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話の47:廃墟にて(+弐)

 建築物程は損傷の少ない交差点を左折した瞬間、アタシ達の世界は消えた。

 最初に視えたのは閃光。

 視界の全てを奪い、あらゆる色を飲み込んで消し去った凄まじい光。


 次に来たのは衝撃よ。

 巨人が振り被ったハンマーで思いっきり殴り飛ばされたような、堪えようの無い強烈な力に襲われたわ。

 それを受けた直後、アタシ達の体は重力の頸木くびきから解き放たれた。アタシ達自身の体重さえ霧消して、体は路面より浮き上がる。かと思えば、『あっ』と言う間さえ無く宙を走ったのよ。

 有体ありていに言えば、とんでもない衝撃が直撃して、自分の意思とは無関係に吹き飛ばされたの。

 全身を激烈な痛みが駆け巡り、声も出せない。そのくせ思考能力は十全に働き、自分の状態が、無数の痛覚諸共に理解出来た。

 耐え難い痛みが体の内側で暴れ回り、全神経を過剰なほど刺激して止まないのは、はっきり言って地獄。気を失いたくても痛覚が鮮烈すぎて、沈む前に意識が引き戻されちゃうんだから。


 悶えようにも体は硬直したように動かないし、呻こうにも喉が止まって声も無し。そんな時に、ようやく耳が音を拾った。

 だけどそれと同時に、アタシの聴覚は機能を止めてしまう。雷光の落下にも似たけたたましい轟音が耳を貫き、集音能力を殺してしまったから。

 お陰で、異常に甲高い耳鳴りが外耳道で乱反響中よ。

 一瞬だけ聞こえた音は、恐らく爆音でしょう。とんでもなく巨大に聞こえたのは、アタシ達のぐ傍で起こったからね。


 第2の状況転換。体へ新たな衝撃が走る。

 どうやら路面に激突したみたい。半壊状態の公道に勢い良く叩き付けられて、そのまま盛大な土煙を上げて滑って行く。それがアタシの視た最後の映像。

 体には力が入らないし、自分で自分を止められないわ。痛みなんて限界点を越えて、感じてるのかどうかも判らなくなっちゃった。


 視界はゼロ。何も見えない。何処までも続く無限の闇が広がるばかり。

 目は完全に逝っちゃったわね。耳も使い物にならない。体は……動かそうとするだけ無駄だわ。まったく感覚が無いんだもの。

 頭はまだ働いてるけど、何時までつかしら?

 ……赤巴せきはちゃんは大丈夫なの? そんな訳、無いでしょうけど。

 あぁん、いったいどうして、何がこう……

 ……イヤねぇ、何だか、頭が……

 ……案外、早く……

 ……もう……






《予備電源作動》

《緊急事態用復旧プログラム移行》

《自己診断モード起動》

《……検索中……検索中……検索中……》

《損傷率47.28%》

《自律起動不能》

《自己再生機能不調・完全修復不能》

《自己再生機能出力60.11%……起動》

《……修復中……修復中……修復中……》

《主要機官修復率24.47%》

《強制運用システム起動》

《アラーム・レッド……レッド……レッド……》

《補助電源作動・サブリアクター起動・電力供給率11%》

《アラーム・レッド……レッド……イエロー……》

《アラーム解除・システム起動開始》

《システムチェック・走査実行中》

《主要機官作動率・レベル26……27……28……》

《バックアップメモリ・グリーン》

《主要機官作動率・レベル33……34……35……》

《作動率限界》

《システム復旧》

《イヤーセンサー起動》



『本当にやったのか?』

『出会い頭にズドン! 重戦車タンクでさえオシャカの一撃っすよ。生きてる筈ねぇって』

『煙が酷くて見えんな。生体反応はどうだ?』

『反応無し。確実に殺ってますね』



《アイセンサー起動》

《インテリジェンスシステム起動》



 ……ん……んん……

 アタシ……まだ生きてるみたいね……辛うじてだけど。

 目の調子は悪いまま、だわ。視界に幾多の線が、ノイズが走ってる。

 視難いわねぇ。



《動体情報グリーン》

《暫定起動完了》

《復旧終了》



 視界に映る電子文字が、アタシの現状を教えてくれる。

 どうも相当悪いみたいだわ。普段の半分も出力が出てない。

 ……無理ないわね。何か強力な兵器で攻撃されたみたいだし。メモリ毎システムが完全に落ちなかっただけマシね。


 体の方もボロボロだわ。何とか動かせるかしら?

 欠損パーツが多すぎて、あんまり華麗な動きは出来ないけど。立ち上がるぐらいは困りたくないわね。


 ノイズは消えないし、不鮮明な視界は煙に覆われてるし。体は思うように動かないし、そもそも何箇所か無くなってるし。

 やれやれね、まったく。


 耳には雑音が混じってる。周囲の音がイマイチよく聞こえないわ。

 視界を覆う濃煙は、爆発物によって作られた物ね。アタシの躯体ボディを吹っ飛ばすぐらいだから、かなり高威力の重火器でしょう。ロケットランチャーとかバズーカ砲とか、その辺りじゃないかしら。


 それにしたって酷いわよ。お気に入りの服がメチャメチャだわ。クリシナーデ領区に帰れない今、同じ服は手に入らないんだから。体の方よりそっちがショック。

 おまけに傘も消し飛んじゃったし、全身これ雨曝あまざらしじゃないの。一応、服と表皮カバーには耐酸コーティングしてあるけど、それでもチクチクするのよね。いい気分じゃないわ。

 露出した内機関部もダメージを負ってショートしそうだし。ホント、最悪よぉ〜。

 誰だか知らないけど、随分と愉快な事してくれちゃって。


「あら?」


 足元に目を向けた時、ノイズが走る視界の中に見慣れない物を見つけた。

 赤く染まった奇妙な塊。一見だと白子のようにも見えるけど。

 でもこんな所に、そんなナマモノが落ちてる筈ないわよねぇ。だとしたら、これは何かしら?

 目を凝らしてよくよく見てみると、何か見覚えがあるような無いような……んもぉ、ノイズが邪魔ね!

 本来なら目に映る物体は即座に解析データが表示されて、それが「どういう材質で出来た」「何なのか」判るんだけど。

 現状では機能不全でマトモに動いてないもんだから、詳しい事は一切不明なのよね。

 ふぅ〜、何時も動いてた機能が急に使えなくなると不便だわぁ。

 だからって記憶部分まで無くなってる訳じゃないの。少し考えれば、コレの正体もきっと。


「ああ、そうだわ」


 なんて考えてる傍から思い出した。

 浮かんだ答えを確認証明する為、アタシは足元に転がる鮮やかな奇塊きかいを、右手でつまみ上げる。

 親指、人差し指、中指だけが残る腕で、第一指、第二指を使い目の前まで運んだ。

 幾つも乱線が横切る目に力を入れて、まじまじと観察。

 ……やっぱりそうね。これで考え通りだったと確信が持てたわ。


「これって脳組織の一部じゃないのぉ」


 かな〜り新鮮なそれは、まだ温かい。ついでにブニブニしてる。

 出来たてっていうか、外に放り出されて間もないのは確実ね。

 さて、ではこれは誰の物なのか。そんなの考えるまでも無いわ。こんなのが落ちてる理由なんて、持ち主がアタシと一緒にブッ飛ばされちゃったから意外にはありえないもの。

 つまり、コレは。


赤巴せきはちゃんたら、脳髄撒き散らすほど木っ端微塵になっちゃったのね。ダイエットの必要なんて無かったのに、ものすっごくスリムになっちゃったわねぇ」


 スリムと言うより、もうスリミね。

 探せば他の生体組織も見付かるでしょうけど、こんなバラバラになっちゃったら例え集めても、再生は到底不可能よ。

 残念だけど、赤巴ちゃんは御臨終だわ。

 アクトレア相手にしたら無敵に素敵なのに、こんな所で簡単にくたばっちゃうものね。やっぱり生身の限界というヤツかしら? まぁ、アタシだってこのカラダじゃなかったら粉々の滅茶苦茶だったでしょうけど。

 でも本当に残念ね。この赤巴ちゃんも、嫌いじゃなかったんだけど。


『おい、何か居るぞ』


 何かしら? 声が聞こえるわ。

 煙とノイズの所為で良く見えないけど、アタシの正面方向に動いてる影が見える。

 耳の調子も悪いから、音が大きくなったり小さくなったりしてるけど、さっきのは確かに声だったわね。

 だとしたら、こんな素敵なお出迎えをしてくれたクソ野朗共サプライズチームの線が濃厚だわ。

 うふ、是非とも挨拶したい。御礼と一緒にね。


『生きてるだと?』

『ありえねぇって! 立ってやがるぞ!』

り損ねたか。……いや、生体反応は依然として0だ。どうなってる?』


 煙の向こうに見えた影が徐々に近付いて、遂に煙奥から姿を現した。

 それはフルフェイスメットで頭部全体を覆い、甲冑のような装甲服を着込んだ武装集団。人数は確認出来る限りで3。

 半故障中な音声パターン解析機能の分析結果では、全員が男だと判明。アテにしていいかは謎だけど。

 可聴域の微調整が不完全な耳に、統一性を欠いた乱雑な音階が流れ込んでくる。彼等が口にした言葉なんだろうけど、把握が少し難しいわ。


『な、なんだ、ありゃ!』

『アイツの体を見ろよ。どうなってんだ?』

擬似躯体サイバーウェアか……いや、それにしたってあれは、部分的な換装なんてレベルじゃない』


 連中はアタシとの距離を保ったまま、こちらを指差して何かを話してる。

 驚きと好奇、そして恐怖が混在した音声が、断続的にだけど聞こえてくるわ。

 どうやらアタシの姿に面食らってるみたいね。

 自分自身の状態は先刻の走査スキャンで確認しててよ。左半身が破壊されて、損壊面より機械部品を盛大に露出させてる。右腕は上腕や前腕の表皮カバーが剥げ落ち、所々壊れた配線やパーツが剥き出し。

 脚も同様で、特に酷いのは右ね。腿から下は高硬度骨格パーツによって、辛うじて支えられてるような状態よ。それ以外の組成部位は無くなっちゃってるから、鋼色に照り輝く骨格部が丸見えと。左脚は足首から下が消えてて、砕けた破損部を直接路面につけてる状態。

 お腹辺りも崩れてて、人体で言えば内臓に相当する駆動維持機官が、あられもなくハミ出しちゃって。肋骨パーツの合間から破損膨張したケーブルやらコネクタが盛り出て、複数の機官が密集した内部機臓は連続的なスパークを止めない。

 だけどそんな事は問題ではないの。それよりも、もっとずっと重要且つ大変な部分があるわ。


 顔よッ!

 顔なのよッ!!


 アタシのキュートなお顔が、半分近くズル剥け! 顔骨格パーツが思いっきり露呈しちゃってる!

 嗚呼、なんて酷いの。あんまりだわ。アタシのガラスのハートは深く深く傷付いてしまった。

 乙女の顔に見るも無残な傷を残すなんて、此の世のどんな罪より重い! 万死に値してよ!


『全身を擬似躯体サイバーウェアに? なんという過度な改造だ。いや、単なるロボットか』

「失礼しちゃうわね。メモリと心は自前の物よ」


 耳に届いた不躾な男の声に、アタシは噴気を伴い反論する。

 と、完全武装の3人は、明らかな動揺を示して1歩退いた。

 どうやらアタシが喋るとは思ってなかったみたいね。


『本当に稼動してるぞ!』

『ありえねって! 至近距離で対戦車ミサイルをブチ込んでやったんだ! どうして動ける!』


 2人の声は若い。10代後半ぐらいかしら。随分と怯えてるわね。

 不調な耳でも彼等の慌てぶりと恐れの強さは充分に判る。それ程に語気が乱れてるのよ。

 突発的な想定外の事態に弱いみたい。男のくせに、肝が据わってないわねぇ。メルルちゃんの方が、よっぽど男らしいわ。


「そんな事はどーだっていいのよ。それよりアンタ達の所為でアタシのお顔がボロボロじゃないの。服だってそうよ! ついでに、相方がコンナンなっちゃったんだから」


 相手の慌声を一蹴して、アタシは摘んだままの脳片を男達に突き出す。

 変わり果てた赤巴ちゃんの残骸を見せて、3人へ向かって1歩踏み出した。


「この子はね、女神代行守護者アタシたちの主戦力だったのよ。それをこんな惨めな姿に変えちゃって、どーしてくれるの!」


 主要人体器官の一部にして人間の中枢機関を指先で揺すり、アタシは3人に詰め寄る。

 ノイズの中で武装者達はたじろぎ、こちらの接近に合わせて煙内へ若干の歩を進めた。

 でも逃げるつもりは無いらしい。それ以上は下がらず、三者は其処で踏み止まっている。

 外部情報を得る為の観測センサーが内蔵されていると思しきメットの、センサー連結部に該当するだろう三点複式カメラがアタシを捉えた。負けじと、アタシも相手方のメット付随レンズを見詰め返す。


 彼等がロシェティック領区の残党なのかしら。領区跡に雪崩れ込んだアクトレアを追い払った張本人?

 今はまだ判らないわね。まずは、この集団が何者なのかを突き止めないと。

 赤巴ちゃんが死んじゃった今、この子が請け負った仕事はアタシが代わりにやってあげる。アタシに出来るせめてもの手向けよ。


『片方は完全に潰したの。なのに、こっちはまだ動けるなんて』

『なんという事だ。ロシェティックの残党は、こんなロストテクノロジーを復活させていたのか』


 男達の声を聞いて、アタシは目をしばたかせる。

 彼等は今、アタシの事をロシェティック残党の使いか何かみたいに呼んだわ。それってつまり、あっちはアタシがロシェティック側の存在だと思ってる訳よね。じゃあ、連中はアタシ達の探してたロシェティック勢力じゃないという事。

 成る程ねぇ。……で、それなら向こうは何者? 余計に正体が気になるじゃない。


「そうよ。人だった頃の意識を移し変えたこの躯体からだは、常人を凌駕する能力と機能を備えてる。太古の超技術を甦らせた今、アンタ達に勝ち目は無いわ」


 ここでアタシの所属を明かすのは得策じゃないわね。

 あっちがアタシをロシェティックだと思ってるなら、それを利用して話を聞き出さなくちゃ。


「今ならまだ大目に見てあげるわ。武装を解除して大人しく投降なさい。そして洗いざらい全てを話すのよ」


 アタシの事をロシェティック残党系列と呼び、姿を見せたと同時に砲撃してきた。つまり彼等は、ロシェティック側と非友好の間柄なんでしょう。

 アタシの姿を見て浮き足立ってる今、一気に畳み掛けて情報を吐き出させなきゃね。


『た、隊長……』

『どうすれば……どうしましょう?』


 ヘルメットの所為で表情は判らないけど、兵士2人が上げる声はなんとも情けない。

 まるでなってないわね。顔を隠しても、動揺が手に取るように判るわよ。

 これじゃ『自分達は雑魚です』って言ってるようなものじゃない。ま、アタシとしては好都合だけど。


『うろたえるな!』


 そうかと思えば、リーダー格と思しき兵士が軟弱な部下達を一喝する。

 怒気を含んだ厳声を叩き付けられ、途端に両兵は背筋を伸ばして直立不動の姿勢を取った。

 絶不調なアタシの聴覚機官でも、完璧に捉えられる程の声だもの。反射的に彼等が姿勢を正すのも無理ないんじゃないかしら。

 それになにより、大した迫力と威圧感を持ってるわ。あのリーダー級だけは、出来が違うわね。


『例え奴がロシェティックの秘密兵器だとしても、見てみろ! 既に半壊状態ではないか。あれではロクに動く事も出来まい。何を恐れる必要がある。早々にトドメを刺して、我々の任務を続行するのだ』

『は、はい!』

『了解っす!』


 あらあら、大将さんの冷静的確な指示で、2人共やる気を取り戻しちゃったわ。

 さっきまでの及び腰は何処へやら。強気の本気でここぞとばかり、獰猛な敵意を放射してくる。

 こうまで立ち直っちゃうと、もう脅しは効かなさそうねぇ。


『得体の知れないロボットの出来損ないめ、今度こそブッ壊してやる!』

『2度とナメた口が利けないよう、頭を粉々にしてやんよ!』


 メットの下から吐き出されるのは、色も艶もない下品な怒声。

 若輩兵士の双方が肩に掛けていた銃器を(形状からしてマシンガンの類でしょう)、濃厚な害意と共に向けてくる。

 本気の大真面目で、アタシを再起不能にするつもりみたいね。

 でもこんな所でヤられちゃったら、赤巴せきはちゃんに申し訳が立たないわ。なによりも、アタシはまだ死にたくないのよ。



《演算機能動作不良》

《既定行動予測プログラム作動不能》



 眼部センサー内に表示される情報は、アタシの十八番オハコが使えない事を律儀に教えてくれる。

 この躯体ボディの全身に実装された多数のセンサー類によって相対者の網膜・表情・声質から精神状態を分析し、身体機能や各種武装も考慮に入れ、そこへ周辺情報を加えて瞬時に計算式を組み上げた後、次行動パターンを割り出す予測プログラム。

 的中率は実に89%もの超有用高性能機能。1500年前に製造された古代文明の遺物を流用して造った体は、伊達じゃないのよ。


 だけど残念な事に、その素敵機能も今は使えない。

 これに限った事じゃないけど、大部分が損壊してるから調子の悪すぎる事が原因ね。

 さて困ったわ、どうしましょ?

 こんな体でも出来る事を、今はやるしかないか。



《任意でのシステム変換……承諾》

《アームパーツ、リミッター解除》



『後々で邪魔をされても面倒だ。後腐れないように、確実に破壊し―――』


 リーダーちゃんが部下への命令を、最後まで言い終える事は無かったわ。

 なにせ言葉の途中で、お腹の真ん中に大きな風穴を開けられちゃったから。


 一瞬の内に背中側へ広がる景色まで見えるような穴が開き、他2名の司令塔だった男は仰向けに倒れ込む。

 内肉諸共紛失した装甲服の空欄から、思い出したように血が流れ出したのは、そのすぐ後。

事態の急転に、例の2人はまるでついていけないみたい。1人は機関銃を握ったまま固まっていて、もう1人は振り返ってやっぱり固まってる。

 さて、アタシはと言えば。ノイズの中にダブルソルジャーを収めて、握るマイ兵器天使の口付けエンゼルハイロゥの大口径マズルを、兵士の1人に定め直し。


「なぁにぃ? 狐につままれたみたいな顔して。うふふふ、アタシの抜き撃ちが見えなかったんでしょ」


 微笑みを投げる相手は、アタシを見たまま止まっちゃった方。

 こっちの声が聞こえてるのかどうか、無反応すぎて判らないわね。


 お出掛けの際には常に携行するアタシの得物、愛銃天使の口付けエンゼルハイロゥ

 これはアタシ以上に丈夫だから、あの爆発でも無事だったわ。正面からの衝撃をアタシが全部請け負ったから、っていうのもあるかも。お陰で誤作動も起きず、支障なく使えた。

 あっちこっちガタガタの今でも、躯体ボディに掛かってる制限を解除すれば、人間以上の反応速度で動く事が出来てよ。流石に全部位は無理でも、まだ比較的無事な片腕ぐらいならね。

 正しく目にも止まらぬ早業なの。背負う巨銃を引き抜いて、狙いを付けて即座に発射。

 アタシのクイックドローは不可避が売りよ。撃った事さえ即座には感知させないんだから。気付いた時には時既に遅し。見事に命中して万々歳と。


 反動相殺と姿勢制御に無理をさせた所為で、更に幾つか内部機官が逝ちゃったみたいだけど。今の所、活動に致命的な弊害は起こらなそうだからOK。

 もう1発、いけるわね。


「バァ〜イ」


 ウィンクと共に、トリガーへ掛けた指を引く。

 大口の砲門から放たれた大威力破壊弾が宙空を直進し、相手が疑問を抱くより先に胸から上を消し飛ばした。



《レッドアラーム》

《制御機官に負荷》

《各出力20%ダウン》

《自己診断プログラム作動……》



 ノイズ上に浮かび上がる幾つもの情報を無視して、アタシは銃口を横へ滑らせる。

 その狙い目は最後の1人。ボスからヘルメットレンズを逸らして今、隣で仲間が上半身を失った事に今気付いた不幸者にね。

 喪失した体組織の欠損部は、銃撃の影響で溶接されたように焼き付いてしまったみたい。今度は一切汚れを散らさず、前のめりに路面へと倒れ伏す。


「さぁ〜て、アンタ達が何処の誰で、此処で何をしてるのか。ぜーんぶ話して貰おうかしら。じゃないと、この2人みたいに楽には殺してあげないわよ?」


 まだ熱い銃口を正面からフルフェイスメットにに突き付けて、アタシはニッコリ笑いかける。

 それをされた相手の方は、無言のまま尻餅をついちゃった。

 腰が抜けたのか、荒れた道路に後ろ手を突いて震えてるわ。

 同情を誘うみじめな姿だけど、も・ち・ろ・ん・許してあ〜げない。1つ残らず吐き出してねん。


『わ、我々は、比島ひしま領区の者だ』


 全身を小刻みに揺すり、声まで震わせて男が言う。

 その言葉はアタシも想像だにしなかったもの。

 へたり込んだ相手を見下ろすまま、残っている方の眉が思わず吊り上がっちゃったわ。

 そんなアタシの様子に怯えたのか、武装兵士は慌てたように更なる言葉を吐き出す。


『う、嘘じゃない。本当だ、本当なんだ』


 悲鳴に近い声がアタシの聴覚域に届く。

 声の出し主はジリジリ後退ろうとしながら、しかし失敗して少しも動けていない。身悶えするのに進まない様は、まるで全身の筋肉が痙攣を起こして、思い通りにならないかのよう。

 随分と情けない有様だけど、恐怖の度合いからして彼の言葉は嘘で無さそうね。

 ま、この状況で虚言を述べてくれる精神的タフさを、この小者ちゃんは持ってなんか無いでしょうけど。


「なら、その比島の兵士が此処で何をしてるのかしら?」


 手にする大口径砲の狙点を逸らさず、銃身バレルの直線状に相手を睨む。

 アタシの質問が電気椅子のショックにでも感じたのか、へたれた兵士はビクリと全身を震わせた。

 特にドスを利かせて問うたつもりはないんだけど、今の彼には全てが抜き身の刃に思えるんでしょう。相変わらずの身体震動を行いつつ、何度も頭を縦に振った。


『ひ、比島領区は今、し、食料や他の資源が不足している、じょ、じょじょ、状態なんだ。だ、だから、われわれわれ我々が、がが、他領区で資源を探してて……』

「聞き辛いわねぇ。もっとハッキリ喋りなさいな」

『は、はいぃ!』


 不必要にビブラートの掛かる男の声へ、アタシは思ったままの文句を投げ渡す。

 すると彼は途端に背筋を伸ばし、震える声に芯を加えた。

 別に立ち上がりはしないけど、一応はシャンとしたみたいだわ。これでマトモにお話が出来るでしょ。

 なんだか物覚えの悪い奴隷を調教してるみたいな気分ね。これこれで嗜虐心しぎゃくしんをソソってくれちゃうのよね。


『比島領区全体を救う程の資源は、何処もまかなってくれない。だから、インフィニートに滅ぼされた領区跡で、使えそうな物をあさりに来ていた』

「それじゃ、アンタ達3人だけじゃないのね?」

『そ、そうだ。もっと大勢、仲間は居る。今は皆それぞれのチームに分かれて、街中を探索中だ』

「具体的な数は?」

『1個大隊……凡そ600人』

「此処に巣食ってたアクトレアを追い払ったのも、アンタ達?」

『ああ。最初に仲間達で、奴等を倒して回った。遺骸は資源捜索の邪魔になるから、街の中心部に纏めてある』

「アタシ達を攻撃した理由は?」

『ロシェティック領区の、生き残りかと思ったから』

「どうして生き残りを攻撃するの?」

『作戦の邪魔になる。連中が食い潰してる資源を、奪う為にも居てもらっては困るからだ』

「今までにも何人か殺したの?」


 アタシがその問いを発した直後、へたり込んだ状態のままで兵士が動いた。

 両肩を小さく上下に動かし、張りの戻っていた声に笑いを滲ませる。

 脂ぎる下卑げびた笑声から、そいつの次の言葉は簡単に予想出来るわ。


『全てのシェルターを襲って皆殺しにした。男も、女も、ガキも、老いぼれも、全員まとめて、だ』


 きっと今この男は、かなぁり下品な顔をしてるんでしょうね。

 他者の命を奪うという行為、その愉悦に浸ってる者の声だわ。


 ……でもそれは、美しくない。

 シェルター内に隠れてるような人々は、抵抗する力を持たない弱者達でしょう。護られる側の無力な存在。

 それを暴力で押し潰すだなんて、品性を微塵も感じられないわ。

 本当のよろこびとは、抗う力を持つ相手との、命を掛けた戦闘よ。牙を剥く敵意と正面からぶつかり、それを捻じ伏せ、自らの力で叩き潰す。それこそが真の快楽。

 無抵抗な相手を蹴散らかすなんて、全然駄目よ。面白さの欠片だってありゃしない。それが判らないなんてねぇ。


『へ、へへへ、女共は、殺す前に順番で姦し……』


 溜息を1つ。それからアタシは、トリガーに掛けてある指を引いた。

 愛銃が巨砲から獰猛な咆哮を上げ、それと共に男の右脚を食い千切る。

 腿から下が一瞬で紛失し、兵士は天を仰いで絶叫した。


『あおおぉぉおぉおあがぁあああぁぎィィィィッ!!』

「アンタの下らない話はどーだっていいの。余計な事にアタシのメモリ容量を浪費させないでちょうだい」

『おおおぉぉぉぉん、うおおぉががぁぁあああヒギィィィッ!!』


 損失した脚部を両手で押さえ込み、男は装甲服のまま路面を転げ回る。

 口からは獣の唸りにも似た雄叫びを撒き散らせて。

 見事なまでの醜態ね。暴れれば暴れるだけ、傷口より血液が逃げ出しているのに。

 そのお陰で兵士ちゃんの周囲は既に真っ赤。路面に流れ出した血が体にも付着して、汚らしいまだらの装飾が成されてる。

 あんまり本人が楽しそうなもんだから、ついつい注意するのを忘れちゃったわ。テヘ♪


『ぐああぁあぁああぁッ!! 痛ェッ! クソッ! 馬鹿野郎ッ! チクショウッ! 痛ェェェッ!』

「んもぉ、それぐらいで喚かないの。それよりアタシの質問に答えなさい。ロシェティック領区の生き残りは他に居ないの?」

『馬鹿がッ! クソッ! ナメやがってッ! ふざけるなッ! このクソ野郎ッ! 殺してやるッ! 殺してやるからなッ! チクショウッ! 痛ェェッ!』


 どうやらアタシに答えるつもりはないらしい。

 傷口を押さえてのたくりながら、男は怒声と罵声を喉が裂けん勢いで吐き出している。

 あれだけ血が抜けても、まだ残ってるのねぇ。すっかり逆上して先刻までの怯えた様子は皆無だわ。

 人間、極限まで追い詰められると本性が現れるもの。これがイイ例ね。


「アタシはアンタと遊んでる暇はないの。早いところ答えてくれる? でないと、次は腕とバイバイよ?」

『ざけんなッ! このカスッ! クズッ! クソブタがッ! 地獄へ落ちろッ! 死ねッ! 何度も死ねッ!』

「あらあら、素敵な返答をアリガトウ。それじゃ、どっちの腕から逝きましょうか」


 天使の口付けエンゼルハイロゥの銃口を水平に揺らし、転がる男へピントを合わす。

 もうガッタガタの体だけど、まだ数発分撃つ余力ぐらいは捻出出来るわ。

 いたいけな乙女に向けた暴言の数々、それはキッチリ清算して貰わないとね。


『チ、チクショウがッ! 居ねぇよッ! 残ってる訳ねぇだろぉぅがッ! 1匹残らずブッ殺したッ! 街の中心に集めてッ、死体積み上げてッ、火ぃつけて燃やしちまったよッ!』


 アタシの構えた大型銃を見た為か、男は盛大な舌打ちの後で吼え上げる。

 さっきの話からして予想はしてたけど、生存者の居る可能性は本格的に低そうね。

 これじゃ、赤巴せきはちゃんへの手向けにならないわ。さて、どうしましょうか?


「ロシェティック領区が襲われた際、インフィニートが何を奪っていったか知ってるかしら?」

『ハッ! 知るかヴァァカッ! へへッ、ヘヘヘヘッ! 残念だったなぁッ! ざまぁみろッ!』


 心からの歓喜を、有り余る憎悪と共に男が放る。

 痛みと苦しみと屈辱と怒り、幾多のどす黒い感情が固められた陰惨な哄笑は、不調な耳を透過してアタシの中に流れ込んできた。

 だけど、今はそんな戯言に気分を害している場合じゃない。ましてや気に留める時でもない。

 今だに機能しているセンサー類が、急速に接近してくる大質量体の存在を感知しているから。


『これでテメェは―――べぶッ!!』


 倒れた兵士が何かを言おうとした瞬間、背方の廃墟棟が突然砕け散った。

 そうかと思えば、飛び行く瓦礫片の向こう側から巨大な物体が走り出てくる。

 それは深紅に染まった車輪のような存在。規格外に大きく、3m近くもある。

 それが高速で回転しながら路面を突き進み、例の兵士を一撃で踏み潰すや挽肉ひきにくに変えて、バラバラの分体として放り飛ばした。

 赤い飛沫しぶきが方々に散る最中、謎の車輪は一直線にアタシへと向かい来る。


「なんなの」


 外部情報集積センサーと分析システムが対向体のチェックを行う折、アタシは真横に跳び退って車輪を躱した。

 動力不調と出力不足を訴える警告メッセージが網膜フィルターに映り込むけど、それを一斉消去して路面へ着地。

 回避によって逃れ行った車輪は、先刻までアタシの立っていた場所を一気に駆け抜け、10m程進んでからUターンで方向転換する。

 そして再びアタシへ狙い走り出した。


「これは……機動兵器!」


 2度目の攻撃も、同程度のスピードで行われる。直線状に迷い無く突っ込んでくる大車輪を、今度はギリギリで回避。

 その時になって、敵勢体の主要情報が纏まった。

 確認作業と並行して見遣る相手は、またも走り抜けて対面上に建っていた廃ビルへと激突する。

 灰煙と崩れ落ちる瓦礫で視界が閉ざされ、先方の姿は見えない。


 いきなり現れた奴の組成は、重金属製の柔硬素材。しかもかなりの高純度。

 ごく微量な生体反応はあったけど、人一人分のそれには至らない。

 基本構造は蟲類ちゅうるいに近いわね。機械で出来た特大の虫よ。本来の姿は百足ムカデのようで、全身を丸めてさっきの形態になってたみたい。

 それからセンサーが捉えた映像の中には、あのシンボルマークが……


「今ので自滅、とはいかないようね」


 アタシの見ている前で、再び瓦礫が弾け飛ぶ。

 立ち昇る濃煙を割って、節状体と無数の足を持った装甲蟲が、長い体を高らかに伸び上がらせた。

 深紅の外殻で覆われた長大な全身が、途中からしなやかに緩み曲がる。それによって下げられた顔部には、赤い球状の複眼型センサーが4個並び、外側へ弧状に開く牙と、上下に激しく開閉する口部が確認出来てよ。

 無機物で有機物を再現すると、こんなに不気味で恐ろしいモノも出来上がるのね。可憐なアタシとは大違い。科学の使い方を間違えてるんじゃない?

 そんな中でアタシが1番気になってるのは、機械百足ちゃんの額。其処に描かれるのは、細くデフォルメされた月。そしてそれへ絡みつく赤目の双頭蛇。


「インフィニートの機動兵器が、こんな所で何をしてるのかしら?」


 天使の口付けエンゼルハイロゥを構え、銃口を相手に向けて、アタシは聞いてみる。

 まともな返答は期待していなくてよ。勿論、向こうだってそれをするつもりは無いでしょう。

 そもそも見た感じからして、戦闘一辺倒なマシーンだものね。返事をしてくれそうには無いわ。

 そして思ったとおり、奴は頭を体の内側に沈み込ませて、長体を再度車輪状に変形させた。

 それからまたまた予想にそくし、回転を始めて突っ込んでくる。


「とんだ御仕事になっちゃったわねぇ!」


 正面から走り来る巨体を見ながら、アタシはもう1度横へと飛び退く。


 アタシの視界内を、車輪状に丸まった機動兵器が駆け抜ける。

 側面から見るそれは円形。中心を狙い、銃口を固定。

 次いでトリガーを引く。

 生じる反動に腕が軋み、なけなしの稼動パーツが最終的な危機領域へ突入したわ。

 腕の感覚が遠退いていくけれど、まだ天使の口付けエンゼルハイロゥを手放す訳にはいかない。

 辛うじて残った3つの指で巨銃を支え、起動中の視界モニターに集中。

 ノイズの中に確認出来たのは、撃ち出した弾丸が機動兵器の中心点へ命中した瞬間よ。

 丸めた体の中でも、頭部が位置する文字通りの中心。蟲型機動兵器の全機能を統御する重要機関に、アタシの炸裂式4GA粒弾が激突し、そのまま頭部周辺を根こそぎ破壊する。


「終わりね」


 着地と同時に発したアタシの宣言は、正確に現実となってよ。

 主脳部を損失した巨大百足ムカデは、着弾の衝撃から横転。路面を叩く震動と音響をまびき、積もった埃を周囲に舞い上げる。

 球形に変形した体を俄かに緩め、全身を伸ばそうとしたのも束の間。そのまま動きを止め、程無く機能をも停止した。

 視覚モニターに表示される敵勢情報からも、それは明らか。

 この手の機動兵器は、自律運動の制御機関が密集している物なのよ。その集中部さえ破壊してしまえば、簡単に動きを止められるわ。

 アタシは内蔵センサーで電子出力の密集点を見付けてたから、仕留めるのも苦じゃなかったけど。

 まぁ、お陰で腕は限界みたいね。流石にこれ以上の銃撃は、過負荷が掛かりすぎるから遠慮したい。

 幸い、今倒したばかりの機動兵器があるから、使えそうな部品を拝借して応急処置ぐらい出来そうよ。ついでにメモリも奪って、何でこんな所に在ったのか探ってみましょ。

 大方、ロシェティック攻略作戦の時に残されていったんでしょうけどね。

 あら? でもそれならインフィニートが何を奪っていったのか、調べられるかもしれないわよ。ウフフ、アタシってラッキーじゃない。これも日頃の行いがイイからねん。


「それじゃ早速……」



《高速機動物の接近を感知》

《識別パターン、敵勢体と確認》



 機能停止した兵器の残骸に近付く前に、モニターへ警告表示が走る。

 接近速度は前方で倒れる個体と同等。既存情報との照合結果は、99.89%の確率で同じ規格の相手。

 インフィニートの新手みたい。2機も放置されていったのかしら。


「妙ね」


 胸中に湧く疑問が口を突いた瞬間、対面側の廃ビルが倒壊。崩れ落ちる瓦礫を吹き飛ばし、深紅の大車輪が再びアタシへ襲い来る。

 勿論、アタシにその直撃を受ける意思なんて無いわ。

 直線状に突っ込んでくる走行体の進路から跳び、側方へ退避してよ。

 同じ百足型の機動兵器を躱し、隣接路面に着地するや視線を移動。即座に相手の動向を追い、次の行動準備に移る。

 見てる前で車輪は舗装路を踏み砕き、一定距離を突き進んでからUターン。先刻の速度を維持したままアタシへ再突撃を仕掛けてきた。


 腕の状態は……確認するまでもないわね。

 無理すればまだ撃てるけど、その後の事まで保障出来ないわ。良くて機能不全、悪ければ反動に負けてもげちゃうかも。

 でも今は悩んでる場合じゃないのよね。こんなカラダじゃ、相手の攻撃を何度も回避出来ないでしょうし、あの速度からは逃げ切れないわ。

 だったら此処で撃ち倒す以外に、生存方法はないのよね。

 損傷分は相手側から回収するとしても、完全復旧までは大分掛かりそうじゃない。あ〜ん、アタシって不幸だわ。


「だから蟲ってキライなのよ、んもぉ」


 まじかに迫った蟲球車輪に毒づいて、アタシは2度目の横方退避を敢行。

 路面を蹴って側面方向へ退き、その最中に狙点をロック。照準したのは車輪側の中心。先と同じ機能中枢の頭部目掛けて、愛銃の一撃を見舞う。

 大型銃の咆声が轟き、漆黒の顎穴がっけつから破壊力に特化した専用弾丸が発射された。

 銃撃と同時に生じた激震に腕が大痙攣を起こし、視野に大量のノイズが走る。モニターへ映し出される危険レベルは最大値を示し、全身から力が抜け始めた。

 その先では敵勢の頭部が撃ち抜かれ、回転体は進路変化をしないまま崩落後の瓦礫山に追突。

 左右へブレ動く世界に立ったアタシの内側では、何とか状態維持に努めようと各機能が働き続けている。



《姿勢制御、状態不調》

《各種運動機系、状態不調》

《主幹システム、不調》

《補助電源、出力低下》

《緊急改修システム……起動》

《修復中……エラー……エラー……》

《再起動要請》

《外部素材摂取を要請》



「無茶しすぎね。アタシのキャラじゃないわぁ」


 若干ノイズは治まってきた。体も重いけれど、何とか立ってはいられる。

 とうとう腕は動かなくなっちゃったけど、天使の口付けエンゼルハイロゥを握ったまま固まっちゃったから、まだいいわね。

 でも本当にココまでよ。限界も限界、もう無理だわ。アタシの主幹システムが外に補修パーツを求めてきたら、本格的にお終いだもの。

 自分だけではどうしようもなくなったって証。急いで処置しないと。

 このままじゃ、何時メインシステムが落ちるか判ったもんじゃない。最低限、機能に必要な箇所だけでも繕わなきゃね。

 はぁ〜ん。ランチャー砲の洗礼さえなければ、問題なしで動けてたのに。憂鬱だわ。

 赤巴せきはちゃんなんて粉微塵よ? ……そういえばあの子の破片、銃撃つ時に思わず捨てちゃったわね。化けて出てくるかしら?

 でも赤巴ちゃんの為にアタシは頑張ってるんだから、感謝されこそすれ、文句言われる筋合いは無いわよね。


「さぁさ、邪魔者が入らないうちに出来る事はやっておかなくちゃ」


 センサーも今は死んじゃってる。何かの襲撃がきても、すぐには気付けないわ。だから急ぐのよ。

 でも焦りすぎてミスっちゃダメ。焦燥感は置き去りにして、1つずつ着実に、しっかりめっきり取り組むの。

 取り合えず、さっき倒した百足ちゃんにバラけてもらいましょうか。

 そんなに離れた位置にも無いし、ちょっと歩けばすぐ辿りつける。

 こんなカラダでとーっても歩き辛いけど。


 それにしても予想外よねぇ。

 ロシェティックの残党捜して、比島領区の兵士に襲われたと思ったら、今度はインフィニートの機動兵器よ。

 とっくに負かされたこの街に、どうしてこうも色んな連中が集まってくるのかしら。

 あは〜ん、そういうアタシ達も集まってきちゃった組なんだけどね。


「さ〜て、腕が動かない今、どうやって分解しようかしら」


 大した事でも無い考え事の間に、目的物の真ん前へ到着よ。

 頭を失くした機械の百足、グロテスクな残骸を弄るには……


「気は進まないけど、口でやるしかないわねぇ」


 自分の結論に溜息が出ちゃう。

 腕は動かないし、脚も複雑な反応はもう不可能。残るはまだ健全な口を使った解体法よ。

 でも幾らそれしかないからって、こーんな気持ち悪い巨大百足を口でバラけるなんて。はぁ〜、悪夢以外の何物でもないわ。

 背に腹は変えられないとは言え、億劫よねぇ〜。


「あーあ、せめて左手だけでも残ってればよかったのにぃ」


 思わず愚痴が零れる。

 その瞬間、アタシの眼前で倒れる機動兵器が寸断された。


 何が起こったの?


 考える間に、中央から分断された百足の胴体が、断絶部より火花を散らせる。

 それが最終勧告。

 次には紫電が瞬き、巨体が盛大に爆発したわ。

 目前で起こったそれはアタシの体を易々と吹き飛ばし、幾許か離れた後方の路面に背中から叩き付ける。

 予期せぬ衝撃に全身が打ち震え、モニターに厚いノイズが走り出した。

 でも今の所為で、止まっていた右手は動かせるようになってよ。壊れた機械を叩いて直す、そんなノリかしら。

 アタシの躯体カラダも、意外といい加減なのね。助かったるけど。


「何が、起こったの?」


 今度は口に出して言ってみる。

 大丈夫、発声機官は無事みたい。だけど、それどころじゃないわ。

 体は……動かせるみたいね。

 少し手間取りながらだけど上体を起こし、今し方の爆心地を確認。

 荒れた路面の片隅で、爆炎と黒煙が濛々と噴き上がっている。その中心で、粉々になった機械片が徐々に融解を始めているのが見えた。


 アタシの所為?

 いいえ。少し前まで爆発の予兆なんて無かった。

 それにあの直前、何かが百足の体を叩っ斬ったのを見たわ。アレこそが直接の原因ね。

 じゃぁ、それは?


『ほぉ。比島雑魚共ばかりかと思えば、面白い手合いが居るな』


 突然に、背方から声が聞こえた。

 女性のもの。

 聞き覚えは……あるような、ないような。

 でも誰かが居るのは確実。センサーはまだ復活しない。

 思考は一時中断。なにせ望む答えが其処にあるから。

 振り返りましょう。声の主が誰なのか、この目で直に確認しなきゃ。


 何時の間に現れたのか。アタシのセンサーは、その接近を感知しなかった。

 背方の路面に立っている存在。深紅の甲冑に全身を包む者。右手には身の丈程もある巨大な鎌。こちらも同じ深紅。三日月状の鋭刃が、不気味に輝いて見える。

 まるで死神よ。


 頭部を覆う紅のヘッドギアと、同色のバイザーで顔は判らない。

 唯一覗く口元から、女性であるように思うけど。

 半故障状態といっても、完全な機能不全じゃないわ。幾許かは正常に動いている部分もあるの。だというのに、それらが相手を一切捉えられなかったなんて。

 アタシの全周囲センサーに気取らせないなんて、考え付く事と言えば高度ステルス機能ぐらいよ。

 そしてそんな高等技術を今もまだ保有している連中と言えば、決まりに決まってる。しかもこちらが気付いた途端に発せられた並々ならぬプレッシャー。

 これ程の圧力を放つ相手となれば……


「インフィニートの幹部様が御出ましみたいね」


 先刻より酷くなったノイズの中に、佇んでいる深紅の女性。

 お互いの距離は50m程。

 アタシの声に対して、向かいに立つ相手は薄く笑っている。

 口元だけだけど、余裕が透けて見えるわ。確かに今のアタシなんて、戦力としてはぜーんぜん怖くないでしょうけど。

 だからって、ヤな感じよねぇ。


『そういう貴様は、女神代行守護者ミネルヴァガードの残党に成り下がったか』


 バイザー越しにアタシを見て、彼女はこちらの正体を突いてきた。

 でも妙な言い回しじゃない。

 残党に成り下がった?

 誰の所為で『残党』になっちゃったと思ってるのよ。


「貴女のお友達が、随分とハッスルしてくれもんだから」

『フッ』


 鼻で笑われた。

 笑われたわ。

 ………………


 ムカッときたわよ。ムカッと。

 アタシ歯牙にも掛けないって幹事で、かる〜くあしらわれるのって、だ・い・っ・き・ら・い! なのよ!!

 あの女、アタシがズタボロなのをいい事に軽んじてるわね。調子乗ってるわね。余裕ぶっこいてるわね。

 いい度胸じゃない。その高慢ちきな鼻っ柱、圧し折ってやりたくなってきたわよ。

 ウフフフ、燃えてきたんだから。


「な・に・が、そ〜んなに可笑しいのかしら?」

『詮無い事だったな。所詮、貴様は木偶でくでしかないのだ。対等に見る事自体、間違いか』

「なに? 何の話をしてるの? ……何にせよ、デクとかナンとか、聞き捨てならないわねぇ」


 ヘッドギアとバイザーの所為で表情は不明。

 何を考えてるのか、イマイチ判らないわ。

 アタシを無視して独り言言ってるし、大丈夫なの? 危ないヤツかしら?

 どっちにしても、このままって訳にはいかないわよね。1発、眼に物見せてやら無いと気が済まなくてよ。


『どの道、貴様を回収するつもりなどない』

「なんですって?」

『貴様は、此処で処分する』


 女の手が動く。

 重々しい大鎌が、片手で簡単に持ち上げられた。

 ちょっと信じられないような光景だけど、見慣れないものじゃないわ。女神代行守護者ミネルヴァガードの中にも、見た目が凄い武器を軽々と扱う人は居たもの。

 それらは決まって遺跡の出土品、謎めいた黄金の腕輪が変化したものだった。アレは持ち主にだけ重さが伝わらないっていう不思議で便利な道具。

 あの女の鎌も、きっと同じ品物ね。インフィニートが遺跡の武装を持ってても、何らオカシクないわ。


冥鬼血薔薇衆ブラッディヘルローズが団長、四鳳絢将フォースジェネラルカーラ・カロルタグナ』


 右脚を前に出し、若干腰を落とす。

 右手にした深紅の大鎌を高く構え、長い柄に左手を添えた。

 その姿勢を作りながら、女はうたう。静かな迫力と、切り裂かれそうな威圧感を声に乗せて。


『貴様を冥府に送る者の名だ。処刑人の名も知らぬまま逝きたくはあるまい。尤も……』

「え?」


 消えた?

 アタシの目の前から、死神コスしてるような女が消えちゃった。

 一瞬で、音も無く。センサーにさえ反応はない。

 どうなってるの? 何処に行ったの?


『偽りの命でしかない貴様では、冥界にさえ堕ちられぬだろうがな』

「っ!?」


 横!

 何時の間に?

 全く見えなかった。それどころか気配さえ、大気の振動さえ感じないなんて。


『散れ』


 構えが流れ、静から動へ。

 カーラと名乗ったの両腕がスイングよろしく振り抜かれるや、握られた大鎌が宙空を疾駆。


 なんていう速さなの!

 今のセンサー感度じゃ、とても全てを捉える事は出来ない。役に立たない物を使う訳なくてよ。

 機能に頼らず、直感と感覚のみで躯体カラダを運用。

 膝を折り、腰と共に上体を落とす。瞬間、アタシの頭上を紅の軌跡が掠め取っていく。


『ほぉ、私の初撃を躱したか』


 間一髪。

 後0,1秒遅かったら、アタシの首、或いは頭が綺麗にスッパリ斬られてたわね。

 まだ意思に応じてカラダが動く。お陰で助かった。

 各機関が悲鳴を上げてるけど。


『だが』


 安堵は一瞬。次には衝撃。

 カーラの左脚が折れ曲がり、そのまま押し上げられた。

 要は膝蹴り。

 深紅の具足に包まれた屈折体が、アタシの半壊且つ剥き出しの腹部に減り込む。

 既に痛覚神経はシャットアウトしてあるから痛みはない。でも、躯体カラダのバランスは崩された。両脚は揃って路面を離れ、全身が僅かに浮き上がる。


 マズイ。これではロクな反応が取れないわ。


『結果は変わらん』


 カーラの脚が下り、けれどアタシのカラダは浮いたまま。

 そこに生じた刹那の空白を、斬り返された刃が埋める。

 先に振り切った巨刃の向きを、片手の上でで外から内へ。それさえ引き戻し様の動き。ほんの下準備。

 本命は、そこから繋げる逆袈裟懸け。

 膝蹴りで体勢を崩され、あまつさえ僅かばかりとは言え空中に引き上げられたアタシ。それ目掛けてカーラの大鎌が、左手下方から一気に駆け上がってきた。

 回避行動も取れわしない。

 鋭く素早く重く残忍な刃が、左脇腹からアタシのカラダへ入る。かと思えば、息つく間もなく右胸側へと抜けていった。

 眼にも止まらぬ、センサーにも映らぬ、驚異的な高速剣術。


 たった一撃で、今まで辛うじて機能してきた主要機関の半数以上が停止しちゃったのよ。


『これで』


 刃がアタシのカラダを斜めに切断したかと思いきや、深紅の行動は止まらない。

 分断箇所がズレ落ちる前に、大鎌を支える長柄の最尾端、紅の石突が頭上より降り注ぐ。

 視界が大ブレする強烈な打撃。背面から全身を打つそれが、アタシを路面に叩き付けた。


 抗う事など到底不可能。こちらの反応速度を上回る攻撃では、防ぎようがないわ。

 結果、アタシはインフィニート幹部の足元へ、潰れたカエルみたいな惨めな格好で倒れ伏す事に。


『終わりだ』


 残念だけど、視界モニターはブラックアウト。

 もう何も見えない。

 流石に今度ばかりは、自己修復機能もお手上げみたいね。


 聞き取り辛いけど、カーラの声は流れ込んでくる。

 アタシの後ろ、っていうか上の方で何かが動く感じする。

 それからぐ、更に激しい衝撃が背中を貫いた。

 アタシの中枢脊髄機系を寸断し、骨格パーツを斬り裂いて、身体機能を維持する内蔵機関まで打ち破り、路面へ達して動きを止める。


 どうやら、あの大鎌で背中から一突きにされちゃったみたい。

 ……あまりに圧倒的な状況支配をされて、正直、軽く流せてしまうわ。致命的に重大な事でも、簡単にね。

 鮮やかなすぎる手並み、そして異常な速度。それらが織り成す反撃不能の連続動作。先刻までたぎっていた感情も、これを前に吹き消されて。

 まるで幽霊のような実体ない残滓ざんしだけが、胸の内へ微かにこびり付くばかり。


 だから逆に、冷静な判断が出来るの。

 アタシは負けた。何も出来ないまま完全敗北。逆に気持ちいいぐらいの完敗。

 もしも完調だったなら、また違った結果になっていたんでしょうけど。でも今はこれが現実。アタシの有様が答え。

 カラダの機能は死に絶えて、最早動く事さえ叶わない。

 無念は勿論。心残りは山のよう。でもどんなに願っても、どんなに嘆いても、止まった物はそのままよ

 これがアタシの限界、かしら、ね。


『造作もないな』


 何処か遠く聞こえる声。

 その後で、刃が引き抜かれる感じが走った。

 僅かに躯体カラダが浮き、けれど簡単に落ちてしまう。

 それで終わり。

 もう動きそうには無い、わね。


『私と同じ規格で造られているのだから、もう少し抵抗して欲しいものだがな』


 閉じた視界の先、闇の奥間から響く声。

 微細な嘲りと、失望とが入り混じる音色。


 勝手な事を言ってくれるわ。


 声に出して叩き付けてやりたいけれど、声帯機能は停止している。文句の1つも言えやしない。

 そもそも相手の言い様はさっきから変なのよね。まるでアタシの事を知っているような口振りだわ。

 インフィニートの情報収集力がどの程度かは判らないけど、アタシ個人の詳しい情報なんて判りようがないと思うけど。なにせ同じ女神代行守護者ミネルヴァガードでも、アタシの躯体カラダの事を知ってる者は1人も居ないんだから。

 その秘密を、あの女が事前に認知していたとは思えなくてよ。そもそも四鳳絢将フォースジェネラルに知り合いなんて居ないしね。

 それなのに……


『貴様の躯体に用はない。ここまで欠損した以上、廃棄が妥当だ』


 聞き取り辛いけど、カーラの声は上の方から聞こえてくる。

 どうやらアタシを見下ろしてる形みたいだわ。

 足元に平伏されて身動きが全くとれないっていうのは、精神的にキツイものがあるわねぇ。アタシ、人に頭下げるのって好きじゃないのよ。寧ろキライ。

 だからこの状況は、仕方の無い事とはいえ屈辱だわ。


『しかし、貴様のメモリには興味がある』


 なんですって? メモリ?

 アタシの記憶に、いったい何の用かしら。女神代行守護者ミネルヴァガードの事を吐かせようっていうの?

 残念だけど、提供してあげられる程の情報なんて有りはしないのよ。生き残りは全体の一握りにも満たっていないし。

 何処に身を潜めているかなんて、少し考えれば簡単に判るでしょ。今現在まともに機能してる領区なんて2つしかないんだから。


『フッ、どうせ消え行く運命なのだ。その全容、覗かせて貰うぞ』


 まさか、アタシの記憶層アーカイヴにハッキングするつもり?

 冗談じゃないわ!

 カラダは動かなくとも、まだ意識は残ってるのよ。それなのに頭脳部へ侵入されてごらんなさい。

 既にある意識に別の意識が介入する、そんな事態に陥れば電脳子が過負荷にやられてオーバーヒートしかねない。最悪の場合、自我が崩壊する可能性だってあるんだから。

 アタシだけじゃなく、相手側にだって弊害は出るわよ。それが判ってるの?


 ……傍近くで、何かの動く気配がある。

 あの女、自分のUPCSとアタシを接続するつもりね。

 あぁ、もぉ! 身を捩る事さえ出来ないなんて。もどかしいったらありゃしない!

 このまま、相手の暴挙を許さねばならないなんて。

 いったいぜんたい、アタシのメモリの何が興味あるってのよ?


 っ!?


 言ってる傍から接続された。

 うなじのコネクタにケーブルを繋げやがったみたい。

 なんて事!

 無抵抗なのをイイ事に、アタシの中へ侵入はいってくるつもりだわ。


『いいや。既に侵入はいり込んでいるぞ』


 カーラ! アタシの意識へ直接語り掛けてくるなんて。

 まさか、そんな。直脳連結潜行ダイレクトアプローチ……アンタ、正気じゃないわね。


『何を言う。UPCSなどと回りくどい手段が使えるか。自前の電脳で事足りる』


 擬似躯体サイバーウェア、それも頭脳の換装型?

 アタシの他にも、そんなリスキーな真似する奴が居たなんてね。流石はインフィニート、イっちゃってる連中の溜まり場ね。


『笑止』


 何? 何が可笑しいの?


擬似躯体サイバーウェア? 換装型だと? これが笑わずにいられるか。貴様は何様のつもりだ』


 タレス・ルーネンメビュラ様よ。


『フッ、どうやら本当に判らんようだな。なんとも愚昧よ』


 何が言いたいの? 意見があるならハッキリ言いなさいな。


『我々は元より電脳こちら側の存在。0と1の集合から生まれたモノ。情報の海に身を投じるのに、何の問題がある』


 アンタまさか、AIなの?


『何を今更。当然の事』


 何が当然なのよ。アンタみたいに自己意識を要したヒューマノイドモデルが、まだ残ってたなんて驚きだわ。

 よくもまぁ1500年も無事でいたものね。インフィニートの物持ち良さは賞賛級よ。


『まったく貴様は愚鈍に過ぎる。呆れて物も言えんな』


 どういう意味かしら。


『私の存在に驚くなどと。その反応にこそ驚きだよ』


 だから何を……


『自分の事を棚に上げて、よく言うものだ。私の前に鏡を見てみてるんだな』


 それはいったい……いえ、さっきからの言い方からして、アンタが暗に示してるのは……

 アタシも、だというの?


『気付いていなかったのか。己の存在に。……自分は今まで人間だと思っていたようだな』


 ええ、そうよ。

 今だってそう。アタシは自分がAIだなんて思ってないわ。現にアタシには、この躯体カラダになるまでの記憶もある。


『それが意図的に作られた偽の記憶だとは思わなんだか。……いや、そうだろうな。私が同じ立場でも、気付く事は出来まい』


 アタシの記憶が紛い物だって言うの?

 誰かに作られた偽物だと?


『そうとも。高次AIの記憶プログラムを書き換えられる程の技術者、そんな者がCEO以外に居るとは思えん。故に興味があるのだ』


 フフフ、ウフフフ、笑えない冗談ね。

 それで混乱を誘うつもりかしら? なんとも古臭い手段だこと。

 そもそも誰が何の為に、そんな事をする必要があって?


『それを今から、確かめさせて貰う』

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