトリガーに掛けた指が止まると同時に、今度は中指が思考の外で動き出す。

 トリガー脇に設けられたボタン式のマガジンキャッチを押し込み、銃把底からロックの外れた空弾倉が滑り落ちる。

 その間に両腕は腰横へ下ろされ、袖口から新たなマガジンが落下。俺は予備弾倉をコートのそこら中に仕込んであるのさ。

 新弾倉が空いたグリップ内へと入り込んだ瞬間に再ロックが掛かり、後は機構が自動的に最初の弾丸を発射可能状態へと運び上げる。

 弾倉装填直後には腕が上げられ、左右の銃は標的へ狙いを定め終えている。

 マガジン交換による射撃可能状態への移行速度は2秒未満。全て無意識に体が動いて、俺の意識が相手から逸れぬままに遣り終えた。

 余計な手間を一切省いた俺式最速装填法。

 赤巴に無駄と言ったのは、この速度故よ。

 弾倉交換作業の空隙の間を、アイツは好機と見なして突っ込んできた。

 だが要した時間は2秒に満たず、アイツの予想を上回る速さで俺は攻撃を再開する。

 一瞬、赤巴の顔へ驚きの色が過ぎった。けれども直ぐに持ち直し、アイツは再び横へ走って俺の銃撃を避け始める。

 赤巴の奴も肝が据わってやがるぜ。あの場で驚愕に脚を止めず、素早く回避に移ったんだからな。

 でもよ。


「当てが外れて残念だったな。一対一サシで戦う俺に死角はないのさ」


 アイツへ言いつつトリガーへ掛けた指を引く。

 引く。引く引く引く引く。

 二挺で弾丸を撃ちまくる。


 確かに狙っている。俺は間違いなく赤巴を狙い、引き金を引いている。

 だが当たらない。面白いほど当たらない。

 俺には長年コイツで飯を食ってきた実績と、数々の修羅場をコイツで越えて来たという自負がある。

 ガキの頃からコイツを使い、俺は今まで一人で生きてきた。コイツの扱いなら御手の者、三度の飯より熟知してる。

 そう思ってきた。

 しかし今はどうだ。

 俺が積み上げてきた自信を嘲笑うかのように、俺が扱うコイツの砲火を掻い潜る奴が居る。

 これでもかと撃ち出す幾多の弾丸を、俺の猛攻を、何でも無いかのように避ける男が居る。

 俺の眼前で、赤巴は弾線を躱し続けている。先刻から掠りもしない。

 ここまで避けられまくると、流石にショックだぜ。

 アイツの軌道を制す為に進行方向へ銃撃しても、ワンステップで後ろへ退がり新たな軌道で走り出す。

 思わず拍手をしたくなるほど見事な動き。並々ならぬ反射神経の持ち主らしい。

 そのくせ目はずっと俺を見ている。苦悩や諦めとは無縁の、頑健な反意によって光る瞳。

 本気で俺を殴り飛ばすつもりだと、あの目はずっと訴えている。それが判る。

 正直、俺は焦ってるぜ。

 アイツは俺に近付けない。得物を持つ気配もないし、さっきから避けてばかりだ。しかも動き回って体力を消費している筈。状況は俺にこそ有利。圧倒的にアイツが不利。

 その筈なんだが、どうも居心地が悪い。胸騒ぎというか、尻が妙に痒いというか。

 アイツの目を見ていると、俺は自分の有利が疑わしくなってくる。双眸に輝る強い光に反してこの手応えの無さも、俺を不安にさせる要因か。


「何時まで逃げ回ってるつもりだ。避けてばかりじゃ、俺を殴るなんて出来ねぇぞ!」


 俺は自分の中の不安を拭う意味も込め、赤巴に向かって吐きつけた。

 こいつは事実だ。アイツだってそれは判ってるだろう。わざわざ俺に指摘されるまでもないか。

 だったら、そろそろ動いた方がいいんじゃねぇの。


「ああ、その通りだ。丁度、避けてばかりいるのも飽きた所だし」


 言うや否や、赤巴は唐突に動きを止めた。

 両脚の靴底を揃って路面に付け、俺の正面で立ち止まりやがった。

 予期せぬ動きで俺が攻撃の手を止めるのを期待したか?なら残念。

 俺は構わず狙いを定め、照準合わせと同時に銃撃を見舞う。

 両手に握るブラックライヤーとシルバーハインドが共同で咆哮を上げ、漆黒の破壊力を獲物目掛けて噴き出した。

 2つの弾丸は微妙な速度違を以って、コンマ秒の時間差で赤巴へと到達する。

 が。


「なにィッ!?」


 俺は思わず叫んでいた。

 眼前の光景があまりにショッキングだったからだ。

 俺の前方に立つ赤巴。アイツは1mmも動いちゃいない。だから弾丸を避けはしない。にも拘らず、2つの硬弾はアイツへ届かなかった。届けないでいる。

 俺の撃った弾は、赤巴の真ん前で止まっているからだ。あと数cmでアイツの体に触れるという場所、空中で、弾丸は止まったまま動かない。


「おいおい、マジかよ」


 俺の細目もこの時ばかりは開いちまう。

 赤巴は立ったまま俺を見ていた。俺もアイツを見ている。正確には、俺が見ているのはアイツの前で止められた弾丸の方だが。

 その時、俺はある事に気付いた。よくよく見てみると、止められた弾の先端は赤い渦のようなものに触れている。

 小さな赤い渦、いやアレは波紋なのか。

 水面に小石を投げ入れた時に生じるような波紋に阻まれ、弾丸はそれ以上進めないまま、動きを完全に止められているようだ。

 かと思えば、俺の見ている前で停止中の弾が急激に赤化し、溶ける様に消えちまう。信じ難い事に、蒸発してしまった様子。


「…………えぇい!」


 ダイヤも砕く俺の連弾が跡形も無く溶けちまう。その光景を半ば唖然と見ていた俺は、何とか気を取り直してトリガーを引き直した。

 新たな弾丸が撃ち出されるも、赤巴は避けない。その理由は先の通り。

 次撃も赤巴の正面で止められ、少ししてから溶け消える。後には残骸すら見られない。


「こんなん、ありかよ」


 俺の呟きを余所に、赤巴が歩き始めた。

 今までは俺の周囲を走るだけだったのに、今回は真っ直ぐ俺へ目掛けて駆けて来る。

 マズイ。マズイぜ。


「チィッ!」


 突っ込んでくる赤巴へと銃口を向け、俺は引き金を引き続けた。

 衝撃と発砲音が連続で走り響き、何発もの銃弾がアイツへと襲い掛かる。

 だが全てが標的の皮膚へ触れる事叶わず、停止の後に蒸発した。

 そうこうしている内に、赤巴はもう俺の目の前へ辿り着く。右手を掲げ、握り拳を作り。

 その手に赤い光が纏われていた。弾丸を止めていたのと同じ色、同じ感じ、恐らくは同じもの。

 炎。燃え上がる炎だ。赤巴の腕には炎が巻き付いている。

 それが俺を狙い、振り上げられた腕だ。


「それじゃ、殴らせて貰う!」


 言い終わるよりも早く、赤巴の拳が振り下ろされる。

 俺は咄嗟に、バックステップを踏み、数歩後ろへ飛び退いた。

 直後。赤巴の右腕が、それまで俺の立っていた路面へ叩き込まれる。

 驚愕の瞬間だ。

 赤巴の拳が路面を打ち付けた刹那、そこが爆発でもあったかのように砕け、凹み、べっこりとした小規模のクレーターになっちまった。

 崩れ飛んだ道路の破片は、空中で融解して消えちまう。またしても蒸発。

 冗談じゃねぇぞ。こんなので殴られたら、頭が吹っ飛んじまうじゃねぇか。

 これはもう間違いない。コイツは特異能力サイキックだ。つまり赤巴は。


「お前、次世代品種セカンドだったのか」


 熱量で溶け、衝撃で抉れた道路の陥没部。そこに降り立つ赤巴へと、確信を込めて俺は問う。

 元々の身長差に段差が加わり、より上から俺が見下ろす形。

 だが優越感なんぞ皆無。頬を伝う冷たい汗が、俺の気持ちを代弁する。

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