話の3:すわ!仲間集め(二)
最初は女かと思った。
いや、マジで。
自動式の扉が開いたら、その音を聞いて、つい入り口へ目を向けてしまう。条件反射というやつだ。
昔からそうだった。
いちいち物音が気になるような神経質な質じゃないが、建物内外を隔てる扉の開閉音には敏感なんだ。
何でか?大凡の見当はつく。ガキの頃の習慣ってやつだ。いや、習性か。
まぁそんなのはどうでいいんだが、そのお陰でソイツを見付けた訳だ。
まず目が行ったのは蒼い髪。
月じゃ見れないが、海か空か。そんな色をした髪に、自然と目が釘付けになった。
ロングって程じゃない。精々がセミショートって所。後ろはうなじに掛かるし、前髪は瞼近くまで伸びていた。
そのまま視線は顔へいく。女は顔じゃないと判っちゃいるが、ついつい見ちまうのは男の性だろ。
したらビックリよ。遠目にも美人だと判った。
眼鏡を掛けちゃいるが、それでも隠しきれやしない。驚くほど整った顔貌。それに雰囲気が、何とも言えない妙味を与えてやがるのさ。これはマジモンだと思ったね。
今まで多くの女を見てきたし、美人と呼ばれるような奴等も何人か知ってる。だがそれを一瞬で忘れちまうような、ソイツはそんな上玉だった。
絵に描いたような美少女ってのか。比喩とかじゃなく、本当に息を飲んだぜ。
俺個人の好みの問題ってのもあるんだろうけどな。
さて、その美少女だが俺よりも背は低い。ま、俺と同じぐらいの背丈した女なんてそうそう居ないんだから、それも当然なんだが。
大体165前後だろう。標準よりは高いと思う。
身に付けてるのは黒いジーンズとスニーカー、上着は白いワイシャツ、それもやや大きめときた。裾は全部出してて、胸元の第1ボタンを外してる。
首に金のロザリオを提げてるが良く見えたな。
ざっと観察し、自己採点モード起動。答えはすぐ出たさ。文句無く100点だ。
ぶっちゃけモロ好み。
年は17、8だろう。全然OKのストライクゾーンだぜ。
と、なれば、声を掛けない訳にはいかない。
この出会いは正に運命、神様が俺に彼女を口説けと言ってるのさ。そう信じて疑わなかったね。
俺は無神論者だが、そんな細かい事はどーでもいい。
ギルドは初めてなのか、キョロキョロと辺りを見回しながら歩いてた。初々しさに顔もニヤけるってもんよ。
こんな所に用があるのはアウェーカーぐらいだろうし、慣れない様子からして遺跡探索の前準備ってとこだろう。
それなら同業者として極自然に、違和感なく、堂々と声を掛けられる。協力者を求める風にしてな。
勿論、それは嘘じゃない。俺も仲間を集めようと思って此処へ来てたんだ。だから丁度良かったのさ。渡りに船ってやつ。
ただ、どうせ声を掛けるならムサイ野朗よりも、俺好みの可愛い子ちゃんの方がいい。そこへ彼女が現れた。
これを運命と呼ばず何と言う。
そして俺は美少女へ近付き(何回が呼んだがナカナカ気付いて貰えなかったぜ)、自らの好青年さを存分にアピール。
右も左も判らぬような不安気な彼女の心、そいつを見事に鷲掴みという確かな手応えを感じた。
しかし、しかしだ!
嗚呼、何と言う運命の悪戯か。
なんと俺的ナンバー1な絶世の美女が、実は『男』だったという衝撃の事実!!
勿論、最初は信じなかった。てか、信じたくねぇだろ。
だが眼鏡を外した彼女の顔を良く見たら、確かに男のような、そう見えなくもない、でもやっぱり美少女のような、ていうかどう見ても女だろ……
判ってるよ。俺は現実を真摯に受け止められる男だ。
確かにショックだが、それが事実なら真っ向から受け入れるさ。ああ、そうとも。
顔を見るフリして、上から服の中覗いたら、本当に胸なかったからな。
落胆? 失望? 驚愕?
その時の俺の気持ちは、誰にも判らないだろう。言葉にだって出来やしない。
バカヤロウ、違う。これは涙じゃない。心の汗だ。
そんな俺の傷心を労わってか、彼女モトイ、ソイツは何も言わず静かに去ろうとした。
だが俺は鋼の魂故に素早く持ち直し、ソイツを止めたぜ。
何故ってそりゃ、ソイツと一緒に遺跡へ行く為さ。当然だろ。
確かにソイツは俺の理想の女じゃなかった。けれども共に戦う仲間になっていけない道理はない。
俺が最初にソイツへ目を付けたのは、何よりもまず、並々ならぬ何か大きな力を感じたからだ。
本当だぞ!
本当だからな!!
本当に本当だ!!!
だからこそ、俺はソイツと共に行こうと思った。
俺の直感が告げてるのさ。コイツと組めばデカイ仕事が出来るってな。
アウェーカーとしての俺の嗅覚が嗅ぎ取ったんだ。成功の臭いを。
フッ、こうなったら、共に行くしかないだろ。
男なら一山当てて、名を売る為に!
負け惜しみじゃねぇよ!
未練たらしく付き纏おうと思った訳じゃないんだからな!