話の30:破熱の粘性(+参)
今も震動は続いてる。寧ろ少しずつ大きくなってるわ。
さてと、あんまりノンビリもしてられないのよね。
方々に仕掛けといた爆弾が全部爆発しちゃったら、こんな列車木っ端微塵だろうから。
つまりは、このお兄さんも此処でジ・エンドって訳。アタシがわざわざ、好みの男へ直接手を掛ける必要もないわ。
イイ男なんだけどねぇ。ちょっと勿体無い気がするけど、まぁ仕方ないわ。
こういう人の言う事を聞きそうに無い、反骨精神の塊みたいな男を調教して、忠実な奴隷にする快感は堪らないんだけど。
潔く諦めるとしましょ。
遊んでる暇もないし、ライナちゃんとあのお姉さんを回収して、さっさとトンズラね。
「それじゃ、早いところ行きましょうか」
ライナちゃんったら、ボロボロにされちゃって返事も出来ないみたい。
意識は失ってないみたいだから、アタシの声は聞こえてると思うんだけど。
流石に自分の足で立って歩くのは無理そうねぇ。仕方ないから、担いであげるわよ。
あ〜ん、か弱い乙女のアタシに、こーんな力仕事させるなんて。まったくぅ、やんなっちゃうわぁ。
「暫く治療は出来ないけど我慢してね。間違っても、途中で死んじゃったりしないでよ? 死体の処理が面倒だから」
目だけが微かに動いてる。何か言いたそうだけど、心が読める訳でなし、アタシには何も判らなくってよ。
文句なら、元気になってから言って頂戴。
んーっしょ。
あらあら、随分と軽いわねぇ。楽に肩へ担げちゃった。
ちゃんと御飯食べてるのかしら? 必要ないのに、ダイエットなんてしてるんじゃないの?
ふぅ。それにしても参ったわねぇ。血だらけじゃない。
お陰でアタシの素敵なお洋服にまで血が付いちゃう。はぁ、これはもう着れないわ。帰ったら処分しなきゃ。
結構気に入ってたんだけど。残念。
これもお仕事なのよねぇ。我慢しなきゃ。でも、ふぅ〜、だわ。
それで次は、あっちのお姉さんと。さっきからピクリとも動かないし、完全にノビてるみたい。
あっちも担がなきゃだわ。
ほ〜んと、乙女向きの作業じゃないったら。こんな事なら、ジークちゃんに任せておけばよかった。ライナちゃんと一緒なら、大喜びで参加したでしょうからね。
ま、今更悔やんでも後の祭り。実りの無い思考は、この辺にしときましょうか。
「待つザンス」
あらぁ?
「このまま行かせは、せんザンスよ」
あらあら、お兄さんたら、無理しちゃって。
右脚だけで踏ん張って体を支え、強引に上体を起こしてる。しかも残った左手には剣を握ってるじゃない。
そんな姿になってまで、アタシを止めようというのかしら。
本当にイイ根性してるわ。此処で終わらせるには惜しいわねぇ。
でも、情けは禁物なのよ。そうでしょ?
「ごめんなさいねぇ。アタシ急いでるから、お兄さんの相手はしてあげられないの。ん〜、ザ・ン・ネ・ン」
右肩にはライナちゃんを乗せてるから、使えるのは左手だけ。うふ、それで充分。
アタシには、貴方がどのタイミングで攻撃してくるか『判ってる』のよ。だから先んじて動きを封じるなんて余裕だわ。
左手に持った天使の口付け、その狙いを定めて引き金を引く。
必要なのは1発。
「がッ――」
銃口から放たれた炸裂式4GA粒弾が、お兄さんのお腹に大命中よ。
お腹のど真ん中に風穴開けられて、吹っ飛んでちゃった。そのまま1番遠くの壁にぶつかって、漸く動きが止まる。
はい、お終い。
う〜ん、片手でやると、やっぱり反動が大きいわね。でも耐えられない程じゃないから問題なし。
ああん、だけど溜息が出ちゃう。イイ男を撃つなんて気が引けるわぁ。
「幾ら今後に関わる大事なミッションだからって、アタシを鉄火場に引っ張り出すのはコレッ キリにして欲しいわよ」
思わず毒づいちゃうわ。
そもそもアタシは裏方専門で、実行部隊じゃないもの。これはアタシ本来の仕事とは真逆よぉ。その所為で、こんなに心が傷付くんだもの。ホントにもう止めて欲しいわ。
はぁ、早いトコ終わらせちゃいましょ。
震える壁や床、それに天井。あちこち軋んで、いや〜な音と立ててる。あちこちの爆弾が順次爆発してるのね。
いい感じに順調よ。
後はアタシが注意しながら進んでっと。
「あは〜ん、オープン・ザ・ドアー」
お姉さんを担ぐ前に、天使の口付けを壁へぶっ放し〜。
至近距離で撃ったから衝撃は半端無い。破砕した壁は即席で外への出口となる。
これでOK。
「は〜いはい、お姉さんも行きましょうね。……それにしても、本当にこの子が伝説の勇者様なのかしら? アタシには普通の女の子にしか見えないけどぉ」
っとぉ、考えるのは後回しにしときましょうか。
お姉さんも担いで……あら、こっちも随分軽いこと。
「じゃぁね〜、バイバ〜イ」
振り返って見ても、お兄さんは倒れたまま。
心残りはあるけれど、ウィンク1つで別れとしましょ。
さあ、脱出よ。