話の26:闇へ響く声(+1)
暗い。
何も見えない。
此処は何処?
私は何故、こんな所に居るの?
憶えているのは、アクトレアに脚を潰され、胸を貫かれた事。
その後に全ての魔力を腕に込めて、奴の顔面に打ち込んでやった事。
手には確かな感触がある。渾身の力で作り出した炎と共に、アイツを殴り付けた感触。
あの時、奴の顔に拳を叩き込んだ瞬間、燃え盛る炎が爆ぜて視界を覆った。
そこで、私の意識は消えた。
次に気付いたら、此処だ。
この果てしなく暗い世界に居た。
闇だけの世界。何も見えないし、何も聞こえないし、何も感じない。
そうだ、何も感じない。
痛みも、苦しみも、今は何も無い。
本当なら、死んでいてもおかしくないような傷の筈。神経が麻痺して、何も感じなくなっているだけだろうか?
確かに、意識ははっきりとしているけれど、体の感覚はない。
手足を動かそうとしても、その意思が伝わっている感じがしない。
この闇の所為なのか、自分の体すら見えない。
…………もしかしたら、此処は死の世界、なのだろうか。
私はとっくに死んでいて、これは魂というか、精神というか、そういう物が見ているだけなのかも。
よく聞くお花畑だとか、三途の川だとか、閻魔大王だとか、そんなものは一切ないけど。
ただ暗いだけ。熱くもなく、寒くもなく、暗いだけ。
怖い?
……ううん。不思議と怖くない。寂しくも、悲しくもない。
やっぱり、もう死んでしまっているから何も感じないの?
判らない。これから私はどうすればいいのか。どうなるのか。何も判らない。
それなのに不安じゃないし、恐ろしくもない。
本当に不思議だ。今までにないぐらい、落ち着いている。
これが無の境地というものだろうか。
…………て…………
何か聞こえた。
此処に来て初めて、何かが聞こえた。
でも耳で聞いている感じじゃない。もっと別の、肉体を介さずに直接届いてくるような。
魂に、響いている?
………き………せ………
やっぱり聞こえる。
誰かの声だ。ボソボソと囁くような、呟くような微かな声だけど。
確かに聞こえる。
……こき……う……そう……らお……
何かを伝えようとしているみたいだ。
いったい何を?
それに、これは誰?
何処に居るの?
……故郷……
……災厄……
……戦……
……生命……
……強奪……
……創世……
……滅亡……
……我等……
……復讐……
……追跡……
……時間……
……永久……
……青……
……贄……
……報復……
……死……
……封器……
……敗北……
……最下……
……拘束……
……力……
……消滅……
……願……
……未達……
……同胞……
……自壊……
……天球……
……解放……
……否……
……断……
……否……否……否……否……否……否……否……否……否……
単語ばかりで意味はよく判らない。
でも何か、とても重要な事を言っている気がする。
何かを強く訴えているような。
この声を聞いていると、奇妙な切迫感を覚えるのは何故?
あんなに真っ平だった心に、今は細波が立っているよう。
重苦しい、息苦しい。見えない力に押し潰されそうだ。
これは、なに?
……我等……設……機能……停……
……否……否……否……否……
苦しい。
苦しい。
何も考えられない。
苦しい。
嗚呼、また意識が……
遠退いて……
いく……
……我等ノ設ケタ機能ヲ停メルナ……