話の24:Interlude
『ナンバー0622、ナンバー0623、ナンバー0624、ナンバー0625、結果は良好』
『いい感じじゃない?05番台よりいい数値が出てる』
『随分と性能を引き上げたからねぇ』
『でも、その所為で精神の方がちょっと。私はそっちが心配』
『基礎人格のまま、どこまで力が引き出せるか調べる必要はあるからな』
『情緒不安定の兵器かよ。暴発して全部吹っ飛ばしちまったら目も当てられねぇな』
『試験運転の間だけよ。実用段階前に初期化して、書き換えるんだから問題ない』
『……嫌だよね、こういうの』
『けっ、下らねぇ感傷なら余所でやれ』
『ちょっとアンタね、そういう言い方って無いんじゃない? 静江は心優しいの。アンタと違ってね』
『へっ、そんなもん此処じゃクソの役にも立たねぇよ。そんなに嫌なら、抜けりゃいいだろぉが』
『それが出来ないから愚痴が出ちゃうんでしょぉ? ま、ぼかぁ今の仕事気に入ってるから、文句はないけどねぇ』
『無駄話はいいわ。さっさと次の実験を始めましょう』
『戦争は終わったが、大戦期に作り出された兵器は残ったままだ。特に危険なのは』
『次世代品種だろ』
『ああ。彼等を戦う為に生み出された破壊の力だ。平和な世の中では無用の長物、野放しには出来ない』
『だから俺達が働いてんじゃねぇか。世界平和の為、だぜ? 随分とスンバラシイ仕事じゃねぇの』
『言う割には不服そうだな』
『テメェの女房程じゃねぇよ』
『耳の痛い話だ』
『同じ女でも、奴さんとは大違いだ。アイツはテメェの腹からガキの大元引っ張り出して提供してんだぜ? しかも顔色1つ変えねぇで弄繰り回してやがる。爪の垢でも煎じて飲ませてやれよ』
『すまないな。例え本人の意思とは言え、静江を巻き込んだのは俺だ。糾弾されるべきは、俺だよ』
『ウジウジ悩むのはテメェの勝手だがな、俺様の前で泣き言言うんじゃねぇ。黴が伝染る』
『ふっ、お前なりの激励、有り難く受け取っておくよ』
『けっ!』
『……なぁ、高木』
『あぁ? んだよ』
『俺達、間違ってないよな?これは正しい事、なんだよな』
『そんなもん知ったこっちゃねぇさ。俺様達が悩む問題でもねぇ』
『そう、か……』
『だがよぉ亮治』
『うん?』
『俺様達は引き返せねぇぜ。此処まで来るのに、どれだけの犠牲を出してきた?今更後戻りなんざ出来ねぇんだよ』
『ああ、そうだな。そうだ』
『正しいかろうが間違ってようが、俺様達はもう突っ走るしかねぇのさ。1度始めちまったコイツが、どんな形にせよ終わるまでな。俺様達には、全てを見届ける義務があるだろ』
『……まったく、お前の言う通りだよ。俺達は、歩を止める訳にはいかない。最後まで歩き続けないと、な』
『ナンバー0622、ナンバー0623、ナンバー0627、ナンバー0628、廃棄かぁ』
『やぁ、残念。結構イイ線いってたんだけどねぇ』
『はぁ〜、凹めるなぁ』
『らしくないんじゃない、日和ちゃん』
『あのね、あんなの毎日見せられたら、流石のあたしだってブルー入るって』
『あぁ、ちょっとお食事中には見たくない映像だよねぇ……うわぁ、こんなんなってまだ動いてるぅ。内臓って、思ったよりピンクっぽいよねぇ』
『だから見せんなっての!』
『はぁいはい』
『ある程度はさ、なーんか感覚が麻痺しちゃってヘーキなんだけど』
『皆同じ顔だからねぇ。嫌でも慣れちゃうもんだと思うよぉ?』
『あたしもそう思ってたんだけど、あれはなぁ〜』
『グチョネチョのゲチョメチョ……睨まないでよぉ』
『小池さぁ、アンタよく平然としてられるわよね。光瑠みたいに、あの子達は道具だ何だって思ってるの?』
『ん〜、どうかなぁ。ぼかぁ、実家が生肉工場だったからねぇ。挽肉製造過程ってのは馴染み深いだけじゃないかなぁ』
『あの子達を肉単品でカテゴライズ出来るなんてね。ソンケーするわ、あースゴイ。褒めてあげっから、近寄んないでよ』
『割り切って考えなきゃ、やってらんないトコあるじゃないのぉ』
『そりゃ、そーなんだけど。でもねぇ』
『ぼかぁ、光瑠ちゃん偉いと思うよ?大儀の為に私情を捨ててんだからねぇ。中々出来る姿勢じゃないさぁ』
『大儀の為かぁ。だからって自分の子供も同じ存在を、ここまでゾンザイには扱えないわよね』
『……どうしたの?』
『ううん、何でも。ちょっと寝付けなくて』
『そう』
『光瑠は、何してたの?』
『調整槽のチェックよ。最近、空きが多いから、エネルギー配分を変えてるの』
『そっか……』
『そんなに見詰めてどうしたの?寝てるコレが珍しい?』
『可愛い寝顔だなって』
『止してよ』
『この子達、どんな夢を視てるのかな』
『視てないんじゃない?薬で新陳代謝を低下させてあるし、脳は完全に眠ってるから』
『…………』
『脳波パターンもフラット。仮死状態に近いわね』
『……ねぇ、光瑠』
『今度は何?』
『貴女は、辛くないの?』
『何で?』
『この子達は貴女の子供じゃない。それなのに……』
『確かにコレは私の卵細胞を基盤にしてる。だから遺伝学的にはコレと私は母子かもしれない。でもそれだけよ』
『そんな……』
『私は静江みたいに感受性豊かじゃないから、物に同情なんて出来ない』
『この子達は生きてるのよ? 物だなんて言い方』
『そうね。呼吸して、鼓動して、思考して、行動する、確かにコレは生きてるわ。生きている道具だもの。人の形をしていて、人みたいに動くだけの道具』
『光瑠……』
『コレは単なる生体兵器じゃない。知ってるでしょ?それに所詮は使い捨て。用が終わったら処分される運命よ。次世代品種みたいにね』
『だけど……』
『私はね、静江ならいいお母さんになれると思うよ。優しくて、暖かくて、素敵な母親に』
『え? な、に?』
『でも私は無理。誰かの、何かの親になるなんてね。柄じゃないし、そんな気もないし……私は、愛し方を知らないから』
『……光瑠』
『だから私に親の情とかを求められても困るわ。私が出来るのは、精々コレを強くしてやるぐらい。必要とされる間は生きていけるようにね』
『あ、私……』
『下らない話してないで、もう寝たら? それとも亮治が相手してくれなくて寂しい?』
『〜〜〜光瑠っ!』
『はいはい、おやすみ』
『もぉ!……ねぇ、光瑠。あのね、私思うんだけど』
『そろそろ私も寝るから、話はまた今度』
『お節介女よね……嫌いじゃないけど』
『アンタ達は、あんなのの子供に生まれたかった? 私みたいな冷血女じゃなくて』
『ふん、私だって本当はゴメンなのよ。ガキなんて別に要らないし』
『私はただ、自分が欠陥品じゃない事を証明したかっただけ。アンタ達は、その手段でしかないんだから』
『……アンタ達の顔見てるとホント、ムカつく』
『私が此の世で1番嫌いな奴と同じ顔だもの』