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話の4:すわ!仲間集め(3)

 何時までもこのままという訳にはいかない。そろそろ結論を出さないと。

 この男の申し出を受けるか否か。決め手になるのは、やはり実力の程。

 今の時代、個人の外見と強さは必ずしもイコールでは結ばれず、一見で相手の実力を見抜くのは至難の技と言える。

 サイバーウェアや遺伝子操作による内外の要因によって、見た目からは想像出来ない能力を持っている場合も珍しくないからだ。

 相手の実力を測るには直接手合わせをし、自身の身を以って力量を読む方法が確実であり望ましい。

 だからといって気になる相手へ逐一勝負を挑むのは、手間が掛かるし面倒だしで非効率的だ。そもそも狙った相手が必ず応じてくれるとは限らない。

 有無を言わさず襲い掛かるなんていうのは論外。

 仮に上手く事が運び相手の実力を理解出来たとしても、その後の応対処理でまた骨になる。

 こちらの返答に誰もが笑顔で納得してくれる保障はないし、それが原因で余計な争い事に発展する可能性は寧ろ高いぐらいだ。

 アウェーカーは実力が物を言う職種。殆どの連中は自分の腕に何かしら誇りのような物を持っている。それへ対する論評は本人に満足いくものでなかった場合、かなりの確率で反意を招くし、騒動の種に為り易い。

 迂闊に触れえべからず話題である。つまるところ、有用な手段とは言い難い訳だ。

 アウェーカー相手に立ち回るならば、常に一定のリスクが付き纏う。それを覚悟していないと、予期せぬ痛手を被る事になる。

 アウェーカー同士の付き合いは、御近所さんと付き合うよりも面倒だ。

 そういえば。

 こいつはどうして僕と一緒に行こうとするんだろう。何を思って随行要請をしてくるのか。

 まさか、女と間違えて引っ込みがつかなくなった、なんて事もないだろうけど。

 参考までに聞いてみるとしよう。


「ねえ」

「ん? 答えが決まったか?」

「いや、その前に聞きたいんだけど。これだけアウェーカーが居る中で、どうして僕を誘うんだ」


 男の細目を見詰め返し、真面目な顔で問い掛ける。

 すると相手は今まで浮かべていた笑みを潜め、神妙な面持ちになって顔を上げた。


「何故か、か。……そうだな、色々と理由はあるが」


 此処ではない何処か遠くを見る様にして、男は勿体ぶった調子で言葉を紡ぐ。


「やっぱり1番大きいのは、直感だな」


 途中で不必要に充分な間を空けた後、男は妙に爽やかな笑顔で答えた。

 僕はその予想外な答えに一瞬ばかり当惑し、つい鸚鵡返してしまう。


「直感?」

「そう、直感だ。言うなれば第6感。そいつにピーンときたのさ。『アイツと組むべし』ってな」


 僕の方へ視線を戻した男が、笑みを湛えて頷いた。

 本人が至極満足気なのは、それが最高の答えだとでも思っているからだろうか。

 こちらへ向ける健やかさが逆に不審である。しかし相手が最初からオカシかった事を考えれば、特に気にする程でもなさそうだ。


「直感ねぇ」


 僕は呟いた拍子についつい本心が表へ出て、胡散臭そうに男を見てしまう。

 まぁ、半分は意図的にではあるけれど。

 だが先方に動じる様子はなく、爽快感すら漂う笑顔を僕へ注いだままだ。

 取り合えず男の事は意識から外し、今回得た情報を元に考えてみる。

 結果からして、あまり参考にはならなかった。……とは言い切れない。

 直感だかで僕を見出したという男の発言、これはある意味で正解なんじゃないかと思う。

 ともすれば電波系と解釈されないかねない内容だが、古来より虫の報せというような例もある。人の持つ直感力というのは、なかなかどうして莫迦に出来ないものだ。

 所詮は勘。根拠のない突発的な思いつき。

 けれど其処に含まれる何がしかの可能性は、無視出来からざる物ではあるまいか。

 流石にそれは飛躍しすぎかもしれない。そこまで重要なセンテンスとして捉えるのは、やはり躊躇いがある。

 しかし一考の余地はあるだろう。特に今回のような閉塞した状況下に於いては、思いもよらぬ突破口に成り得るのではないだろうか。

 難しい事は省いて要するに、八方塞なら勘に頼るのも面白い。という事だ。

 彼の発言を馬鹿げた事と一蹴するのは容易いが、ここは僕自身が乗ってみるのも一興。

 そう思える不思議もまた、僕の背を押す切っ掛けになっているのかもしれない。

 兎に角、これで答えは固まった。


「いいよ。一緒に行こう」

「おお、そうか!だよな、行くよな? はっはっはっはっ!」


 僕が同行する旨を伝えると、男は笑顔を更に弾ませて笑い始めた。

 その様子から何となく、断られたらどうしようかという不安が燻っていたように見える。

 期待した通りの答えに安心したような、そんな顔だ。


「おーし、そうとなれば改めて自己紹介だ。俺は風皇ふおうらう。劉でいいぜ。よろしくな」

「僕は赤巴せきは霧江きりえ赤巴せきは。よろしく」


 細目が特徴的な顔、その頬を緩ませて、劉は右手を差し出してきた。

 僕も相手と同じように自分の名を名乗り、右手を以って握り返す。

 この選択がイイ目を出すか、否か。

 今は一つ、賭けてみよう。


「それで、これからだが」


 握手を解くと、らうは自らの頭を掻いた。

 首筋まで伸びた緑髪が、五指の合間より部分的に覗く。


「月の遺跡へ挑むには、まだまだ準備不足だ」

「だろうね」


 細目の笑い顔へ幾分真剣味を交えた彼の言葉に、僕は頷いて答えた。

 二人組になったからといって攻略できるほど、ルナ・パレスの地下に眠る遺跡は優しくない。

 それは今此処に居る全員が正しく理解している事だ。


「俺が信頼に足るとある筋から得た情報だとな、遺跡は地下へ進むごとに広く、大きく、複雑になっていくらしい」


 どうやら情報屋から事前に、ある程度のデータを買っていたようだ。

 仕入れた情報を述べながら、劉は頭から離した手を今度は胸の前で組み、思案顔を見せる。

 僕はといえば傍近くの壁に背中を預け、相棒へ視線を向けた。両手はジーンズのポケットに突っ込む。


「つまりピラミッド型なのか。面倒な構造だな」


 劉の話が本当ならば、僕等は街から離れば離れるだけ余力を失っていくのに、遺跡自体は反対に本領を発揮していく事になる。

 快さは微塵も感じられない、イヤラシイ造りだ。

 アクトレアの存在といい、本当に侵入者を望んでいないのだろう。それはつまり、そうまでして護りたい何かがあるという事か。


「しかも、下へ行く程にアクトレアの数と強さは増していくんだと」

「僕等にとっては、どこまでも分の悪い勝負になる訳だ」


 眉根を寄せて作られた劉のしかめっ面へ、僕は思わず舌打ちを漏らす。

 知っていて損はない、寧ろ知らないと痛い目を見ただろう有用な情報だ。しかし有り難くはない話。

 別に楽観視していた訳じゃないけれど、思った以上に難易度は高いらしい。挑戦を前に、少々気が滅入ってくる。

 それは劉も同じなのか、愛嬌が売りのような彼の顔色も、今は思いの外芳しくない。


「半端な準備と覚悟じゃ、生きて帰るどころか、下層へ踏み込む事さえ難しいだろう」


 組んでいた腕を放して、劉はまた頭を掻き始めた。

 僕はそんな彼の顔から視線を逸らし、斜め下の床へ注いで考える。

 遺跡の階層が増す毎に広大となるなら、その範囲をカバーする為にアクトレアが増えるのは道理。しかし強さまで上がるというのは厄介この上ない。

 こうなったら極力戦闘は避け、必要物を捜索した後で全速撤退する他に方法は無さそうだ。

 しかしギルドが引き取ってくれるような品物を探している間に、敵と遭遇しないとは限らない。いや、確実に出会うだろう。

 果たして逃げ切れるのか。1度や2度かわせても、行く先々で逃げ回っていれば直に囲まれてしまうのではないか。

 もしそんな事になれば、そっちの方こそ危険だ。これはどうにも宜しくない。

 だからといって立ち塞がる敵全てを倒していくなど、こちらの身が保たなくなる。

 1年前から多くのアウェーカーがアクトレアと戦い、かなりの数を討ち倒しているようだが、一向に減った様子はないという。

 連中は遺跡の何処かで生み出されているのかもしれない。だとしたら他の挑戦者が番兵を全滅させるまで待っていても無意味。何時まで経っても減りはしないだろう。

 誰かがアクトレア精製装置を破壊してくれればいいけれど、そもそもそんな物があるかも定かでない以上、やはり他者に期待は出来ない。

 ましてや、そんな何時になるかも判らないような事を、悠長に待っている暇もつもりも僕にはない。


「やれやれ、本当に困ったもんだぜ」


 面貌いっぱいに広がっていた不安を隠すように、劉は些か強引に笑顔を浮かべる。

 顔を上げてそれを見ながら、しかし僕は笑わず(思えば此処に来てまだ一度も笑ってないな)眼鏡越しに彼を見た。


「どう考えても僕等は圧倒的に不利だね。これは頼れる仲間を集める他なさそうだ」

「ま、そーだろうな。しかし汗臭いオッサン連中と行動するのはゴメンだがね」


 冗談なのか本気なのか、この期に及んで劉は好き嫌いを訴えてくる。

 僕は相手が確かな実力者なら、例え変質的な性格破綻者やオカマでも気にしないけど。


「背に腹は代えられないって言うだろ」

「男にはどうあっても譲れないモンがあるんだぞ」


 呆れ気味に嗜めると、大真面目で反論してきた。どうやら本気らしい。やれやれだ。

 困難を前に己が信念を譲らぬ頑固さ、意思の強さは認めないでもないけど、到底賞賛は出来ないな。


「いいか。暑苦しいマッチョな男共に囲まれて冒険するのと、可愛くて華のある女の子達とする冒険。どっちが楽しいと思う?」


 劉めは笑みを消した真剣な面持ちで、ずずいと迫ってきた。

 何とも言えない奇妙な威圧感が、今の彼からは発散されているようだ。

 僕は思わず一歩退き、直ぐ後ろが壁である事に気付く。


「当然、女の子だらけのハッピーゾーンだろ」


 有無を言わさぬ迫力が、劉の全身に漲っていた。


「う、うん」


 一回り大きくなったようにさえ感じる彼の影に覆い被され、逃げ場ない僕はつい頷いてしまう。

 そんな僕の返答を聞くや、細目男はニンマリと笑って詰めていた距離を戻し行く。

 奴さんが離れるのへ、僕は心の何処かで安堵感を覚えていた。

 ううむ、相棒の評価を多少改めねばなるまい。あれ程の覇気を秘めているとは。

 直向きな煩悩の恐ろしさを垣間見た気がする。


「では早速、我等の眼鏡に適う女性を探そうじゃないか」

「……行動方針の決め方が強引だ」


 一人張り切る相棒を前にして、僕は不服の呟きを口にする。

 独り言だ。独り言だが、しっかり相手へ聞こえるように、普通の話し声と変わらぬ大きさで言ってやった。

 勢いに押されて彼の安直な願望理念を承諾してしまった僕だが、断じて賛成している訳ではない。

 反意は胸中で燻り、それが直接形となって目に表れているのが判る。

 真っ直ぐ睨んでいる僕の視線に気付いたらうは、笑い顔へ薄い困惑を混ぜて頭を掻いた。

 多少は悪いと思っているのだろうか。


「そんな怖い顔しなさんな。折角の可愛い顔が台無しだぜ?」


 謝罪の言葉でも出てくるか。そんな予想に反し、彼は悪びれもせず僕の肩へ腕を回してきた。

 一瞬曇らせた顔は気安い笑みへと変わり、僕の耳元に口を近付け、馴れ馴れしく囁いてくる。

 遠慮を知らない奴め。というか、顔が近い。


「生憎と、顔の事をどうこう言われるのは好きじゃないんでね。それから、耳に息を掛けるな」


 劉の言葉を右から左に聞き流し、僕は肩へ置かれた彼の手を抓った。


「あだだだだ!」


 親指と人差し指で甲の皮を挟んで捻ると、面上へ痛覚を露とした彼の口から、連続的な悲鳴が上がった。

 糸のような目はそのままに表情筋を引き攣らせ、金魚の如くパクパクと口を開閉させる。

 耳に届く苦悶の声を充分に聞いた後、僕が指を放すと劉はすぐさま手を引っ込めた。

 流石に堪えたらしい。

 目尻へ小さな涙粒を光らせて、赤く腫れた皮膚へ息を吹き付けている。


「ふー、ふー。痛ぇぜチクショー」

「人の嫌がる事はするもんじゃないって、習わなかった?」

「ああ、今教わったよ。イテテ」


 僕が抓った手をプラプラと振りながら、空いているもう一方で頭を掻いた。

 物言いたげにこちらを見ている劉へ、僕はそれ以上何も言わずに冷めた視線を送り返す。

 その状態で暫くいると、劉は不意に大きく息を吐いた。


「わーったよ。俺が悪かったって」


 頭を掻いたまま苦笑を浮かべ、肩を竦める。

 その様子を見て、僕は目を閉じた。

 丁度その時。


「ちょっといいかしら」


 声がした。

 初めて聞く女の声だ。

 それに反応して僕は目を開ける。そして声の方へ顔を向けた。劉も同じように首を動かす。

 何時の間に近付いてきたのだろうか、声の主は僕等の横側に立っていた。

 ピンク色の髪をショートカットにした少女。年の頃は10代後半だと思う。16、7歳だろうか。

 着ているのは淡いピンク地のセーラー服。それが彼女の年齢を想像させるのへ一役買っている。

 見栄えは良い。美人というよりも可愛いという方がしっくりくる、そんな顔だ。

 少し吊り上った目の中に輝く情熱と希望、そして野心めいた光が印象深い。


「なんだい、お嬢さん。俺達に用事かな?」


 劉は僕に初めて話し掛けた時同様のニコニコとした笑顔で、嬉しそうに少女へと問い掛ける。

 何というか、判り易い男だ。


「ええ。貴方達、月の遺跡へ行くつもりなんでしょ?」


 彼女は劉の言葉へ微笑で応じ、逆に僕等へと問い返してきた。


「そうだけど。君は?」

「ああ、ごめん。私の名前はウエイン・ダートルーナ。貴方達と同じにアウェーカーよ」


 僕が尋ねると、少女は膝上まであるスカートの裾を両手で抓み、上品に一礼してみせた。

 無理のない完成された立ち振る舞いは、どことなく育ちの良さを感じさせる。

 ただ着ている服が服だけに、本人が言うようなアウェーカーには正直見えない。

 確かにアウェーカーは多種多様な服装をしているけれど、それでもセーラー服で此処ギルドに居るのは違和感がある。

 まぁ、ラウルは心底嬉しそうに彼女の姿を眺めているけど。


「こりゃ御丁寧にどうも。俺は風皇ふおう劉。で、こっちが……」

霧江きりえ赤巴せきは

「知ってるわ。さっきから貴方達の話を聞いてたもの」


 人好きのする笑顔を浮かべ、少女は僕達の顔を交互に見た。

 何時ぐらいから目を付けられていたのか。

 僕は少し驚いる。全く気付かなかったからだ。

 劉も同じなのだろう。僕が感じたのと同様の驚きが表情から知れた。

 しかしそれは直ぐにニヤけた笑みへ変わる。どうやら彼女に興味を持たれていたのが嬉しいらしい。

 単純というか、つくづく幸せな奴だな。


「ずっと観察していたとは、嬉しい告白だね」


 言葉通りの喜色を以って、らうは少女へ接する。

 けれど僕は彼ほどフレンドリーに応対出来そうにない。

 性分というのもあるが、半分は警戒の為だ。


「率直に言うわ。遺跡へ下りるなら私も連れて行って」


 余分な言葉の一切ない、真正面からの直球。

 彼女は僕等の顔を順繰りに見つつ、真剣な表情ではっきりと述べた。

 顔と声には強固な信念、覚悟とも呼べる意思の強さを感じる。


「お嬢さんのような可愛らしい人と御一緒出来るなら、願ってもない」


 即行だった。

 ウエインという少女の申し出を聞いた直後、僕が何か言うより早く、劉は勝手に承諾してしまったのだ。

 流れ的に彼女が何を求めているかは予想出来たが、それにしてもあまりのスムーズさに一瞬言葉を失う。

 僕に意見を求める間もなく、この相棒は独断で重要行を決定した。それが僕には腹立たしい。

 いや、呆れの方が大きいか。兎に角、このまま放っておけない。


「おい、劉」

「ん? どうした」


 僕が呼ぶと、彼は少女へ対する笑みのまま顔を向けてきた。

 その締まりなく緩んだ面を、僕は複数の(主に非友好的な)感情を込めて睨み付ける。


「どうした、じゃない。何を勝手に決めてるんだ。僕には一言もなしか」

「だってよ、彼女の方から仲間にしてくれって言ってきたんだぜ?俺達は今正にチームメイトを探していた。グッドタイミングじゃないか」

「そうだとしても、一緒に行動する僕へ意見を求めようとは思わなかったのか」


 自分には何一つ非がないと、そう思っている顔で劉は返してきた。

 僕が文句を言っている理由が判らない、そんな様子だ。

 その態度が余計に僕を苛立たせる。


「ん〜、そうだなぁ。まぁ、勝手に決めたのは悪かった。うん」


 腕を組み、わざとらしく考える素振りを見せてから、彼は首を縦に振った。

 謝罪してはいるが、中身がまるでない。空っぽの言葉。

 僕は昔から、真意のない上辺だけの対応を取られるのが好きじゃない。

 会ったばかりで信用も信頼もないのは判る。それでも共通の目的に協力して挑もうという関係である以上、その輪の中に新たな誰かを迎え入れる旨は問うて貰わねば。

 今直ぐ熟練の連携は取れなくとも、最低限その程度の事をしないでどうするのかと。


「あのな」

「おいおい、待て待て。そいつはもういいだろ。それとも彼女の参入に不服なのか?」

「そうじゃない。彼女を入れる入れないは別にしてだ」

「なら、もう細かい事は気にするなよ」

「細かい事だって、本当にそう思ってるのか?」

「だったらどうだって」

「対人関係っていうのは、些細な綻びが全体の破壊へ繋がる物だ。例えその場限りの共闘関係だったとしても、軽視出来ないと思うけどね」

「つまり何が言いたい。回りくどい真似をしないでハッキリ言ったらどうだ」

「女好きも結構だけど、もっと別に意識すべき事があるって事さ。それとも、そんな事を考えられなくなるほど君の頭は色で一杯なのか?」

「そういう人を馬鹿にした言い方は、された側を不快にさせるって知らない訳じゃないだろ」

「ハッキリ言えって、そっちが言ったんだ。だから包み隠さず思ってる事を言ったまでさ。何か問題でも?」


 何時しか僕等は、互いに厳しい表情で睨み合っていた。

 不穏な空気が周囲へ漂い始めたのを感じてはいるが、胸の奥で燃え上がる黒い炎を鎮める事は出来そうにない。

 何時爆発するとも知れない危険な塊を内に宿したまま、双方の瞳に相手の姿を映す。

 心底憎たらしく見えるのは、精神的なフィルター影響の所為だろうか。


「ちょっと二人とも。こんな所でイガミ合いは止めて」


 対峙して強視線を射込み合う僕達を見かねたのか、あの少女が不安と不満の声を投げてきた。

 しかし僕も劉も彼女には一瞥もくれず、お互いを見据えたまま。

 声は聞こえている。けれどそちらへ意識を割くつもりはない。正確には、向ける余裕がない。

 変な話、それだけ真剣に僕達は睨み合っていた。1秒毎に増す憎悪と憤怒に胸を焦がして。


「はぁ……。話し合いが無理、っていうかする気ないなら、思いっきり殴り合ったら?」


 溜息一つを吐いた後、彼女は呆れた調子で提案してきた。

 その言葉に僕と劉は、殆ど同時に頷く。

 この気持ちは放っておいて消えるものじゃない。どうにかして燃焼、排出する以外に解消出来そうにはなかった。

 多少野蛮且つ前時代的な解決法ではあるけれど、極めてアウェーカーらしい決着の付け方だ。


「男ってのはどうしてこう……。皆の迷惑になるから、やるなら外でね」


 何かを諦めたような少女の声を耳に受け、僕達は黙って歩き始める。

 僕等の危険な雰囲気を感じ取ってか、皆が避けるお陰で、出入り口までは人混みを掻く必要が無かった。

 僕が前に立つと、ギルドの自動扉が中央から分かれ左右へスライドする。開かれた外への道を踏み施設を後にすると、劉が、更にウエインが続いた。

 彼女は僕等の行く末を見届けるつもりらしい。

 ギルドの外へ出てスラムめいた街区の、薄汚れた中央道へ立つ。

 劉と僕は一定の距離を取り、そして向かい合った。

 アウェーカー同士の喧嘩はそんなに珍しくないので、わざわざ見物に来る物好きもいない。

 昼間でも車両の通行が皆無な道路で、僕達はもう一度睨み合う。

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