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話の38:発見、追跡、いざ外へ(+壱)

 ほぉ〜んと、雨ってやぁねぇ〜。

 ジメジメするし、気分は暗くなるし、服がけちゃうし。

 晴れてくれれば、質はかく品揃えだけなら豊富なオーベールの街で、ウィンドウショッピングが出来たのにぃ〜。

 気分転換とぉ、憂さ晴らしとぉ、暇潰しとぉ、精神の充足が一挙に出来る画期的な娯楽よぉ。

 でもぉ〜、酸性雨が盛況じゃぁ行けないわよね。濡れるの嫌だしぃ。

 あ〜あ、お陰で特にやる事もなし。退屈だわぁ。

 日がな1日部屋の中にこもってたら、緑色のかびが生えちゃう。

 でも他にやる事なんてないのよねぇ。これがクリシナーデ領区なら、御仕事がい〜っぱいあるんだけど。

 他人ひと様の御屋敷でお客さんしてると、とことん手持ちぶたさだわ。

 適度に暇ならいいけど、こんなに暇だと嫌んなっちゃう。

 あんまりやる事がないもんだから、屋敷の中を徘徊はいかいするしかないじゃないの。

 此処は随分と広いけど、流石に3日も歩き回ってみると構造を把握しちゃうわよね。

 もぉ目新しい物はないから、アタシを楽しませてくれるような事もないし。

 はぁ〜ん、溜息が出ちゃう。


「あら?」


 前方数m先に、見覚えのある後ろ姿。

 あの蒼い髪は赤巴せきはちゃんだわ。

 この通路の先へ向かってるみたい。でもぉ、あっちにあるのは車庫だけよねぇ?

 こんな雨の日にお出掛けかしら。ちょっと付いて行ってみましょ。


 イスラエル様とやらの御屋敷って、お姫様のトコと違って洋風作りなのよね。

 床も壁も天井も、何処を見ても木目はナッシング。押し固めた硬材が、同じ様相を以って全てを満たしてる。

 吹き抜けの通路はないし、出入り口はふすまじゃなくて全部ドアだし、寝所にはベッドだし。

 ちょっと固い感じはするけど、これはこれでイイわよ。アタシ、こういうのも好きだわ。


 この通路は一本道。左右の壁には緑豊かな風景画が飾られてる。

 かつて存在した地球の姿を描いた物達かしら。以前見た事のある記録映像に、こんな場所があったもの。

 でもこっちの道に来る人は殆ど居ないのよね。だから飾られてる絵画の数も少ないわ。

 何せ此処から行ける車庫にあるのは、領外移動用軽車両ランドクルーザーだけだもの。

 赤巴ちゃん、領区の外へ何しに行くのよ?


 思ったとおり、赤巴ちゃんは車庫に用事があるみたいね。

 通路の突き当たりに設けられた扉を開けて、中へ入っていったわ。

 勿論、アタシも後に続くわよ。何か面白い事をやろうとしてる、そんな予感がする。こういう時のアタシの勘は、よーく当たるんだから。

 据付扉のドアノブを回して外側へ押し開けば、其処はもう目的地。

 廊下と比べて明度の落ちた空間は肌寒く、常時の来客を想定していない事は明らかよ。

 でもこの中には、数台からなる領外移動用軽車両ランドクルーザーが置かれている。

 四つの頑丈なタイヤに無骨な車体、強化性の防護硝子と重厚な装甲で護られた車両がね。

 緊急時には脱出用にも使われるんじゃないかしら。


 並べられた車両の1つ、最も扉寄りの場所へ停められていた車の傍に赤巴ちゃんが立っている。

 上開き式のサイドドアを開けて、今正に運転席へ乗り込もうとしてるわ。


「あら〜、こんな日にドライブでも行くのぉ〜?」


 アタシが呼び掛けると、赤巴ちゃんはシートに腰を下ろした状態で首だけを向けてきた。

 彼の顔は普段通り、凪いだ湖面みたいな無表情。別段驚いてる風でもないわね。


「タレス、何時から僕のストーカーになったんだ」

「や〜ね、誤解よぉ。暇を持て余してブラブラしてたら、偶然赤巴ちゃんを見掛けたの」

「だからけてきたんだろ」

「あは〜ん、まぁねぇ〜」


 非難はないけど呆れてる感じの赤巴ちゃんへ、ウィンクを1つプレゼント。

 だけど残念。何時もと同じで無反応だわん。

 折角可愛い顔してるんだから、もっと笑えばいいのにねぇ。

 それにあの右目よ。額近くから瞼を通り、頬にまで達す三つの爪痕。昔アクトレアにやられた傷らしいけど、眼帯なり包帯なりで隠したら、今より取っ付き易くなると思うんだけど。


「それで、何処に行くのぉ〜?」

「イスラエルに仕事を任されてね。ロシェティック領区まで行ってくる」

「あら? あそこは叩っ壊されて、なーんにも無いんじゃないの?」

「まだ住んでる者が居るらしい。色々と聞いてくるよう言われたんだよ」

「ふ〜ん」


 インフィニートに襲われて壊滅させられたロシェティック領区。そこに生き残りがねぇ。

 濡れるのは嫌だけどぉ、ちょっと面白そうじゃない。

 どうせ此処に居たってする事もないし……うふ、付いて行ってみようかしら。


「外にはアクトレアがイッパイよ。1人だけで行くつもり?」

「僕は元々1人っきりで戦ってきた。誰か護る必要がある時でもなければ、特に協力者は要らないさ」


 そういえば、赤巴ちゃんて元傭兵アウェーカーだっけ。

 この月で一匹狼気取ってたんだわ。ん〜、それだけ自分の力に自信があるのね。事実、強いからいいんだけど。

 でもでも、このままじゃアタシが退屈で死んじゃうわ。彼の気持ちはこの際ドーデモいいのよ!


「あら、だからって単身動くのは危険だと思うけどねん。もう1人ぐらい居た方が、何かと便利じゃない?」

「……付いてきても、楽しい事なんて無いんじゃないかな」


 思考の時間は僅か。

 アタシの意図を読み取った赤巴ちゃんは、小さな溜息と共に助手席側のドアを開けてくれたわ。

 うふふ、話の判る人って素敵ぃ〜。


「じーっとしてるよりは、百倍マシよん」


 さぁさ、彼の気が変わらない内に乗り込みましょう。

 たまにはこういう気晴らしも、必要よね〜。

 あは〜ん、楽しみだわぁ〜。

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