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話の43:女神の伝説(+II)

 かつて月の遺跡が今の様な姿でなく、まだ地下に眠っていた時代。

 それは地球に生命が満ち、現在を凌駕りょうがする高度な文明を人類がまだ保持していた頃。

 人々は荒涼こうりょうとした月面上に、科学の力で巨大都市ルナ・パレスを築き生活していました。

 当時の世界は人同士のいさかいが絶え無かったものの、比較的平和な時間が流れていたそうです。現在と比べれば、遥かに安定した平安の世だったようですね。

 人類の持つ科学力は絶頂にあり、およそ不可能事の無い恵まれた時代だったと伝えられています。


 しかしある時、ルナ・パレスに異変が起こりました。

 地下に埋没まいぼつしていた月の遺跡から、突如として異形の怪物アクトレアが溢れ出し、都市の随所で暴れ始めたのです。

 大量に出現したアクトレアは暴走を続け、都市の破壊と人々の殺害を繰り返しました。数限りない異形の猛襲は多くの悲劇を生み、ルナ・パレスは混乱の度合いを増していきます。

 そんな中、この怪物達を打ち倒すべく抵抗を続けていたのが、当時都市を護っていた軍隊でした。

 けれど軍は、上層部に当たる政府機関の内部分裂によって指揮系統が分断されており、足並みの揃わぬ状態。満足な連携も取れず、士気が低下する一方では、したる戦果を上げられる筈もありません。

 状況は刻々と悪化していき、いたずらに被害が増すばかり。住民と共に都市の命運が尽きるのも、時間の問題かと思われました。


 凄惨せいさんな死が、誰の身にも降り掛かろうとしていた。その時に、彼女が現れたそうです。

 のちに女神と呼ばれる女性。残念ながら名前は残されていません。ですが、仲間の事を何よりも大切にする人物だったと、伝え聞いています。

 最初、彼女は4人の戦士と共にアクトレアと戦っていました。彼女等の活躍は目覚しく、並み居る異形を次々と撃滅し、危機にひんした人々を救っていったのです。

 彼女達の活動は次第に人々の支持を集め、各自で抵抗していた戦士達や統率を失った軍隊が、自然と集まってきました。

 4人だけだった彼女の仲間は何時しか巨大な戦団となり、統一された意志の下、アクトレアを都市から駆逐くちくしていきました。


 彼女と仲間達はその後も精力的に働き続け、遂に対立・分裂していた政府機関……その実質的支配者である6大企業を、団結させる事に成功したのです。

 この企業こそ、現在のルナ・パレス6属区レプリカを創設した始まりの者達。ガレナック社、オーベールコーポレーション、ロシェティックインダストリー、比島重工、クリシナーデ・エンタープライズ、そしてインフィニートです。


 都市が一丸となった頃、彼女は達成した偉業の功績によって民衆から女神と呼びたたえられ、ルナ・パレスの象徴に等しくなっていました。

 そして常に彼女と共に戦い続け、最も大きな活躍をした4人の戦士は、女神の騎士ミネルヴァナイツと呼ばれる様に。


 騎士の1人は『翼』に例えられました。

 2つの銃器を巧みに操り、女神の歩を鈍らせぬよう邪魔する者は撃ち崩してきたゆえ


 騎士の1人は『剣』に例えられました。

 消出しょうしゅつ自在の大剣を振るい、如何いかに手強き女神の敵も斬り払ってきた故。


 騎士の1人は『槍』に例えられました。

 恐るべき火力の兵器を使い、女神に群がる怪物を貫き果たしてきた故。


 騎士の1人は『盾』に例えられました。

 荒ぶる灼熱を周囲に散らし、女神へ近付く全ての邪悪を焼き尽くしてきた故。


 女神の騎士ミネルヴァナイツに護られた女神は、この異変を治めるべく、全ての始まりにして元凶たる月の遺跡へ、6大企業と数多あまたの軍勢を率い乗り込んでいったのです。

 戦いを終わらせる為に。

 ですが、予期せぬ事態が起こってしまいます。


 襲い来るアクトレア勢をほふり、女神達が遺跡内奥へ辿り着いた時。

 それまで協力していたインフィニートが突然、他企業や追従軍に攻撃を仕掛けました。味方だと思っていた者達からの不意打ちを受け、軍勢は大打撃をこうむ瓦解がかい。行動を共にしていた戦士や兵士の大部分が、無碍むげに命を散らしてしまいます。

 仲間達をことごとく襲い、叩き潰した後、インフィニートの手勢は遺跡に備わる何かしらの機能を働かせようとしました。

 これに対し女神と女神の騎士ミネルヴァナイツは、インフィニートの野望を阻止すべく戦いを挑み、かなりの激戦を繰り広げたそうです。

 けれど最終的にはインフィニートを止めきれず、彼等の行動を許してしまいます。

 インフィニートが何かをし、それによって月の遺跡は動き始めました。


 危険を感じた5大企業の残存部隊と女神の騎士ミネルヴァナイツは、遺跡からの脱出を決めます。

 しかし女神は遺跡を再び眠りへかせる為、その場に留まると告げたそうです。今遺跡を停めないと取り返しのつかない事になると話し、全員に、この場を離れ1人でも多くの民を救うよう命じたと。

 たった1人、最後まで女神の傍に残る事を決めた騎士を除き、女神の言葉に従って遺跡を脱出した一同は、人々をまとめてルナ・パレスを後にしました。そのまま新たな生活区を確保すべく、各々の領区を作っていったのです。

 各企業が短時間の内に領区を築けたのも、優れた技術力があったからこそでしょう。


 その後、月の遺跡は地上へと隆起りゅうきし、皆が懸命に護ってきたルナ・パレスをいとも容易く破壊してしまいました。

 そして月の環境は変化を始め、多大な影響を受けた地球が滅びてしまう。大異変の始まりです。


 異変が収束した後も、女神は帰ってきませんでした。

 遺跡へおもむいたインフィニートの幹部も、私兵も、当時のCEOも同様に。

 ルナ・パレスより逃げ出していたインフィニートの本部団は、新たな支配者を立て、要塞を築き、他領区との交流をこの時より断ってしまいます。

 以来、彼等が何をしようとしているのかは判らないままです。


 月の遺跡から脱出した後、女神の騎士ミネルヴァナイツはクリシナーデ領区に身を寄せていました。

 これは6大企業の中でクリシナーデ・エンタープライズが、女神に最も理解を示し協力的だった為と言われています。クリシナーデは女神達の活動を全面的にバックアップしており、両者の間には確固とした信頼関係があったそうです。

 尤も、クリシナーデが女神と懇意こんいにしていたのは、彼女等の志に共感した部分がある以上に、民衆の支持を得る女神の協力者となる事で大勢を味方に付け、世相の波に乗ろうという打算もあったのですが。

 何にせよ、女神とクリシナーデ・エンタープライズの関係が、他企業のそれより厚かったのは事実のようです。

 女神寄りの人々と同社の交流は女神が消えた後も続き、クリシナーデ領区には女神と縁のある者が多く住まう事となります。


 大異変によって月の様相は一変し、それまでと比べ、人が暮らすのに適した環境となりました。けれどアクトレアが月面上を徘徊はいかいし始めた事で、直接的な危険度は飛躍的に上がり、決して住み良い世界とは言えません。

 そんな中、『力ない者に変わって脅威と戦い、人々の幸福を護り抜く』という女神の意志を継ぎ、女神の騎士ミネルヴァナイツを中心とした戦士達が新たな部隊を発足させました。

 人々の象徴だった女神に代わり、皆が安心して暮らせるよう猛悪と戦う事を誓った者達。民衆の安寧あんねい乱す存在を悪と断じ、彼等の救済に正義を置いた戦士団。

 それが女神代行守護者ミネルヴァガードです。


 女神代行守護者ミネルヴァガードが本格的な活動を始めると、アクトレアによる被害は目に見えて激減しました。

 彼等の活躍は人々の認める所となり、より一層の戦果を期待されるようになります。

 けれどある時、巨大なアクトレアに率いられた異形の群が、クリシナーデ領区へ押し迫るという事態が起きました。

 予想を上回る敵群の総数と、それを統率する司令塔の強さに、創設当初の女神代行守護者ミネルヴァガードは苦戦を強いられます。

 戦いは次第にアクトレア優勢へと傾き、傷付き力尽きた戦士も時と共に増えていったと。

 それまで常勝無敗だった女神代行守護者ミネルヴァガードに、この時ばかりは敗北、それも全滅という最悪の形で終幕が訪れようとしていたのです。


 しかし、何処からともなくって来た旅人の参入によって、戦況は一転します。

 旅人とはたった1人の女性でしたが、彼女は強大な魔法を操り、アクトレアを次々と討ち倒していきました。それは獅子奮迅の大活躍であり、敵勢に反するいとまさえ与えなかった程だと。

 遂には異形群を率いていた巨大アクトレアも撃退し、女神代行守護者ミネルヴァガードと領区の危機を救ったのです。


 生き残った女神代行守護者ミネルヴァガードの構成員は、その女性に英雄的存在である女神の姿を重ね見て、彼女を勇者と呼びました。

 戦士達は領区へと彼女を迎え入れ、当時の宗主―――わたくしの先祖ですが―――と共に礼遇したと伝えられています。


 自分の為にもよおされた酒宴の席で、彼女は宗主へ、とある言葉と共に2つの品物を渡しました。


『女神は己の全存在を懸けて遺跡の暴走を止め、そこに厳重な封印を施した。これは女神の封印を解く為の鍵、その一欠片である。の装置が2度と動かないよう、この鍵を保管して欲しい』


 そう告げて彼女は宗主に、遺跡と因縁のある道具を託しました。

 それからもう1つの品について


『我が武装も預かり置いてほしい。今より千と五百の年の後、再び受け取りに来る』


 と、述べたそうです。

 その後はどんな質問にも一切答えず、自分が何者なのかも明かさず、彼女は早々に席を立ったといいます。

 引き止める皆の声に耳を貸す事無く、街を去ってしまいました。


 2つの道具を預からされた宗主は、領区を救って貰った恩から彼女の申し出を受け入れ、それぞれを大切に保管する事と決めます。

 彼女が再び帰ってくる、その日まで。

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